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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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組み合わせ

「いやぁ・・・うまくいかないもんだな・・・組み合わせって言われても全然うまくいかん」


「あんたの場合は無属性魔術が多いものね、どうしてもイメージがわきにくいのもあるかもね」


その日の訓練を終え、康太たちは一度土御門の家を後にしていた。


明日もう一度訓練を行う。その中でも康太は自分の魔術における組み合わせの可能性を考えていた。


先入観をなくして組み合わせを試してみるのが重要だと文には言われたが、やはり普段の使い方を意識してしまうためにどうしてもうまく考えることができずにいた。


複数の魔術を同時に使うことは最近は問題なくできるようになってきた。二つ、三つまでならば問題なく扱える。


四つ以上になるとまだ少し集中が必要となるが現段階での組み合わせは十分であると思われる。


組み合わせによる相乗効果はうまく決まれば魔術の効果を何倍にも引き上げてくれるのだという。とはいえ康太の持つ無属性の魔術でそれができるかと聞かれると怪しいところではある。


属性魔術と無属性魔術の組み合わせは今のところ火の弾丸と収束しかやったことがない。ここで康太は一つ思いつく。今康太は風と収束の魔術はやったことがないのだ。


とりあえず実践してみることが大事だなと、とりあえず微風の魔術と収束の魔術を同時に発動してみる。


普段起こす微風の魔術よりも進行方向がより明確になり、なおかつ周囲の軽い物体が風に引き寄せられているようである。


ホテルの部屋に備え付けのメモ帳などがわずかに風に引き寄せられるように飛んでいくのが見て取れた。


「なるほど・・・こういう効果になるのか・・・それじゃあこれをこうして・・・」


康太は次に旋風の魔術を発動し、さらに収束の魔術を発動する。旋風はもともと竜巻の様に渦を巻いた風を作り出し、物体を引き寄せなおかつとどめる性質を持っている。それに加えて収束の魔術を追加したことで周囲のものを吸い込む力がさらに強くなっているようだった。


「おぉ、こんなちっちゃい風でもなんとかなるもんだな」


「部屋で魔術を堂々と使わないで。でもさっそく組み合わせを思いついたみたいね」


「思いついたって言ってもほとんど役に立たなさそうだけどな。掃除くらいにしか使えなさそうだし」


小さなごみをまとめている旋風を見ながら康太は苦笑してしまう。とりあえず新しい組み合わせを試すことには成功したものの、これを実戦で使えるかと聞かれると首をかしげてしまう。


もう少し大きな風を作り出すことができれば相手を引き寄せたりできるかもしれないが、康太が覚えている旋風の魔術ではそこまで大きな風は作り出すことができない。


暴風との組み合わせなら可能かもしれないが、暴風の場合は引き寄せる力が若干弱くなってしまうだろう。


竜巻の魔術も覚えたいところだが、康太の素質では大きな竜巻を作り出すと一気に魔力が消費されてしまい長期戦ができなくなる可能性が高い。


素質が貧弱だと使える魔術と使いたい魔術、そして実戦で行使できる魔術はまた別物という悩みが出てくる。


こういう時に素質が低いというのは損だと思いながら康太はほかにも組み合わせができないかと悩み始めていた。


「でもまずは十分よ。教えてすぐに組み合わせを実践できるってことはそれだけ基本ができてるってことだもの。あとは発想の問題だけよ。っていうかそっちのほうが重要なんだけどね」


今回康太は火属性でやっているものを風属性でもやってみようという思い付きでとりあえず試してみただけのことだ。


とはいえ重要なのはその思い付きなのだ。実際にやってみることはすぐにできるがそれをやるまでに必要な思い付きにたどり着かなければ何も先に進まない。


試行錯誤の果てにあるのが魔術の組み合わせということもあって自分の手札を増やすことで順々にそれが増えていくのである。


時に組み合わせは本人も想像できない結果を生むことだってあるのだ。文は長年それをやってきたためそういう経験は多かった。


おそらく康太もそういった驚きを何度か経験することだろう。


「とにかくやってみるっていうのも大事かもしれないな。幸い俺はまだ持ってる魔術が少ないから虱潰しっていうのもありかもしれない」


「なんとも風情のないやり方だけど・・・まぁそれもありっちゃありね。でも少ないって言ってもあんたもう二十個以上魔術覚えてるでしょうに」


「そうなんだけどさ、実戦で使えそうな魔術って案外まだ少ないから何とかなるかなって思って」


その言葉に文は眉を顰める。康太が実戦で使っている魔術は確かにある程度絞られているが、その考えこそが思い付きの邪魔になっているということを文は理解していた。


「康太、実戦で使えなさそうだから試さないっていうのはやめなさい。ありとあらゆるものは実戦で使えると思って試していかないと見つからないとか結構あるんだから。盲点って怖いのよ?」


