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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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呪いのビデオの勘違い

「で?なぜ本部に行くのだ?」


康太が協会支部から小百合の店に戻ってくると、珍しく店の裏の居間部分で煎餅をかじっているアリスが目を細めながら康太に問いかけてくる。


康太が本部に行く、そしてその通訳としてついていくことは了承したものの、アリスはその内容までは聞いていなかったのだ。


逆に言えば内容など聞かなくとも康太が行きたいと思い、通訳を頼むという条件さえあればアリスは即座に了承するだけの器量を持ち合わせているのである。


あまりにも本部への警戒心が薄いという言い方もできるが、そのあたりはアリスだからというほかないだろう。


「前にも言ったけど今本部から依頼を受けててな。呪いのビデオって感じなんだけどそれの件で依頼主・・・副本部長にちょっと話を聞きに行きたいんだ。気になることがあって」


「ほう、呪いのビデオか・・・そういえばあの時はちゃんと聞かなかったが、それはあれか?サダコ的なあれか?」


「いや、ターミネーター的なものだったな。いろいろと語弊はあるけど」


ターミネーター的な呪いのビデオと聞かされてアリスは内容がまったくイメージできなかったのか疑問符を大量に飛ばしてしまっていた。


画面の中からショットガンを担いだサングラスの似合う筋肉モリモリマッチョマンが現れるような光景を想像したアリスだったが、康太の体験したものとは全く違うものを想像しておもしろそうだと感じてしまっているようだった。


「それでその依頼とやらはまぁいいとして・・・依頼主の副本部長に話をしに行くだけか?争いになることは?」


「場合によりけりだな。たぶんだけどアリスも完璧に無関係ってわけじゃないと思うし一応名前は出しておいた」


「・・・あぁ、そういえば前にコータではなく私目当てで依頼を出してきた可能性があると言っていたな」


康太の言葉にアリスはすぐに正しい理解を示して見せた。自分の立場を正しく理解できているようで何よりだ。それこそが康太たちがアリスを今回の依頼に引き込みたくなかった理由の最たるものである。


アリス自身も康太が今になってその話をしてきたその理由を理解したのか何度か小さくうなずきながら口をとがらせる。


「なるほどな・・・私はまたのけ者になってしまうということか。フミと仲良くやれているようで何よりだよ」


「そういうなよ。お前に話をしたら大概解決の方向に話が進んじゃうんだから。本部相手にそういうことはしたくないんだ。ただでさえ目をつけられてるし」


不貞腐れるアリスに対して康太は申し訳なくなりながらも今回の件に関してアリスに頼りたくなかった理由を伝える。


無論アリスとてそのことは理解しているし康太の心情も理解できる。だがだからと言って何の相談もなかったのはアリスとしても複雑な気分なのだ。


せめて一言くらいあってもよいのではないかと思ってしまうのである。


「まぁよい・・・それでなぜ副本部長のもとに?依頼は完遂できそうなのか?」


「いや、俺らの実力じゃ完遂できそうにないからその報告と、今回の依頼の真意を聞きに来た。ぶっちゃけ今回の依頼って壊してハイ終了でも問題ないようなものなんだよ・・・いや問題はあるかもしれないけど」


康太の要領を得ない説明にアリスは首をかしげてしまう。そこで康太はとりあえず今回の依頼内容をアリスに教えることにした。


可能なら呪いのビデオを解析してほしいというその内容にアリスは眉をひそめてしまっていた。


呪いのビデオが一歩間違えば封印指定に登録されることを前提とした解析作業。康太以外にも何人かの魔術師がこの依頼を受け、最後の手段として康太に白羽の矢が立ったという事実を告げ、今回土御門の家に足を運びいろいろと話を聞いてきたことを話した時点でアリスは大きくため息をついた。


「なるほどな・・・ようやく話の全容が理解できた・・・破壊すれば事足りるが、高い技術であるがゆえに自分たちのものにしたい。私がバックについているコータへの依頼とその理由、そしてそれ以外の目的があるのではとコータは考えているわけだ」


「そういうこと。何かあるならそっちを主目的にしようかと思ってさ。第一俺みたいなのに魔術の解析とかできると相手も思ってないだろうし」


「そうか?仮にも封印指定を自分のものにしているのだからそういう術に長けていると思われても不思議はないぞ?相手が都合よくお前の実力を勘違いしている可能性だって十分にある」


