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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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詳細は後日伝えるという副本部長の言葉に、康太たちは一度支部に戻り支部長に今回のことを報告していた。


支部長自身何か裏があるとは思っていたのか、それとも本部ならそれくらいはするだろうなと考えていたのか、康太の説明を聞いてもそこまで驚くことはなかった。


「なるほどね・・・まさかそんな連中がいるとは思っていなかったけど・・・それで君たちに・・・いやブライトビーに依頼が入ってきていたのか・・・」


「はい・・・納得できるといえば納得できる内容です。本部としての動きもある程度把握できそうですし」


康太の戦闘能力や本部や支部での評価を鑑みれば本部が康太に依頼を出すのも納得できるし、何より自然な流れだ。


おそらく今回本部の注意は康太ではなく、ビデオを狙っている一団に向けられているのだろう。


相手の動向を常に把握したい、あるいは相手の行動に警戒したい。そういう思いがあるからこそ依頼を出すにもことを動かすにもかなり慎重になっている。


「本部を敵に回す・・・かぁ・・・アリシア・メリノス以外ではそういうことをとる魔術師は少なかったからね・・・本部としても警戒するか・・・」


「私は別に望んで敵対していたわけではないぞ?奴らが勝手に私を封印指定にしただけの話だ」


「そうでしたね、これは失礼。とはいえ本部が本気になっているのは間違いないかな。封印指定になりそうなビデオを餌にしているあたりその本気度がうかがえるよ」


「確かに・・・もしあれがそいつらの手に渡った場合を考えるとなかなかリスクが大きいですね・・・アリスへの協力が上手くいけばそのリスクも減らせたんでしょうけど・・・」


「そのあたりはブライトビーたちへの信頼があるんじゃないかな?もちろんアリシア・メリノスに対しての本部の対応というのもうなずける話だけれど・・・あとは個人的に彼女に依頼を出せばその分噂が大きくなってしまうという可能性も視野に入れたのかもね」


今回の依頼はその背景からして、本部が気にかけているグループへの情報漏洩を最も注意しなければならない。


たとえアリスに対してビデオの解析という形で依頼したとしても、そのビデオの近くにアリシア・メリノスがいるという事実を触れ回ることになりかねない。


良くも悪くも康太たちが今までアリスと行動を共にしなかったというのに、それをここで本部が台無しにすることもない。


そういったいくつかの理由が重なって副本部長はアリスに対して依頼を出さなかったのではないかと思われる。


「ただ依頼を出すだけなのになんとも面倒な・・・」


「案外そういうものだよ。どこの誰に依頼を出したから、あの魔術師とのコネができているなとか、逆に良く依頼を出す相手であればあの魔術師たちは依頼だけではない個人間での付き合いもあるのかもしれないなとか、そういうことを考える人はいるさ」


「そういうものですか・・・ちなみに支部長は俺たちに良く依頼してくれてますけど、そのあたりはどうなんです?」


「僕と君たちの場合はあれだね、君の師匠が深くかかわっているかな。周りの意見としてはいざという時にクラリスを止められるようにその弟子を懐柔してるとかそういう風に取られてる感があるかな」


「・・・俺程度で師匠が止められるわけないのに・・・そういうことを考える人はいるんですね?」


支部長が康太を利用するような形で媚を売っているような意見ではなく、師匠である小百合を軽く見ているという事実に康太は難色を示しているようで、その様子に支部長もそっちを気にするの?と不思議そうにしていたが今はそこはどうでもいいことだった。


「いやまぁ構わないけどさ・・・まぁとにかく君たちには後々正式に命令が届くと思うよ。実際どれくらいの相手になるかわからないし、ある程度の準備はしておくのがいいんじゃないかな?」


「そうですね・・・戦闘準備に・・・他にも援軍を出せるところがあれば・・・いや、ぎりぎりまで下手に動かないほうがいいのかな?」


「そうだね・・・本部が動かしてる情報がどの程度なのかわかっていない以上、勝手に動くと本部の邪魔をしかねない・・・自分たちの準備だけにとどめておくべきだろうね」


戦闘準備という言葉で支部長がわずかに強張ったのをこの場にいた全員が感じ取っていた。


今まで康太が本気で戦闘準備をしてから戦った回数というのは実は少ない。


ある程度の準備をすることはある、だが本気で戦いの準備をするというのは案外少ないのだ。


状況によっては武器や道具の類を用意できないことだってあるため仕方がないということもあるのだが、康太が本気になったときの武装がどの程度になるのかは支部長も知らないのだ。


本部が警戒している相手、本部に対して喧嘩を売れる相手というだけあって、康太の警戒度もかなり高い。


本部の人間が周囲を監視、そして件の連中を突き止めるために行動するということもあって康太の一挙手一投足を観測されてしまうだろう。


デブリス・クラリスの二番弟子、戦闘に特化した魔術師ブライトビー。


その実力がどの程度なのか、本部は初めて、本当の意味で知ることになるだろう。


支部長はそれが嬉しくもあり不安でもあった。康太の戦闘能力は小百合に近づきつつある。その事実を本部が知ることがどのような結果を及ぼすのか想像できないからこそ、なるべくフォローをするべきだろうと小さく意気込んでいた。


