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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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儀式とテープ

「ひょっとしてですけど・・・精霊の力を借りるんですか?」


「お、ライリーベルはさえているね。その通り。精霊と協力することで本来発動に必要な魔力を賄うのさ。と言っても属性付きの場合かなり難しくなるけどね」


何せ精霊の力を借りる上に強制的に相手に発動させるからねと治久は付け足して答える。属性魔力は魔術師によって保持している量が異なる。


それこそゼロの者もいれば大量に保持している者もいる。ただ属性ごとにその量が異なるためにそのあたりははっきり言って運に近い。


だから強制的に発動させるために精霊に力を借りるのだという。


「これは魔術師の場合成り立つんですか?精霊を見ることができるなら・・・そもそも発動できないってことも」


「っていうかこの儀式系の発動方式はそもそも魔術師を対象とした発動方式じゃないからね。より多くの一般人に目にしてもらう、あるいは聞いてもらうことで一般人の被害を最小限に魔術を発動する方式だ、そもそも魔術師を対象にしても意味がないのさ」


この方法は魔術師ではなく一般人を対象にしている発動方式だ。多くの人間に見せることで必要な魔力をより多くの人間から搾取し被害を限りなくゼロに近づけているのがこの発動方式の特徴である。


もちろん魔術師相手でも効くというのはすでに康太たちは確認済みだ。だが確認済みといっても戦闘などで役に立つかと言われると微妙なところである。


なにせ今回の対象となっている呪いのビデオも、康太たちが映画一本見続けるだけの時間を拘束してようやく三つの効果が発動する程度でしかなかったのだ。


そもそも本部が懸念しているのはこれを魔術師ではなく一般人が見ることによって魔術の存在が露見することだ。


一般人を対象にした魔術、所謂暗示などと同じ扱いなのだろうが隠匿が全くできていないことが問題だと思われる。


「ちなみに、それを防ぐことってできないんですか?相手が儀式中にそれを妨害するというか・・・邪魔するというか」


「可能だよ。この儀式で言えばここに配置されているものを・・・例えば蹴飛ばすとかしてどかしてしまえば儀式中、あるいは発動前であれば妨害できるね。重要なのはここに置いてあるものが魔術で言うところの方陣術のようなものに該当するってことなんだ」


置いてあるものが方陣術のようなものに該当する。その言葉に文は少しずつではあるが目の前にあるものの意味を理解しつつあった。


つまりは自然界におけるその物体の意味、あるいは存在そのものの力を借りて術式を構成しているといえばいいのだろうか。


パズルのように組み合わせることで、一つ一つでは深く意味を持たないそれらを束ね一つの魔術へと昇華させる。


現代の魔術師からすれば途方もなく回りくどい方式だ。術式そのものを扱うのではなく、自然界に存在している物体から術式の欠片を見つけ出してそれらを組み合わせ使用する。


「じゃあ、この光景そのものに意味があるわけで、この光景を録画したものを見せても効果は発動するんですか?」


「ん・・・あぁ、そういえば君たちは呪いのビデオの映像を解析したいんだったね。結論から言えば可能だよ。と言ってもこの儀式の場合は範囲指定がされてるから映像にしても効果は発動しないけれど・・・確かに視覚情報だけで発動できる儀式はある」


「それは、聴覚情報だけでもですか?」


「その通り。音にも当然術式の情報は入っているからね。演武とか舞とかそういうものも儀式の一種だよ。当然見せて聞かせてその場にいさせるっていうタイプの儀式に比べると難易度は高いけどね」


治久の言葉に、つまり今回の呪いのビデオを作製した人物は儀式発動型の魔術に関してかなり詳しい人物であると推察していた。


その人物のことを調べるか、あるいは見つけるかすれば今回の件を解決に導くことも可能かもしれないと文は考えていた。


といっても今回の呪いのビデオが見つかったのがレトロショップということもあって発見はほぼ絶望的である。


すでに作成者が死んでいることも考えられる。だからこそ本部は安易に破壊しようとしないのだ。


そんなことを文が考えていると康太は眉をひそめながら片目を閉じて目の前の光景を見始めた。


それが何かを解析しようとしているということに文は気づける。


物理的な解析か、あるいは術式的な解析か。そのどちらかはわからないが康太が目の前にある光景を見続けていると、一瞬だが康太が眉をひそめた。


「どうしたの?」


「いや・・・なるほどなって思って。映像だけだと見えなかったんだけど、こうして目の前にあるとちゃんと見えるんだなと」


映像の時も術式解析を行っていた康太ではあったが、あの時は術式を解析することができなかった。

だが今は目の前にあるこの光景を見てしっかりと術式としてとらえることができているようだった。


「どんな感じなの?」


「まだ未完成だけど・・・確かに術式っぽいものが見える。なんていうべきかな・・・こう・・・ふわふわしてる感じ。完成した術式は全部がちゃんと組み合わさってたり規則的になってたりするけど、これはそういうのがない感じ」