「なるほど・・・そういう可能性もあるのか」


どのような偶然であろうと、康太が封印指定をその身に宿しているのは事実だ。その事実を本部の人間がどのようにとらえているのかは康太にはわからない。


もしかしたら封印指定などのどうしようもない技術を解析し自分のものにできるだけの能力を秘めていると受け止められているのかもわからない。


「まぁお前が話をしに行きたいというのであれば止めはせん。その呪いのビデオとやらにも興味があるしな。ターミネーター的な呪いというものに興味がある」


「いや、そのビデオがターミネーターだっただけで呪いとは一切関係ないんだぞ?いや一切関係ないわけでもないか・・・」


「なに・・・?ビデオがターミネーター・・・?ひょっとして変形するのか?ビデオテープがトランスフォームするのか?」


「いやしないから。作品完全に変わってるじゃんか」


康太の説明が雑すぎるのが原因ではあるが、完全に勘違いしてしまっているアリスに、とりあえず今回の依頼対象である呪いのビデオのことを一から順に話すことにした。


康太の説明でアリスが完全に理解できるようになるまでに約三十分の時間を費やしてしまった。













「なるほどようやくわかった。そういうことか・・・またずいぶんと古風な使い方をする術師もいたものだな。儀式型の発動形式で呪いの魔術を発動しているということか」


「そういうこと。一般人に見られたらまずいってことで封印指定一歩手前なんだ」


ようやく理解できたアリスは何度もうなずいて先ほどまでイメージしていたテレビから飛び出てくるターミネーターの構図をようやく払拭する。


とはいえ先ほどの自分の想像はなかなかに面白かったなとアリスは思い出し笑いをしながらも康太との話を先に進めることにした。


「とはいえなるほど、確かにそれを破壊してしまえば最悪の事態は防ぐことができるように思える。だが同時にほかにも同様のテープがあったときのために解析しておきたいのも事実か」


「そういうこと。だから本部が動いてるのも納得できるんだけど・・・アリスとのつながりを期待するにしたって俺に依頼するかってのが気になってな。本部とアリスの立場が変わったことだし、普通にアリスに依頼してもいいんじゃないかって思うんだけど」


以前のようにアリスの居場所が不特定だったころと違い、最近アリスは日本支部での活動を主としている。


さらに言えば康太の近くにいる関係でアリスに依頼することだって不可能ではなくなったのだ。所属が本部から支部に移ったことで、本部は堂々とアリスに依頼をできる立場にいるのだから。


もちろんアリスにも断るだけの権利はあるが。


「話がようやくつながった。そこでその呪いのビデオの依頼を『コータに出す』ことに何かしらの理由があるのではと考えたのだな?他の支部に出した依頼を含め確認したいと」


「そういうこと。それを聞きに本部に行きたいわけだ」


康太の話を聞いてようやくすべてを理解できたのかアリスは大きくうなずいてから大きなため息を一つつく。


「コータよ、文句を言うわけではないがもう少し話をわかりやすく丁寧に、なおかつ順序立てて伝えることを勧めるぞ?さすがにあの説明ではわかれというほうが難しい」


「いや、呪いのビデオの話で完全に脱線したせいだっての。そこから話が大きくずれたんだって」


呪いのビデオのことをアリスが勘違いしたせいで話が大きく脱線し、妙な流れになったが康太としてはちゃんと順序立てて話をしていた。


とはいえ康太自身わかりにくい説明をしたという自覚はある。もう少し説明をうまくなりたいものだと思いながら、アリスに向かい合う。


「ちなみにだ、コータとしてはツチミカドの家ではどのようなことを知ったのだ?儀式型の発動形式、そして呪い、いろいろと教わってきたのだろう?」


「ん・・・とりあえず俺らじゃまず発動すら難しいってことくらいかな・・・儀式とか面倒な手順もそうだけど、何より自然に含まれた術式の解析なんてできる気がしない」


既に構成されている術式ではなく、自然界に含まれている術式を一つ一つ見つけ、それらを物理的に並べて術式を構成し発動する。そのような回りくどく面倒くさい発動方式は康太には不向きだと思っていた。

何より実戦で使えるとは思えない。発動に必要な手順が多すぎる上に時間もかかりすぎてしまう。


「まぁそうだろうな。私もわざわざ戦闘中にそのようなことをしようとは思わん。だがなコータよ、魔術師における実戦というのは何も戦いだけではないのだぞ?」


実戦なのに戦いではない。矛盾しているような言葉に康太は首をかしげてしまっていた。


何かのなぞかけだろうかと思いながらその意味を考えているが、一向にその答えはわからなかった。


「まぁ、コータに言ったところで仕方のない話か・・・コータの境遇を考えるとイメージできないのも無理のない話だ」


「なんかすごくバカにされた気分だけど・・・まぁいいや。それじゃ通訳の件は頼んだぞ?支部長からのゴーサインが出たら一緒に行くから」


「了解した・・・ちなみにフミも来るのだろう?」


「あぁ、今回も一緒に動いてるぞ」


「ふむふむ・・・で?コータは答えを出したのかの?」


アリスの唐突な問いに康太は答えに詰まり複雑そうな表情をしてしまう。


その表情だけですべてを察したアリスは大きくため息をつく。だが複雑な表情をしたということは何かしら思うところがあったのだと理解しその身をわずかに乗り出す。


「コータ、あのようないい女をいつまでも待たせておくのは酷というものだ。答えを出すための材料がまだ足りないか?」


「・・・いや・・・その・・・何というか・・・決心がつかなくてですね・・・」


「腰が引けているということか・・・なんとも情けないことよ・・・あのフミだって気合を入れてその思いを伝えたというのに・・・」


「返す言葉もありません・・・」


康太は情けなくなりながら頭を下げる。


だが康太は一つだけ考えがあった。自分がどうすればいいのか、どうしたいのか。それを決められるただ一つの方法を康太は思いついていた。


「でも、決めてることはあるんだ。だから、その時にちゃんと言う。その時にちゃんと伝える。それだけは決めてる」


「ん・・・ならばいい。努々忘れるなよ?」


アリスの言葉に康太はわかってると迷いない瞳を向けながら小さくうなずく。康太だって男だ。しっかりと文に伝えたい言葉がある。


康太自身がそれを考えているのであればアリスとしては言うことはないのか、その話はそこで終わりになった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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