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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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戦闘開始

空中を飛んでから二十分ほどして、康太たちはあらかじめ知らされていたそれらしき場所の上空にたどり着いていた。


山に囲まれながらこの場所だけぽっかりと木々がなくなった、高低差もそれほどない平原に近い空間。


周囲が完全に暗闇に包まれているうえに携帯の電波もそこまでよい場所ではないために絶対にこの場所だとは断言できないが、位置情報に加え下調べした時とほとんど風景は変化していないように思える。


索敵を終えてからこの平野部分には誰もいないことを確認し、康太たちはゆっくりとこの平野に降り立った。


「ベル、人はいるか?」


「人っ子一人いないわね。私たちにとってはいい条件だわ」


「オッケー。トゥトゥ、今何時だ?」


「二十三時二十分、約束の時間まではあと四十分あるな」


少々早く着すぎただろうかと康太と文は考えているが、あらかじめこの場所にやってきておいてよかったと考えていた。


一応は指定の時間よりも早く到着する予定だったとはいえ飛行することがここまで時間短縮につながるとは思っていなかったのである。


歩くのと比べてやはり空を移動できるのはかなりの強みだ、地形に左右されないというのはそれだけ移動速度を速めてくれる。


今日がほとんど無風だったのもよい傾向だったといえるだろう。


「どうする?ここで待つんだろ?」


「あぁ。とりあえずは消費した魔力の補給と・・・あとできることあるか?」


「私はないわね。あらかじめ仕掛けをしてもいいけど、相手から余計な警戒を引き出すのはごめんよ。私たちはあくまでここにこれを届けに来ただけっていう体なんだから」


「こんだけ武装しておいてって気もするけど・・・一応封印指定もどきにかかわることなんだから不思議でもないか」


実際にまだ封印指定になっていないとはいえ、そうなりそうな物品を扱っているのだから最低限の武装をするのはむしろ当然だ。


逆に武装していないほうが怪しく見えるだろう。そういう意味では康太と文のこの格好は適切である。

倉敷が逆に浮いているくらいだ。


深夜零時に約束ということもあって少し時間があった。これは暇な時間ができてしまうかなと考えていた三人だったがその心配は杞憂に終わることになる。


二十三時三十五分、まだ約束の時間までかなりあるというのに文の索敵が人影を感知した。


まず一人、そしてそれに続くような形でゆっくりと広がっていき康太たちを囲むように展開し始めている。


「・・・ビー、トゥトゥ、徐々にだけど囲まれ始めてるわ。一人がまっすぐこっちに来てるけどそれ以外は一定の距離を保ってる。気づいてることに気付かれないでね」


文の索敵範囲の広さは折り紙付きだが、それでもすべての人間を把握できているわけではない。


だがこの人数、相手もそれなり以上に本気でやってきているということだ。康太は先ほどまでとは全く気配も態度も変えずに小さくうなずく。


「了解・・・人数どれくらいだ?」


「・・・確認できてるだけで九人ね・・・結構な大人数じゃない?」


「九って・・・そんな連中一度に相手にしろってのかよ・・・無茶苦茶だ」


倉敷は九人という数に驚いているようだったが、康太と文からすればむしろ少ないほうだと考えていた。


二度と失敗できないような状況になっても九人程度しか派遣してこない。文の索敵にすべて引っかかっている確証があるわけではないが、見せている兵隊の数にしても少ないように思えたのだ。


あくまで本部を相手にしている魔術師にしてはの話だが。


「ビー、あんたその装備の状態で何人まで同時に相手できる?」


「んー・・・相手の魔術によるな。立ち回りとかにもよるけど、五人はこっちに回してくれていいぞ」


簡単に半分以上を受け持つと言ってのけた康太に倉敷は驚き、文は頼りになるわねと薄く笑って見せた。


康太だって相手のことを警戒している。康太の想定として相手の実力は一人一人が自分と同程度、あるいはそれ以上であると考えていた。


康太が本気で挑んで、自分自身に勝てるかと聞かれると微妙なところではあるが、少なくとも時間稼ぎと、相手を数人倒すことはできると考えていた。


こちらの戦力が少ない以上、康太が大人数を相手していれば文が状況を一変させる。康太の戦闘能力は目を見張るものがあるだろうが、文だって魔術師として決して劣っているわけではないのだ。


それに今は文だけではなく倉敷もいる。半分を受け持てばあとは文と倉敷が何とか状況を変えてくれるだろうという確信が康太にはあった。


「ちなみにビー、相手に強い人がいた場合どうするの?」


「・・・姉さん級の人がいた場合は俺が何とかする。けどその場合ほかの奴らの相手はできなくなるからそのつもりで。師匠級の人がいたら・・・確実に勝てないから撤退するつもりで」