正当な評価を得られるというのは、いつも良い結果を生むとは限らない。それが最悪の結果を呼ぶことだってあり得るのだから。


「珍しいな、お前がやる気になっているのを見るのは」


小百合の店に帰ってさっそく戦闘準備に取り掛かっている康太を見て、師匠である小百合は目を細めていた。


康太が戦闘の準備をしているというのは別段珍しくはないが、その量と質からして康太が戦闘に対してやる気を見せている、ないし本気で準備を行っているということを察したのである。


状況にもよるのだが、康太が本気で戦闘の準備をするというのは地味に珍しいことなだけに小百合自身もわずかに不思議そうな表情をしてしまうのは仕方のないことだろう。


「えぇ、今回は状況的にも本気で準備できますし、何より相手が結構厄介そうな連中なのでちょうどいいかなと」


「ほう・・・?お前の口から厄介とはな・・・どの程度だ?」


「少なくとも本部の人間にちょっかい出したって感じです。しかも話を聞く限り自分たちの存在をある程度隠すだけの実力を持ってます」


「・・・本部相手にそれができる・・・それをするだけの相手か・・・なるほど、確かに厄介な相手かもしれんな」


小百合としても本部に敵対した場合どのようなことになるのかは理解しているのか、康太の説明に小さく考えるようなそぶりをしてから準備を続けている康太に視線を移す。


「それで?お前たちの戦力はいつも通りお前と文として・・・相手の戦力は?」


「不明ですね。副本部長の情報では複数人と・・・たぶん本部もどの程度の規模の人間に襲われたのか把握できてないんじゃないですか?」


「・・・なるほど、厄介だな・・・本部相手にそれができる連中か」


本部の人間というのは支部の人間に比べて高い技術を持っているものが多い。当然索敵などにも長けたものが多い。


だというのに、ビデオを回収しに行った人間が何人の魔術師に襲われたのかも正確に把握できていないというのは、つまりその索敵を妨害、あるいは阻害できる手段を持っていたということだ。


当時の本部の人間がどのような手段で索敵し、それに対して相手がどのような手段を講じたのかは不明だが、それができるというだけで厄介だということに変わりはない。


「お前の今回の目標は?」


「相手の打倒、あるいは捕縛です。状況によってはビデオを抱えたまま撤退します」


康太が最初から負けることを算段に入れているあたりどれほど警戒しているかがうかがえる。


負けることを戦う前から考えているようでは勝てるはずがないと小百合は一瞬考えたが、康太の場合負けるつもりで戦いを挑むほど無謀ではない。


負けるというのは本当に最悪の場合の想定だ。常に勝つことを考えているからこそ敗北の可能性も視野に入れるのが康太が普段の訓練で培ったものであるようだった。


「後ろ向きなのに前向きとは・・・なんとも妙な感じだな」


「なんかそれ矛盾してません?ちなみに今回の相手に対してアドバイスなどは?」


「ほとんど状況がわからんのにアドバイスなんてしてどうする。余計な知恵を与えるだけかもしれんのに」


それはそうですけどと康太は苦笑してしまう。一応これから戦いに行くかもしれない弟子に対して師匠として何も言わないのはどうかと康太は思ってしまった。


もう少し弟子を大事にしてほしいと思う反面、小百合らしいとも思ってしまうからたちが悪い話である。


「だが・・・そうだな・・・相手の規模などが不明である以上、お前の戦力を常に正確に把握し温存しておくことが必要だろう」


「やっぱり連戦になる可能性があると?」


「あぁ。本部に対してちょっかいを出した後で逃げているということで、相手は攻勢に出る場合かなり慎重になるはずだ。二度と同じチャンスがあるとも限らん。ここで決めにくる可能性が高い」


本部相手に奪取作戦を決行し、それは失敗。その後に支部で同じようなチャンスが生まれた以上、今回の失敗は許されない。


そうなれば相手も今回の接触に全力を傾けてくるだろう。


相手の戦力が不明である以上、連続戦闘になる可能性は十分にある。


無論一斉に襲い掛かるという可能性もあるが、慎重に行動するのであれば何人かは様子見で使用し、相手の戦力を把握してから本命の戦力を投入するというのが適切ではないかと康太は考えていた。


だが相手が全力でやってくるというのは康太からすれば、いや本部からすれば好都合でもあった。


何せそれだけの人間が動けば相手がどこの支部の所属でどのような魔術師なのか把握する機会がそれだけ多くなるということになるからだ。


「まぁ、今回の主目的は相手の情報を探ることであって相手を倒すことじゃないですからね・・・あくまで餌替わりですし」


「餌・・・?お前がか?」


「正確には俺が持つビデオですね。連中はそれが欲しいらしいですよ?なんでか知りませんけど」


「そのビデオは何か価値があるものなのか?状況証拠などが映ったものか」


「いえ、ターミネーターのビデオです」


「・・・なんでそんなものを」


「さぁ?ファンなんじゃないですか?」


小百合への説明が面倒だったために適当にあしらったが、康太は何も嘘は言っていない。


途中の説明を省くだけで今回の相手がただの映画好きになってしまうあたり、説明は大事だなと康太は考えていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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