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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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完全装備

「・・・物々しいわね・・・これ全部あんたの装備?」


「おう、ちょっと張り切っちゃってな。久しぶりにフルアーマーでの戦闘ができそうだ」


今後の打ち合わせと訓練のために文が小百合の店を訪れ、地下に置いてある康太の装備を見て完全にドン引きしていた。


普段の康太の装備もそれなりに物々しいが、今の康太の装備はいつも以上にえげつない量になってしまっている。


普段の康太の装備がいかに簡易版であるかを見せつけられるかのような光景だ。ぱっと見るだけで殺傷能力が高い装備がいくつもあるのが見て取れる。


「まぁ・・・そういえばあんたがちゃんと装備をそろえてるところってあんまり見たことなかったわね」


「まぁな。あんまり装備とかを持っていけないときとかあるし、こうやって完全に警戒してる装備っていうのはなかなかできないからな」


康太はそういって魔術師の外套を身に着けた後で各種装備を身に着けていく。


ウィルにも手伝ってもらって数分後に出来上がったのは完全武装状態の康太、魔術師ブライトビーの姿だった。


外套に付属されている装甲に加え、各部位に取り付けられた後付け装甲。そして康太が個人的に用意した明らかに攻撃を意図して造られた道具の数々。


さらにウィルを体に纏うことで防御も攻撃もこなせるようになっている。明らかに戦うための装束だ。


これを見て材料の採取に来たと思うようなものは少ないだろう。


「こうしてみると魔術師の格好には見えんの・・・機動戦士が頭につきそうだ」


その様子を観察していたアリスが康太の姿を見てそうつぶやく。確かに魔術師の格好とは口が裂けても言えない。


明らかに鎧のように見えるいでたちに加え槍を持っているところから騎士や戦士の様に見えてしまう。


アリスの言う機動戦士というのもわからなくもない。アリスに言われて康太がそれっぽいポーズをとるとなかなかどうしてそれっぽく見えてしまう。


「ビームライフルだ、ビームライフルを持たせよう。あるいはハイパーバズーカでもいい。シールドもちゃんとしたものをだな」


「俺どっちかっていうと実弾系の武器のほうが好きなんだよな・・・ガトリングとかミサイルとかで」


「その議論は後にしてくれる?それで康太、あんたその状態でどれくらい本気で戦えるの?」


「んー・・・装備の消費の状態にもよるけど・・・そうだな・・・三人くらいは本気で相手にできると思う。問題はそこからだな」


康太の本気の戦闘というのは常に康太が所有している装備や武器によって発揮されることが多い。


逆に言えば装備や武器がそろっていなければ康太は本気で戦うことができないのだ。最大の攻撃力を発揮できないと言い換えてもいい。


これだけの装備をもってしても三人までしか本気で戦えないというのはかなり少ないほうだと言わざるを得ない。


無論それは康太が常に全力で戦った場合の計算だ。ある程度残弾に気を配り、相手の特徴などを把握して戦えばもう少し増えると文は考えていた。


「そういう文は?戦う準備はばっちりなのか?」


「私の場合そんなに用意するものはないけど・・・一応今回かなり準備したほうよ。あんたに比べると少ないけどね」


康太に比べて文は装備によって戦闘能力が上下するタイプではない。コンスタントに自分の魔術だけで実力を発揮できるタイプの魔術師だ。


そういう意味では康太よりも安定した実力を持っているといえるだろう。だがそんな文でも今回はいろいろと準備をしてきたようだった。


「文が装備を・・・か・・・なかなか気になるな」


「ふふ、私だっていつまでもあんたにおんぶにだっこになってるわけじゃないのよ。多少はやるってところで見せてあげるわ」


文は自信満々にそういいながら胸を張っている。


文が戦闘で役に立たなかったことなどあまりないが、それでも今回は戦闘重視ということもあってかなり戦闘重視の装備を用意するつもりのようだった。


康太の影響を多大に受けているあたり、文も徐々に康太に毒されていると思うべきだなとアリスはニヤニヤしながら二人を眺めていた。


「時にコータ、フミ、私は今回本当に手伝わなくてもよいのか?」


「ん?だって興味ないだろ?依頼だって来てないし」


「それはそうだが・・・最後の砦くらいは買って出てやってもよいぞ?ただ私が偶然そこにいたという体にすれば・・・」


「それだと、康太へ依頼すればアリスがおまけでついてくるって状況を知らしめちゃうでしょ?今回はアリスは留守番してて。もし協力するならだれにもばれないようにやるべきね」