康太の戦力分析が身内だというのがなんとも複雑な気分であったが非常にわかりやすいたとえのため文はすぐに康太の考えを理解することができた。


真理と同程度の実力者がいた場合、康太が全力で当たったとしても足止めしかできない。もし小百合と同程度の魔術師がいたらその時は勝つことは不可能ということになる。


冷静な分析だなと文は納得しながらこちらに近づいてきている一人の魔術師に意識を向け、その姿を見ようとしていた。


康太たちの前に姿を現したのは一人の魔術師だ。白と黄色の斑点のような仮面、そしてあまり飾り気のない外套を身に着けたその魔術師を確認して康太たちは互いに頷く。


「約束のものを渡してもらおうか」


流暢な日本語のように聞こえるその言語を前に、康太たちはあらかじめ渡されていた手紙の内容を再度思い出していた。


「一応質問させてくれ。あんたはここに何しにやってきた?」


これは秘密の質問だ。これを応えることができるかどうかで判断が変わる。その問いに相手は一つ息をついてから全員に聞こえるようにその答えを口に出した。


「未来からの使者を受け取りに来た。早く渡してくれ」


未来からの使者。それは副本部長があらかじめ決めた暗号のようなものだ。今回のビデオに収録されているものがターミネーターということもあってそういった表現を用いたのである。


これで確定した。


康太たちは互いに小さく覚悟を決めてからゆっくりと目の前にいる魔術師に近づく。


そして次の瞬間、康太が槍を構え襲い掛かり、文と倉敷は魔術を発動する。


唐突に襲い掛かってきた康太に驚きながらも、魔術師は文と倉敷が放ってきた魔術を回避するために後方へ跳び康太との距離を取ろうとした。


「何のつもりだ!合言葉は間違っていないはずだ!」


「あぁ間違ってないよ。だからお前は敵なんだ」


康太は遠ざかろうとする魔術師に向けて遠隔動作の魔術を使い、離れようとする魔術師の足を掴み態勢を強引に崩す。


態勢を崩された魔術師めがけて文と倉敷の攻撃魔術が追い打ちと言わんばかりに襲い掛かってくる。


電撃と大きな水の塊がたたきつけられるのを見ながら、康太たちは副本部長の思惑通りに話が進んだなと感心していた。


そう、副本部長はあらかじめ康太たちに情報を渡していたのだ。偽の合言葉の情報を流すこと、そして指定のポイントに持っていき受け渡すという依頼を出したが、受け渡す相手などいないということ。


指定の人物を偽装する魔術師がいるのはあらかじめ想定済み、だからこそ偽の合言葉を情報として流し、康太たちが敵だと判別しやすいようにしたのだろう。


「くそ・・・話が違う・・・!どうなってる・・・!」


どうやら文と倉敷の攻撃をぎりぎりのところで防いだのだろう、立ち上がりながらわずかに濡れた衣服を煩わしく思いながらも康太たちをにらんでいる。


「ビー、さっさと引くわよ!取引がばれてるって時点で支部に引き上げたほうがいいわ!」


「わかってる!撤退するぞ!」


あらかじめ想定していた通りのセリフを話す康太と文。これが普通の反応だろうと考えた結果のこの会話だった。


取引に偽者が現れた時点で一度引いて態勢を立て直す。あるいは取引をやり直すのは当然の選択だ。


「逃がすか!」


そして相手がそれをさせないようにするのも想定済みだ。これで相手と戦うだけのまともな理由ができたことになる。


最初から戦うことを想定していたのではないという先入観を相手に与えることができただろう。


魔術師が手を大きく上げて合図を送ると康太たちを囲むように展開していた残りの魔術師八人が一斉に現れる。


聞こえてくる言語は日本語だけではない。中国語のように聞こえる言語やそれ以外、少なくとも康太たちが聞いたことがないような言語も含まれていた。


「日本支部だけじゃないっぽいか・・・?複数支部の人間が集まってるって見るべきか」


「わからないわよ?複数の支部にそれぞれ合同の依頼を出したってだけかもしれないし・・・これが相手の総戦力とも限らないわ」


「厄介だよな・・・で?半分は任せていいんだっけ?」


「あぁ、五人はこっちで受け持つ。残りは任せた。戦闘能力がやばそうなやつはこっちに誘導してくれていいぞ」


「誘導って・・・どうやるわけ?」


「任せる。ベルなら何とかしてくれるだろ?」


なんとも大雑把な信頼だなと文はため息をつきながら手に持っているアタッシュケースを強く握りしめ、周囲を警戒し始める。


だが何とかできなくもない、相手を誘導するというのはそれだけ康太に対する脅威度を上昇させればいいのだ。


相手に康太を倒さなければ面倒になるという考えを植え付ければいい。あとは必要な数の魔術師を康太が選別して請け負うだろう。


文は頭の中で考えを巡らせながら周囲の魔術師たちの位置関係と内包している魔力量を確認していた。


「トゥトゥ、ベルは任せたぞ。こっちはいっちょ暴れてくるからな!」


「はいはい、できる限りのことはするよ」


倉敷はそういいながらも体の中で魔力をみなぎらせてその体の周囲に水の塊を作り出している。


戦闘態勢にすでに入っているのだろう、高い集中を維持しようと深呼吸している。これから長時間戦うかもしれないのだ、まずは落ち着くのは重要なことである。


「それじゃ行くか・・・!」


何かを合図にしたかのように襲い掛かってくる魔術師めがけて三人は各々魔術を発動した。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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