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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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怪獣アリス

「ところで・・・今回の件にアリシア・メリノスは関わるつもりはあるのか?」


先ほどからずっと通訳に徹したまま話に加わろうとしないアリスを一瞥しながら副本部長は問いかける。

本部としては、副本部長としてはアリスが協力してくれるのであれば百人力だろう。彼女が協力するだけで今回の件は片付いたも同然だ。


とはいえ本人にやる気がなければどうしようもない。


「その辺どうなんだ?アリスとしては今回手伝ってくれるのか?」


「んー・・・正直に言うとそこまでやる気はないな・・・協会の中での派閥なのかビデオそのものが目的なのかは知らんが私には関係がなさそうだし」


「・・・それはブライトビーが協力を打診しても同じ考えか?」


「こやつが頼もうと私が動く理由にはなりえん。私は私がそうしたいから行動するのだ。今回ここに来たのはこいつに通訳を頼まれただけの話。本部の動向も気になったからな」


こうして通訳を買って出て、本部まで足を運んだのは本部の意向の確認という目的があったからに他ならない。


あとは仲間外れにされたのが癪だったからという子供らしい理由も多少は含まれているだろう。


アリスは基本自分本位な魔術師だ。康太や文の頼みならばある程度聞いてやってもいいと思っているがそれはアリス自身も二人の力になってやりたいと思っているからに他ならない。


だが今回の依頼は別に康太や文の進退にかかわっているというわけでもなければ二人から積極的に手伝ってほしいと言われたわけでもない。


むしろ二人は今回アリスには極力かかわってほしくないと思っているくらいだった。そう考えると今更アリスが手を貸す理由が見当たらないのである。


「では、本部から正式にアリシア・メリノスに依頼を出した場合、お前は受諾する・・・してくれるのか?」


「ん・・・それこそ先ほどこやつが言った言葉ではないが内容によるな。あいにく私も暇ではなくてな、他愛ない内容ならば私である必要はないのだから」


毎日煎餅や菓子を食べながら漫画やゲーム、アニメなどを嗜んでいる人物のセリフとは思えないなと康太と文は若干眉をひそめているが、アリスはアリスで本気で忙しいと思っているあたり質が悪い。


日本の文化を知って、趣味が広がってからというものアリスはかなり行動的にその文化に染まっている。


最近ではライブや映画などにも直接足を運ぶということがあるようなそぶりさえも見せている。


漫画の作者の体調が崩れたために休載するという情報を手に入れた時、直接乗り込んで治療しに行こうとしたときはさすがに康太と文が全力で止めた。


基本自分のことしか考えていないため副本部長の頼みがどのようなものなのかはわからないがアリスを説き伏せるのはなかなかに骨が折れるだろう。


「・・・ふむ・・・ではまずブライトビー、並びにライリーベルへの行動を告げておこう。日本支部からビデオを持ち出し、指定の場所まで届けるだけだ。その情報はあらかじめ流すため戦闘がおこると考えて警戒するように」


「了解。流す情報はしっかりとこっちにも伝えてくださいよ?多少対応が変わるかもしれないんで・・・相手は倒していいんですね?」


「可能なら生け捕りにしろ。不可能であれば撃退・・・最悪殺しても構わん。どのような状況になろうとビデオだけは奪われるな」


「わかりました。最悪の場合は破壊させてもらいます」


副本部長からの伝達を受けて康太と文は小さく頭を下げる。


そして話が康太と文からアリスに移る瞬間、副本部長は小さくため息をつく。それと同時にアリスもまたため息をついた。


「腹の探り合いはやめにして・・・アリシア・メリノス、何を報酬にすれば受けてもらえる?内容はビデオの護衛と襲い掛かってくる連中の捕縛だ。ブライトビーの補助と言い換えてもいい」


「それは私がやらなければいけないようなことか?必要ないと思うが?」


「万全を期すためだ。万が一にも連中にビデオが渡ることは避けなければならない」


「こやつらだけでは信用ならんと?」


「人手が多いに越したことはないだろう」


アリスと副本部長のやり取りにわずかながらの緊張感が走る中、アリスは首を小さく横に振る。


あまり芳しくない返事であるということは予想できていたが、やはりかと康太は少しだけ安心し、少しだけ残念に思っていた。


「そもそもの間違いだ。私は報酬がどうこうで動くような魔術師ではない。言ったはずだぞ、私は私がやりたいことをやる」


「・・・ブライトビーとライリーベルを助けることはお前のやりたいことではないと?」


「こやつらと一緒にいるのは楽しいがな、別に助けることがやりたいというわけではない。何より今回のことに対して興味はあまりない。そのビデオの中身とやらは気になっているがな」


ビデオがどのようなものであるか康太から説明は受けていても、実際にどのようなものであるのかはアリスはまだ見ていないのだ。


「ビデオを見せてくれるというのであれば、多少なりとも協力はするが、どうする?」


そのくらいならばよいのではないだろうかと康太と文は考えたが、副本部長は明らかに葛藤しているようだった。


その葛藤の意味するところを理解するまで康太と文は少しの間時間がかかってしまった。


たった一時間半から二時間程度の映像を見せる、ただそれだけだがそれを見る相手がアリスとなるとどうしても迷ってしまうらしかった。


「なぁアリス、なんで副本部長は悩んでるんだ?映画くらい見せてやればいいのに」


副本部長に聞こえないようにアリスの耳元に口を近づけて小声で話すと、アリスはどう説明したものだろうなと少し複雑そうにしていた。


「単純な話よ。現段階でさえ、私は協会に睨まれる程度の危険人物。その理由は私の技術力にある。これ以上新しい技術を私に与えていいのかと思っているのだ。これ以上手に負えないものになってほしくないという思いがあるのだろうな」


