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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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同数へ

「フォローありがと」


康太によってもたらされたチャンスを文が逃すはずがない。康太には聞こえない、それどころか近くにいる倉敷にすら聞こえないであろう小さな声で放たれた礼と同時に、文は地面に電撃を這わせる。


その電撃は一瞬地面を走っていく。もちろんその範囲自体は狭くせいぜい十メートルといったところだ。文たちが対峙している魔術師のところまでは届いていない。


だがその地面から黒い物体が浮き出していく。攻撃が一瞬緩んだ隙に発生させられたその黒い砂のようなものは、文の放っている攻撃用の電撃に反応して電撃に沿うように宙へと浮き、相手の魔術師の周囲に集まっていく。


いったい何をするつもりか、相手が黒い物体に警戒するもすでに遅かった。文は相手に防御されることも厭わない強さで魔術師たちのいる一角に強力な電撃を落とす。


魔術師もあの一撃を受けるのはまずいと判断したのか、電気の通り道を作り出し、その電撃を地面へと受け流そうとした。


まるで本物の雷の様に空気を炸裂させながら魔術師たちの間に落ちた電撃は魔術師たちの周りにあった黒い物体を伝導して一気に広がっていく。


当然、まき散らされていた黒い物体の近くにいた魔術師にもその電撃は襲い掛かった。


地面に接しているために威力はかなり落ちてしまっているが、それでも相手を怯ませるには十分すぎる威力を有していた。


攻撃の手がさらに少なくなったことで倉敷と文は一気に攻勢にでる。水と風、そして雷の連撃によって身動きが取れなくなっていた魔術師の一人を飲み込み、完全に意識を喪失させていた。


文が仕込んだその物体がなんであるか、その答えは単純。土や砂などの中に含まれる砂鉄である。


特殊な電撃を地面に流すことで、地面に含まれた砂鉄を地表に浮かび上がらせ、相手の周囲にまき散らすことで雷属性の弱点を補完したのである。


雷属性の弱点は単純、電気の法則にもあるように地面に接してしまっていると電撃を無効化されてしまう可能性があるということである。


今まで康太がそうしてきたように、ほとんどの魔術師がそのような防御法を行う。そしてそれは実際に間違いではなくかなり有用な防御法なのだ。


だが文は地面に砂鉄をまき散らし、なおかつ魔術師の周囲に強い電撃を放つことによって強い磁界を発生させほんのわずかではあるが砂鉄を宙に浮かせる。


放たれ、相手の防御によって地面へと流されるはずだった電撃の一部が砂鉄に伝導し、魔術師たちに襲い掛かったのである。


「なかなかえげつないことをするな・・・」


「これで二人目・・・ようやく同数になったわ。これであとは楽になりそうね」


多数対小数の戦いですら互角かそれ以上の戦いだったのだ。同数同士の戦いになったということで文たちの優位は揺るがないものになったとみて間違いない。


文は一瞬康太のほうを見る。康太は康太で戦い続けている。こちらへのフォローの必要がもうないと理解しているのか、先ほどよりも攻撃の手を強めているように見えた。


もとより康太は半数以上の敵を引き寄せて、囮かつ足止めをするのが目的だったが、もうすでに康太は残った四人も倒すつもりでいるようだった。


さすがは小百合の弟子だと感心するが、このまま康太が全員倒すまで待つつもりもなかった。


「トゥトゥ、さっさとこっちの奴らを倒すわよ。そんでビーの援護に行くわ」


「了解。同数なら負ける気しねえっての!」


先ほどと違い数でも同じとあらば倉敷も負ける気がしないのか、発生させる水の量を増やして一気に相手に襲い掛からせる。


相手も何とか対応しているが、倉敷の広範囲の質量攻撃を防ぎきれなくなっているようだった。


そしてその攻撃に合わせるような形で文が風と雷を起こしていく。大気中に多量に含まれた水分と文によって起こされた風、そして文自身も使用している水の魔術によって上空に真っ黒な雲が出来上がっていく。


そしてその雲の中には文の雷の魔術が増幅される形で内包されている。


水びたしの地面、そして大気中に存在している多量の水、そして雷雲。魔術師たちも自分がどのような未来をたどるのか理解したようだった。


だがだからと言ってその未来を受け入れるわけにはいかない。魔術師たちは協力して周囲に多量の炎と強力な風を作り出して上空にある雷雲を払おうと躍起になる。


当然そうすると倉敷の水を防ぎきれなくなってしまうが、もとより倉敷の作り出す圧倒的な水量を前に回避以外の方法では防ぎきれないともはやあきらめているのだろう。


魔術師たちは強引にでも上空に飛び上がって雷雲を引きちぎりながら自らの安全を確保しようとしていた。


「トゥトゥ、あんたは先にビーの援護に行ってて」


「いいのか?まだあいつら元気だぞ?」


「大丈夫よ、もう終わるから」


文の言葉を証明するかのように、地面にまき散らされていた黒い物体、砂鉄が宙に舞い始める。


その砂鉄は上空に逃げた魔術師たちを追従するように蜘蛛の巣のような形を空中に描いていた。


魔術師たちを中心に引きちぎられていた雷雲から一斉に、地面めがけて雷が降り注ぐ。


何の誘導もされていない雷は地面に落ちていくが、その途中で砂鉄に直撃し、地面には向かわずに再び砂鉄によって作り出された道を通り上空へと昇っていく。


そして雷雲から落ちていった雷のすべてが上空へと逃れた二人の魔術師に直撃する。


逃げることもできず、上空の雷雲に気を取られていたせいで下からの攻撃は完全に失念していたのか防ぐこともできずに下からの落雷の直撃を受けると、意識を喪失したのかそのまま落下していった。