暗示の魔術にも共通することなのだが、人間の思い込みというのは本当に恐ろしい力を持っているのだ。


さも当たり前のような認識を持っているとそれだけで思考が停滞する。先に進めるべき状態なのに先に進めないという状態を作り出してしまうためにかなり厄介なものである。


試すべき現段階でその状態にさせるわけにはいかないと文はそこだけは徹底させたかった。


「そういえば康太、精霊はどんな感じなの?今日は一度も泣かなかったけど」


「ん・・・まだいるけど、そういえばまだ泣いてないな・・・今日は機嫌がいいのか?」


康太の体の中にいる雷属性の精霊、今康太と文が普段暮らしている物件にいた幽霊扱いされていた精霊である。


康太の中に入っている状態で時折康太の体に直接影響を及ぼし、涙を流させるのだが今日は不思議とまだ一度も康太は涙を流していなかった。


康太の中に入った初期においては一日に数回涙を流していたが、最近は一日に二回、少なければ一日に一回泣く程度になっていたのだが今日はまだ一度も泣いていない。


「アリスの話だと体の中に入れておけばいつの間にか普通の状態になるって言ってたけど・・・どれくらいかかるの?」


「程度によるって言ってたな。一カ月そこらの時もあるらしい。ただアリス自身そういうのに遭遇した回数少ないんだとさ」


「まぁアリスだって万能ではないか・・・まぁ身近に規格外の存在がいるからちょっと気になるところではあるけど・・・」


そう言いながら文はベッドの上で転がりながら魔術で遊んでいる神加のほうに視線を向ける。


神加は障壁の魔術を使って壁や床を作り出して匍匐前進で進んだり滑り台を作って転がって行ったりとなかなかに高度な遊びをやっている。


彼女の中に大量の精霊たちがいるわけだが、アリスのように技術的に規格外の存在とはまた別、存在として規格外の人物がこの神加なのだ。


まだまだ幼いゆえにそのすごさがわかっていないのだが、今後彼女が成長していくにあたってそのすごさを実感できるようになってくるだろう。


「そういえばさ、俺の中にいる精霊って雷属性なわけだろ?その気になれば俺も雷属性の魔術を扱えるようになるのかな?」


「んー・・・あんたの場合雷属性への適性はあんまりなかったのよね?」


「うん、詳しく調べてないから確かなことは言えないけど」


康太が最も適性がある魔術は無属性、その次に風、さらにその次に火の属性が適性があるという結果が出ている。


雷属性に関してはそこまで調べていないが、完全に適性がないということはないと思いたい。


小百合のように特殊な起源でも持ち合わせていなければ魔術を覚えられないということはありえないというのが文の考えだった。


「まぁ複数の属性を覚えたからわかると思うけど、属性によって覚えやすさとか覚えにくさが出てくるのよね。それは仕方がないとして覚えられないってことはないと思うのよ」


「じゃあ一応覚えられるってことか」


「そうね。でも一応聞いておくけど、あんたの中の精霊、魔力の供給とかしてくれてるわけ?」


「いいや?ただいるだけだけど?」


精霊によって魔力の供給や放出、あるいは貯蓄を頼むことで魔術を発動するのは精霊術師がよくやる行為だが、魔術師も精霊による補助を受ける場合がある。


文や真理などはそういった補助に対して寛容で何種類かの精霊を身に宿している。


もちろん必要なタイミングで魔力の供給などを手伝ってもらうためだが、康太の中にいる精霊はそういった補助効果を全く行っていないようだった。


「まともな精霊になったのなら普通に供給とかを手伝ってもらったほうがいいかもね。雷属性の魔力に強制変換されちゃうからそのあたりは注意が必要だけど」


「雷属性の魔術か・・・具体的にはどんなものがあるんだ?」


「普通に電気出したり磁力を作り出したり・・・基本攻撃がメインの属性よね・・・あんた向きっていえばあんた向きだけど、良くも悪くも扱いが難しいわ」


扱いが難しいというのは単純にその指向性に法則があるからだ。文などは雷を弾丸状にしたり、水の魔術と組み合わせることで誘導しているが、それがなければ空中では歪な軌道を取ってしまう。


抵抗の低いほうへ低いほうへと流れていく電気はそれだけで扱いが難しい。なので別の手段か、近接戦メインでの使用になる可能性が高い。


特に康太の様に魔力消費が少なく済むほうがよく、なおかつ処理能力があまり高くないタイプからすれば雷の魔術はかなり扱いにくいタイプだといえるだろう。


文の様に高い処理能力に加え、それらを扱えるだけのセンスを持ち合わせていれば容易に扱える魔術なのだが、康太のようなタイプでは暴発してしまう可能性もあるだけに教える魔術はかなり厳選しなければならないだろう。


「ちなみに康太としてはどういう魔術を覚えたいわけ?雷でも出したい?」


「んー・・・俺としては相手の動きをちょっとでもいいから止めたいかな。そうすればこっちが攻撃するのが楽になるし」


康太の場合攻撃のために相手の動きを止めるということは戦闘の中でもかなり重要な手順の一つだ。


普段ならば足を狙ったりして動きを止めることが多いが、相手の肉体全体の動きを止めることで思考そのものも停滞させることができる電撃はかなり有効である。


もっともあらかじめ電撃を受けることを覚悟している相手や、そもそも電撃になれている人間には体を止めることはできても魔術を止めることはできないのだが。


「動きを止める・・・それでなおかつ処理も魔力消費も少なめなものかぁ・・・康太が使う道具の中でそれらを満たすもの・・・ってなると・・・難しいわね・・・」


現段階で康太が使う道具は鉄球や杭、槍や剣などが該当するが、それらを使って康太の魔術発動を補助する、あるいは助長することができるとは考えにくかった。


電気の伝導をするならばもっときめ細かい物体が必要になる。文ほどの処理能力を持てば多少の誤差は修正可能だが、康太の大雑把な発動ではそれは望めない。なかなか厄介な条件だなと文は眉をひそめていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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