アリスが最も恐れられているのはその技術力だ。全魔術師が襲い掛かっても問題なくあしらえるだけの技術がアリスにはある。


何百年と魔術師として研鑽を積んだ結果得た技術であり、一朝一夕でまねできるようなものではない。


その魔術師にさらに技術を与えていいものか、本部としては迷うところがあるのだろう。


もっとも、アリスならば儀式系の発動形式などはすでに覚えていても不思議はない。そういう意味もあって悩んでいるのだろう。


「なんか今更って気もするけどな・・・今の時点でもアリスは手に負えないんだから、別にモスラがゴジラになったってぶっちゃけ大差ないだろ」


「その例えはどうなのよ・・・いや言いたいことはわかるんだけどさ」


文も二人の声を聞いていたのか、それともアリスが聞こえるようにしていたのかどちらかはわからないが康太のたとえに複雑な表情をしていた。


モスラがゴジラに、要するに怪獣から怪獣になったところで被害を受ける人間からすればそう違いはないということを言いたかったのだろう。


怪獣に例えられたアリスではあったが。先に例を挙げたような怪獣物の特撮は嫌いではないのか満足そうに首を縦に振っていた。


「私はどちらかというとキングギドラのほうが好きなのでそっちで頼むぞ」


「本当にどっちでもいいな。どっちにしろ人類敗北確定じゃんか」


「私も人類のうちの一人だ。私がいる限り人類は負けんよ。怪獣に勝てるかどうかは・・・ちょっとやってみないとわからんの」


意外に乗り気なアリスはさておいて本部が考えていることは理解できたようだった。


先ほど康太が考えたように、今までも手に負えなかったものがさらに手に負えなくなる程度、しかも既に持っているかもしれない技術を見せるだけで作戦の成功率が上がるのであればそれは好ましいことなのではないかと考えているのだろう。


実際アリスに任せたいのはビデオの護衛、絶対に失敗できない部分であるためにこの場所にはかなりの実力者を配置したいというのが本音だ。


だが本部としても封印指定をこれ以上に強力にしたくないという考えがある。康太のように一介の魔術師であれば何も考えずに「その程度の報酬でよいのであれば」と喜んで提供するのだが、組織としてはそういうわけにはいかないのだ。


「ていうかお前本当に見るだけで手伝うつもりなのか?あれ部分的に魔術が仕込んであるだけのただの映画だぞ?」


「うむ、それが気になっているのだ。話に聞くだけではどのような効果をどのように載せているのかがわからない。やはりそういうのは実際に体験するに限るからの。百聞は一見に如かずということわざもあるだろうに」


「なんかアリスに日本のことわざで諭されると日本人としては複雑な気分ね・・・なんか負けた気分だわ」


「ふむ・・・では『一枚の絵は千語の価値がある』という言葉に切り替えようか。意味としてはほとんど同じだがな」


表現の違いというものを知らしめられるが、百聞は一見に如かずという直接的な表現よりも、少し詩的に思えるその言葉に康太と文はそういう言葉もあるのかと少しだけ感動していた。


普段のだらけて漫画やアニメに没頭している姿のアリスではない。何百年も人として生き、人としての知識を積み重ねた『魔女』の姿を見せるアリス。


こういう知的な姿を普段から見せてくれれば、常日頃からアリスを尊敬できるのだが、こういう姿をたまにしか見せてくれないのが残念なところである。


「・・・その条件は飲めない。君にあのビデオを見せるわけにはいかない」


「そうか、それは残念・・・また新たな思い付きがあるかと思ったのだが・・・あぁ、とても残念だ」


アリスは本当に残念と思っているのか怪しいほどに楽しそうな声を出している。どうやら本部としてはこれから何百年も生きることになるだろうアリスに危険な技術を教えることはできないと考えたのだろう。


一時的な協力の代価としては、情報が重すぎるのが原因といえるだろう。これは英断と取れるだけの決断だ。


現時点ではただ見せるだけならば問題なくアリスに協力を求めたほうがいいといえるだろうが、今後数百年先のことまで考えるとそうはいかない。


現在だけではなく将来のことまで見据えて交渉する。こういう人間が組織には求められるのだろうかと康太は感心していた。


「そういうわけだ、ブライトビー、ライリーベル、今回の囮作戦はお前たち二人で行うように」


「わかりました。襲ってくる連中の追跡や調査はそっちでやってくれるんですね?」


「無論だ。お前たちはビデオを守り、襲ってきた連中を撃退、あるいは捕縛してくれればこちらとしては言うことはない」


アリスがいればそのあたりは楽だったのだが、康太としてはアリスが手伝わなくてよかったとも思ってしまう。


アリスが戦わない、それは康太たちの実力をしっかり見せられるということでもある。だが逆に言えばごまかしがきかなくなったということでもある。なんとも複雑な気分だと康太は小さくため息をついてしまっていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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