少し離れた場所で上空へと昇っていく奇妙な落雷を見た康太は文たちが勝利したことを確信していた。


文が雷雲を出したのだ。しかもあの奇妙な落雷の形、どうやら文はまた新しい応用の方法を思いついたのだろう。


自分も負けてはいられないなと、身近にいた魔術師に肉薄する。


周りの魔術師もフォローしようと康太めがけて一斉に攻撃を仕掛けたり防御壁を展開したりするが、康太は関係ないというかのように槍を振りかぶり目の前に作り出された障壁めがけてたたきつける。


目の前にある障壁は槍の一撃では破壊することはできなかった。目の前にいた魔術師はほっとしたのもつかの間、自分の肩口から胸に至るまで大きく切り裂かれ、血を流していることに気が付いた。


周りで見ていた魔術師もなにが起きているのか理解できなかっただろう。確かに障壁によって守っていたにもかかわらず、康太の攻撃は障壁をすり抜けるようにして魔術師に命中したのだから。


実際は康太が遠隔動作の魔術を発動して相手を切りつけただけだ。だがこの行動によって周りの魔術師はこう感じただろう。


康太相手に防御は意味がないのではないか、と。


自分の肩を切り裂かれた魔術師はとにかく治療をしなければまずいと感じながら、その傷口をまず止血しようと魔術を発動しようとする。だがそんな悠長な行動をとるには魔術師は康太に近すぎ、そして遅すぎた。


康太が障壁を迂回する形で魔術師に追撃を仕掛けようとした瞬間、周りの魔術師は防御ではなく攻撃を放つが、その射線上に大量の水が流れ込み康太の体を守っていた。


「援護に来たぞー!感謝しろよ!」


「ナイスタイミングだ!もう慣れたもんだな!」


康太は素直に感謝しながら自らの傷を治そうとしていた魔術師に対して槍の連撃、そして再現の魔術によって打撃を一斉に叩き込み気絶させる。


手慣れた行動に倉敷は舌を巻きながらも康太のフォローに徹することにした。


「これで完璧に同数か。あんだけの人数差でよくやったもんだよ」


「いやいや、たったこれだけの戦力差で俺らを相手にしただけ大したもんだ。けど俺らを相手にするならこの倍はほしかったな」


相手の数が自陣の三倍の数であるにもかかわらず、康太たちが互角以上に立ち回れたのはひとえに康太が敵の半数以上を足止めしていたのが大きい。


相手は数的有利を前面に押し出した布陣を取り、康太たちを囲む形での状況を作り出していた。


明らかに多数での戦いになれている相手である。そんな相手に対して一塊になって戦うことは明らかに不利だ。


康太が五人もの人数を文たちの援軍にも回らせずに足止めしたことで、文と倉敷は自分たちの倍の相手をするだけでよくなった。


それでも相手の数的有利は否めないが、大規模な範囲攻撃が可能な文と倉敷であれば攻略は比較的容易である。


これで相手に真理と同程度の実力を持ったものが一人でもいれば結果はどうなるかわからなかった。


康太が五人もの人数を押しとどめることができず、一人を相手にすることを強いられていたらきっと人数差に押しつぶされていただろう。


五人もの人数をほぼ一人で足止めした康太だが、やはりまだ実力不足が否めないのかフォローをもらった状態で一人しか倒せなかったのだ。


この結果は康太としては少々、いやかなり不満だったがこれも自分の実力不足であると素直に認めるしかなかった。


三倍もの人数で攻めたにもかかわらずその人数差を覆されてしまった魔術師たちは軽く絶望してしまっている。


戦闘能力が突出した魔術師に対して、汎用性の高さを求められた一般的な魔術師が挑めばどのような結果になるのか、それが今の現状だった。


だがこのような状況でもまだあきらめていないのか、魔術師たちは戦う姿勢を見せ続けている。


そんな姿勢を見せられれば康太たちとしても戦うしかない。得られる情報は多いに越したことはない。得られる捕虜は多ければ多いほど情報のすり合わせが容易になるのだ。


康太は意気込んで戦いを再開しようとするが、その中で文があることに気付く。


「ビー、トゥトゥ・・・やっぱりというかなんというか・・・援軍よ」


文の索敵に引っかかった人影、魔力を持ったその存在を感知したことで文は緩みかけていた感情を引き締めていた。


「やっぱりか・・・人数は?」


「四、方角は一つ、こっちにまっすぐ来てるわ」


「・・・本部の可能性は?」


「ないとは言い切れないけど・・・このタイミングよ?」


本部の人間がやってきた可能性も否定はし切れないが、敵をもう少しで倒せるというタイミングでやってきた魔術師。


敵の可能性が濃厚である以上康太たちは目の前の敵を早々に倒したほうがいいという結論に至っていた。


康太は槍を構え、文は電撃を、倉敷は水を作り出して目の前にいる三人の魔術師に一斉に攻撃を仕掛ける。


援軍が到達する前に倒さなければ面倒なことになる。


そのことを理解している三人は一斉に攻撃した。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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