いつもの呼び出し
「というわけで手伝ってもらうぞ倉敷君」
「・・・またか・・・またか・・・!」
学校の昼食時、倉敷のクラスに赴いて手招きをした時点で倉敷はかなりいやそうな表情をしていたが、屋上に連れ出して満面の笑みでこのように告げた康太に対して大きくうなだれてしまうのはある意味仕方がないだろうか。
「とりあえず康太との約束は今年度で終わりなんだし、これが最後だと思っていっちょ頑張ってくれると嬉しいわ。お願いね」
毎度のことながらまともな説明もせずにただ手伝ってもらうといわれるのももはや何度目だろうか。
倉敷は額に手を当ててうなだれながらも、康太との約束も今年度中ということもあって頼み事も多分今回までだろうと割り切っている節もあった。
倉敷からすればこういったことに巻き込まれること自体がかなりいやなのだろうが、それも最後かと思うと少々感慨深くもあった。
不思議な気分であるのは間違いないが、彼からすれば解放されるということもあって喜びのほうが大きい。
「で、今回はいったいなんだ?誰を相手に戦うんだ?」
「戦う前提っていうのがなかなか切ないところがあるけれども・・・今回はちょっとしたグループだな。本部にちょっかい出した連中だ」
協会の支部のつながりでさえ希薄な倉敷にとって、本部にちょっかいを出した相手というのは脅威度をうまくイメージすることができずにいた。
そもそも本部がどの程度の実力を持っているのかもあまり知らないのである。説明されてもきっとうまく理解できないだろうがそのあたりは置いておくことにする。
「ふぅん・・・で?規模は?実力は?達成条件は?」
「あんたも慣れてきたわね・・・規模は不明。実力はおそらく高い。達成条件は可能であれば相手を倒して捕縛。不可能ならば私たちが持ってるちょっと特殊な物品を守りきるってところかしら」
文の説明に倉敷は明らかにいやそうな表情をしてしまう。
戦闘があるというのもそうなのだが、戦闘経験豊富な文が相手の実力がおそらくではあるが高いと評価したことで今回の難易度がかなり高いであろうことを察してしまったのである。
少なくとも簡単にいく任務ではないのは想像に難くない。何せ康太や文がすでに相手を倒せないことを想定に入れている時点で今までにはないパターンだったのだ。
「お前たちが負け勘定を入れるほどの相手ってことか・・・いったいどんな奴だよ・・・」
「それがわからないから釣り餌代わりになるんだよ。俺らの今回の目的は囮であると同時に相手に噛みつく番犬だ。本部が相手の情報を掴めばそれでよし。俺らが情報を掴んでもよし。まぁ取れる手段はいくつもとっておこうってこと」
「いやな予感がするってことだけは理解したよ・・・それで?俺は戦闘に参加すればいいのか?それとも補助に回るか?」
倉敷の問いに康太と文はどうしようかと悩んでしまっていた。
常日頃から一緒に訓練している者同士であれば相手の実力もある程度把握できるために状況をしっかりと任せることができるのだが、倉敷の場合一緒に訓練するということはまずない。
何度か一緒に行動したことである程度戦えるということは理解しているのだがどの程度の実力を持っているのか正確に測りきれないところがあるのだ。
「どうしましょうか・・・ぶっちゃけフォローに回ってくれるだけでもいいけど・・・康太は?なんかやってほしいことある?」
「そうだな・・・水・・・水かぁ・・・ぶっちゃけ俺とは相性良くないから文と組んでの行動になるのかな・・・?」
「つーかお前らさ、人にものを頼むくせに頼む内容を考えてないってどういうことだよ。せめてそのあたり考えてから話持って来いよ」
「いやすまん、とりあえず声かけとくかって感じで呼んじゃった」
「うん、なんかいたらいたで役に立つだろうと思ってとりあえず声かけちゃったわ・・・そこは謝るわ」
特に何も決まっていない状態でもとりあえず倉敷は呼んでおいて損はないという考えが康太と文の中にあったのだ。
倉敷は精霊術師ではあるがそれなり以上に優秀だ。文の師匠である春奈のもとで時折訓練をしているということもあって水属性の扱いに関してはかなり高い実力を有している。
文の所有する魔術との相性もあって、いて損はない存在なのだ。
「じゃあ、俺はあれか、とりあえず鐘子と一緒に行動しろと?」
「んー・・・そういえばポジションも何も考えてなかったな・・・俺がオフェンスなのはいつも通り、文と倉敷はディフェンスとフォローを頼むか」
「そうね、倉敷にメインのフォローをさせて、私が要所要所で康太をフォローするわ。そのほうが的確に攻撃も防御もできるだろうし」
康太との連携であれば文はある程度ぶっつけ本番でも合わせる自信がある。その時の状況から康太がやろうとしていることを予測して魔術を発動できるために、打ち合わせなしでも高い連携を発揮できる。
だが倉敷はそういうことはできないために邪魔にならない程度に攻撃と防御を繰り返してもらう形となる。
多少雑な扱いになってしまう感は否めないが、倉敷の場合大量の水を発現できるだけの術を有しているために状況を一転させられるだけの一手を持っているために多少放置していたほうが事態を好転させやすいと判断したのである。
この判断が正しいかどうかはさておき、綿密に連携の方法を決めるよりもある程度自主的に行動させたほうが美味くいくと思っているあたり、康太は小百合の弟子らしい思考をしているというべきだろうか。