あんたなら簡単でしょうけどと付け足しながらも、やはり康太と文は今回アリスが協力することはあまり良いと思っていないようだった。


今後の康太の立ち位置という微妙な問題が関わっているだけに仕方がないと思うべきなのだが、アリスとしては少し寂しい気持ちだった。


「まぁ・・・私としてもお前たちの逢瀬を邪魔するつもりはないが・・・いつまでも邪険にされると複雑なものがあるのだがの」


「何が逢瀬よ。一緒に住んでるのに逢瀬もくそもないわよ」


「ちっ・・・フミの反応がつまらん」


一体アリスは何を望んでいるのよと文があきれながら突っ込む。文への返事を未だ保留にしている康太からすればこの会話は少々心苦しかった。
















「来たね・・・副本部長からの指示が届いたよ」


康太と文は支部長の呼び出しを受けて支部までやってきていた。


副本部長から直接来る指示ということで少々身構えてしまうが、どうやらこれからすぐに事をなせということではないらしい。


そういう意味では康太と文は少し安心していた。


「三日後の深夜にこの住所までビデオを届けろって感じだと思う。住所を見たけど、最寄りの教会までは普通に移動できる・・・けどそこから少し距離があるね」


「了解しました。あとで調べてみます・・・目的は?」


「そこにいるとある人物にビデオを渡せっていうのが目的みたいだね・・・そこにいる人っていうのが誰か・・・どんな人なのかはちょっとわからない・・・というか読み取れなかった・・・ごめんよ」


そう言って支部長は康太におそらく紙の入った封筒を手渡してくる。


その中には今回のビデオの搬送先の住所と、ビデオを渡す人物の情報が書いてあるのだろう。


住所は日本のものだ。康太が知らない地名であるために後で調べる必要があるだろう。


というか英語で書かれているために非常に読みにくい。基本的に日本の地名はローマ字読みで問題ないために読めなくはないが、英語で書かれるとどうしても読みにくくなってしまう。


そして康太と文に向けて書いたと思われる手紙の内容も当然英語だ。康太と文の高校一年生の英語力では理解できる単語も限られている。


支部長の英語力も康太たちとそう変わらないのか、本当に最低限の内容しか読み取ることができなかったらしく申し訳なさそうにうなだれている。


いい大人が英語の手紙一つ読み取ることができないという事実に打ちひしがれているのか、単純に子供にいいところを見せることができなかったのが悔しいのか目に見えて落ち込んでしまっている。


これは後でアリスに翻訳を頼まなければいけないなと思いながら康太と文はそれを受け取って小さくうなずいた。


とりあえず三日後の深夜にこれを届ければいいということはわかった。これから準備を進める必要があるだろうが、文はその手紙を見て眉をひそめていた。


「支部長、確認しておきますけど、この手紙は誰から渡されましたか?」


「・・・ん?あぁ・・・副本部長本人からだけど・・・なんでだい?」


「今回の相手、一応協会の内部犯ってことだったので、手紙の改竄くらいはやりそうだなと思って・・・直接渡されたのであれば大丈夫そうですね」


「僕としては英語はあんまり得意じゃないから本部に呼び出されるのは勘弁してほしいんだけどね・・・しどろもどろの英語は恥ずかしいから嫌なんだよ」


「あぁ・・・なるほど・・・わかる気がします」


英語というのは一朝一夕でうまくなるというものではない。たとえ授業などで文法などを理解していてもそれを聞き取れる耳、そして自分の言いたいことを瞬時に翻訳できるだけの言語変換能力、さらにその考えた英語を口にできるだけの発音能力が必要になる。