康太の説明は、おそらく康太自身どのように説明するのが適切か理解できていないこともあり非常に抽象的だった。


だが文自身、康太の言うことを大雑把にではあるが理解していた。術式そのものはすでにあるが、それらを組み合わせていない状態なのだと。


「いい表現だね。この魔術はすでにこの儀式の形で構成されている。あとは周りの人間にそれを見せる行為をするだけなんだ。さっき映像の時は見えなかったって言ったよね?」


「はい、呪いのビデオの時はそういうのは見えませんでした」


「それは単純に、術式が完成していない状態だったんだろうね。一度に見せるんじゃなくて連続に見せるタイプの儀式系統を取ってたんだろう。そうすると難易度と必要な時間が跳ね上がるけどその分ばれにくい」


治久の説明に、康太と文は思い当たる点があった。それは呪いのビデオに収録されていた映画を見比べていた時のことだ。


若干光の量が違ったり、色やその形が違っていたりした。音も同様で最初はビデオという古い映像媒体を使っているのが原因だったり、新しい映像媒体のものが規制などの関係で光を調整しているのかとも思ったがおそらくそうではない。


意図的に術式を構成する部分が組み込まれていたのだ。


断片的な情報すぎて術式解析では読み取れないほどに小さく、だが確実に術式そのものを刻み込むことで徐々にそれを見ていた人間に植え付ける。


ただその分、植え付けた術式を刻み続けなければ結局術は発動しない。普段日常的に風景などを見ても術が発動しないように、ただ見て聞くだけでは術は発動しないのだ。


儀式として成り立たせるには法則に則って、なおかつ理論的にそれらを組み合わせなければならない。


しかもただ見ただけではわからないほどに小さな違和感によって、あの呪いのビデオは構成されていた。


あれを治久に見せればその技量の高さに感動すら覚えたことだろう。本部が安易に破壊しないのも納得できるというものだ。


可能ならその技術を解析し、なおかつ自分たちのものにしたいと考えているのだろう。


康太たちにこれを見せたのはある意味最終手段の一歩手前だったのかもしれない。


アリスに頼んでも構わない、仮に康太が解析しても構わないからという、破壊の本当に一歩手前の段階。


あえて正々堂々と依頼という形をとったのはそういう意図もあるのだろうと康太と文は考察していた。


「そういう、断片的に術式を飛ばすタイプの場合、どうやって解析するんですか?解析っていうか・・・その・・・どういうものであるか把握するっていうか・・・」


「言いたいことはわかるよ。その術式がどういったもので構成されているかを把握したいんだね?一番手っ取り早いのは比べることだね。たぶんさっきの反応からしてもうやったんじゃないかな?」


「はい、DVDと見比べました。映像や音声に若干の違いがありましたけど、DVDとの見比べだったので大まかにしか」


確実なことは言えないが、DVD版との差異はある程度見つけることはできていた。問題はあの光や音声の違いにどれほどの意味があるかということである。


「入っていた映像はどんなものだったんだい?見比べることができたっていうことは少なくともオリジナルではないんだろう?」


「はい、SF映画でした。結構有名な奴だったので」


「・・・ってことは自分で編集して付け加えたのか・・・なるほど見えてきたぞ。じゃあ私が似たようなことをやって見せよう。適当なビデオテープを用意すれば可能なはずだ・・・とはいえこの家にあるかな・・・?」


治久の先導に従って母屋の中を移動していき、適当に倉庫などを探しているとその中に撮り溜めされたビデオテープが大量に存在した。


律儀にそのテープには一つ一つ題名がつけられている。


「よかった、あったあった。それじゃあ・・・どれなら平気かな・・・?これなら大丈夫かな?」


その中にあった一つの映画を取り出して先ほどの客室とはまた別の部屋へと移動していく。


そこにはDVDプレイヤーやビデオプレイヤー、大型のテレビやスピーカーなどもあり、ここが一種の視聴覚室であるということを理解することができた。


「さて・・・ではどのように映像に含まれる部分に儀式系統の魔術を含めるか、その技術を教えよう。と言ってもこれは昔からの技術ではなくて私の師匠と合同で試したものだから精度はだいぶ落ちるけどね」


治久はそういってまず何もせずにビデオを再生し始める。


そこに入っていたのは一種の冒険ものの映画だ。鞭を持ったダンディな男性が遺跡やそれにまつわる人間たちとの争いを描いたものだ。


康太や文も昔見たことがある。神加はおそらく初めて見ただろう。晴や明も見たことがあるのか懐かしいなぁと小さく漏らしていた。


ワンシーンを見終わった後で治久は一度テープを巻き戻し、一度取り出してから何やら集中しだす。


そしてもう一度同じシーンを再生すると、先ほどとほとんど気づけないほどだが、映されている映像の中にある光の量や色が若干違っていることに康太と文は気付ける。


そしてそれを見続けていると映像の中にある火の光がこちらに向かって飛んできているような幻覚が見える。


これが魔術の類であると康太たちはすぐに理解できた。


「うわ!なんだ今の!」


「火が飛んできた・・・3D?」


「その反応を見る限りうまくできたようだね。久しぶりだけど成功してよかったよ」


晴と明がなかなかに良い反応をしているのを見て治久はうれしそうに笑っている。神加もまた驚いて何度も瞼をこすって確認しているが、もう火が飛んでくるような幻覚は見えなくなっていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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