比較的普通の日本人である支部長も御多分に漏れず英語はあまり得意なほうではないようだった。


康太たちはアリスが近くにいるために自動で翻訳してくれるが、彼女がいなければ可能な限り本部にはいきたくないと思ってしまうだろう。


別に敵対している人間がいるとかそういう理由ではなくて、単純に言葉が通じないから行きたくないと考えてしまうのだ。


言語の違いというのは大きく分厚い隔たりを作ってしまうのである。なぜ世界の共通語が日本語ではないのかと昔から何度考えたことだろうか。康太はそんなことを思いながら話を先に進めることにした。


「副本部長直々の指示っていうなら間違いないだろ。なんかサインとかあるんですか?」


「そのあたりは大丈夫だと思うよ?内容までは読み切れてないけど、サインとその手紙の烙印は間違いなく副本部長のものだ」


支部長もちゃんと見るべきところは見ているようだ。彼が間違いないというのであればこの手紙の出どころは間違いないということで進めても問題なさそうである。


「僕としては指定の場所に持っていくっていうのは反対なんだけどね。ビデオが奪われる可能性はできる限り低くしたい」


「まぁ、最悪の場合破壊していいって言われてるわけですから、そういう意味では多少は気楽ですよ。どうしようもなくなったら容赦なく破壊します」


「うん、そういう意味では人選は完璧だよね。クラリスの弟子ともなれば壊すのには困らないだろうし」


支部長にそのように思われているのは少し心外だったが、実際あの程度のビデオを壊すくらいはわけないだろう。


その気になれば文だって容易に壊すことができる。


二度と再生できないように完全に破壊するとなると少々手間がかかるかもしれないが、確実に破壊することはできるのだ。そのあたりは問題ない。


「・・・まぁ、副本部長がそれをやるように命じたんだ。それなりの勝算があるってことなんだろうし・・・君たちはどうするんだい?指示通りに動くつもりかい?」


「可能ならば援軍を用意しておこうかと思いますけど・・・そのあたりはちょっと相談ですね。手伝ってくれるか微妙なところですし」


だれに手伝いを頼むのか、支部長は少しだけ不安だったが今回は本当に失敗することが協会にとってかなりの不利益につながる。


多少危険な人間だろうと、多少面倒な人間だろうと戦力になる人間を連れることに支部長は何の迷いもなかった。


「とはいうものの、協会内部に犯人がいるのであればそれなりに有名な人物は使わないほうがいいだろうね。間違いなく相手に動きを勘付かれる」


「そこなんですよね・・・そう考えると俺らの師匠はまず無理、兄弟弟子の人たちもアウト・・・姉さんならなんとか行けるか・・・」


「あとはトゥトゥを引き入れるくらいかしらね。あいつも今年度中しか連れまわせないんだからちょうどいいんじゃない?」


「確かに。じゃああいつには明日頼むとして・・・姉さんはついてきてくれるかな・・・?」


今回の相手が協会内部にいて、なおかつ康太の動きをすでに察知しているとなるとあまり有名な人物を連れていくとそれだけで相手に警戒される可能性が高くなる。


小百合や春奈などはその筆頭だ。次点で奏や幸彦なども警戒に値する人間といえるだろう。彼らがいるだけで相手の警戒レベルは三段階上昇するといっても過言ではないのだ。


それに引き換え康太の兄弟子である真理は協会内では基本八方美人を貫いているために敵も少なく、その戦闘能力が高いという話もほとんど聞かない。


トゥトゥに至っては精霊術師であるためにはっきり言って戦力とすら見られることはないだろう。


そういう意味ではこの二人は非常に適した人材なのだが、真理に関しては彼女のスケジュール的についてきてくれるかは微妙なところだった。


「ジョアさんならついてきてくれるんじゃないの?あんたが頼めば一緒に来てくれそうだけど・・・」


「んー・・・最近姉さん忙しそうなんだよなぁ・・・魔術師としての活動っていうよりはどっちかっていうと私生活の方なんだけどさ」


「あぁ・・・そういえばあの人大学生だったっけ・・・?あれ?ひょっとしていま就職活動とかそういう感じなの?」


「忙しそうだしそうかもしれないな・・・さすがに就職活動してる人に一緒に戦えっていうのは・・・ちょっとな」


いくら真理が康太のことをかわいい弟弟子と思っていて、力になりたいと思ってくれていても就職活動真っ最中の真理の邪魔をしようとは思えなかった。


実際私生活が忙しいという情報しかないために本当に就職活動をしているのかも怪しいところなのだが、真理が魔術師として活動しているのを最近見ていないのも確かである。


小百合のところからの卒業試験、そして私生活、さらに神加の近接戦の訓練もやっているのだ、これ以上真理に何かを押し付けるのは康太としてもはばかられた。


「となれば協力できそうなやつはトゥトゥくらいか・・・まぁいいんじゃない?あいつの術なら私と相性はいいし。あんたもうまく立ち回れるでしょ?」


「問題ないな。結局追加戦力は一人だけか・・・あと一人くらいほしかったけど・・・まぁ仕方ないか」


結局同年代三人の協力体制となったこの状況に康太と文は自分たちの魔術師としての交友関係の狭さに少しだけ肩を落としていた。


まだ学生の段階でここまで活動している魔術師の数がそもそも少ないのだから、ある意味仕方がないともいえるのだがそれでも自分たちがいざという時に頼ることができる魔術師が身内以外にほとんどいないというのは少し考えさせられる。


康太の場合身内が身内なだけに仕方がないのかもしれないが、今後もう少し味方を増やす立ち回りをするべきなのだろうかと少しだけ悩んでしまっていた。


「君たちの場合は二人ですでに完成している感があるからね。今更他の人が入る余地はないんじゃないかな?」


「そういってくれると嬉しいですけど・・・やっぱりこのままってわけにはいかないですよ。いざという時に頼れる仲間くらいいないと」


「同盟・・・っていうんじゃなくても・・・なんていうのかな・・・協力体制っていうんですかね?そういうのがあってもいいと思うんですよ」


「といってもねぇ・・・戦闘能力で君たちを上回る実力を身に着けてて、なおかつ君たちと同世代の魔術師なんていないでしょ?少なくとも僕は知らないよ?」


同世代、あるいは近い世代でそういう人間を見つけておくことは大事だ。これから魔術師として生きていくうえで絶対的に交友関係というものは必要になってくるのだから。


魔術師として互いに利用しあうような仲でもいいからそういう関係は必要不可欠なのである。


ちょうど今の康太たちと倉敷のような関係が好ましい。もっとも倉敷の場合は康太に手を出したその報いとして一方的に手伝ってもらっているようなものだが、その関係が解消したら康太たちが逆に手を貸すことだってやぶさかではない。


「まぁ今後の同世代の成長に期待ね・・・っていうか私たちと同い年の魔術師はいまどき何してるのかしら?修業?」


「だろうな。ぶっちゃけ俺らだって基本はそうだろ?こうやって依頼が来るのなんて一カ月か二カ月に一度くらいな気がするぞ」


身内以外での依頼というのは地味に少なく、康太たちが経験した実戦というのはほとんどが身内から派生したものばかりだ。


そう考えると康太たちの魔術師生活も同世代の人間と変わらないといえるのかもわからない。


もっとも、文の様に昔から修業してきた魔術師や、康太の様に去年突然魔術師になったような人間もいる。


同世代といってもそれだけの差が明確に存在しているのだから、もう少し気長に待たないと同世代の魔術師というのは育たないのかもしれない。


自分たちの先輩魔術師を思い出しながら康太と文は小さくため息をついた。


戦うだけが能ではないが、戦えるというだけで選択肢は広がるのだ。それを理解できたのはそれぞれがある程度実力をつけてからだったのは言うまでもない。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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