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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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魔術の講義

「では話を先に進めようか。お前たちの求めている情報を出すのは晴と明との同盟関係によって良いこととする。あとはお前たちの同盟間、そして技術を教えるものと直接話し合うがいい。土御門の家としてはそれ以上の条件は出さん」


勝政の言葉を要約するならば、土御門の家としてはこれ以上とやかく言うことはなく、あとは教えてほしい本人から技術を教えてもらうなりしろ、なおかつその対価などは本人同士で交渉しろということなのだろう。


土御門の家の技術を教えてもらうために非常に遠回りをした印象があるが、大きな家となるとこういった反応も仕方がないのかもわからない。


「ではこれにて解散とする。治久、晴と明、そして八篠康太と鐘子文の話を聞いてやれ」


「わかりました」


治久と呼ばれた男性のほうを見ると、そこには中肉中背の穏やかそうな男性がゆっくりと頭を下げて微笑んでいた。


話の流れから察するに、彼が魔術の現象的伝達を行える人物なのだろう。


勝政の解散の指示とともに、その場にいた土御門の面々が康太に意識を向けながらもその場から離れていく中、土御門の双子、そして先ほど呼ばれた治久が康太たちのもとを訪れていた。


「先輩、紹介します。今回先輩たちに・・・えっと・・・魔術を現象に乗せる方法を教えてくれる治久さんです」


「私たちの父さんの、叔父さんの息子さんです」


「初めまして。土御門治久です。話はいろいろと伺っているよブライトビー、そしてライリーベル」


あえて魔術師名で呼んだのは自分たちが魔術師であること、そして魔術に関することをこれから教えるということを意識させるためだろう。


魔術師名で呼ばれると気が引き締まるような気がするため、この気遣いはありがたいものがあった。


「初めまして、今更になりますがブライトビーです。今回はよろしくお願いします」


「同じくライリーベルです。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


康太と文は深々と頭を下げる。これから指導を受ける人なのだ、しっかりと礼儀正しくしておいたほうがいい。


だがその前に話し合わなければいけないことがある。


「えっと・・・治久さん、俺たちに技術を教えてくれる代わりに、俺たちは何をすればよいでしょうか?」


「代価の話だね?私としては君たち・・・ブライトビーには土御門としての恩があるから必要ないと思っているんだが・・・たぶん私が良くてもほかの土御門の人間が良い顔をしないだろうね・・・」


「はい、ですので形式上にしろ本物にしろ、代価はきちんと支払っておいたほうがいいと思うんです」


これがそれこそ個人間で個人の魔術を教えあったりするのであれば何も問題はなかっただろう。


だが今回の件は土御門の一族の技術という面倒な要素が加わっている。そのあたりを解消するためにこのような回りくどく面倒くさい手順を踏んだのだ。


何の代価もなしに治久が康太たちに技術を教えたら周りの土御門がもしかしたら文句を言ってくるかもしれない。


せっかく技術を教えてくれる治久が土御門の中での立場が微妙になってしまうのはなるべく避けたい。


形式的であろうと本当の意味であろうと、しっかりと対価を支払えば周りからの文句も少なくなるだろうというのが康太の考えだった。


「わかった、そういうことであれば代価をもらおう。そうだね・・・二人からそれぞれもらうのが筋なのかな?」


「そうですね。教えてもらうわけですし・・・といっても俺らが提供できるものなんてたかが知れてますけど・・・」


「そうでもないさ。ブライトビーの戦闘技術は目を見張るものがあると聞いた。ライリーベルは何が得意なのかな?」


「私はビーほどではありませんがある程度戦闘のための魔術は習得しています。あとは一般的な魔術はほとんど覚えています。魔術の応用なら得意です」


言葉の通り、文は魔術の応用が非常に得意だ。その中でもいくつかの応用はすでに実戦でも投入しているレベルである。


康太は純粋な戦闘能力に長け、文は魔術の応用能力に長けている。それぞれが提供できそうなことを聞くと治久はうんうんとうなずいて見せた。


「わかった。それじゃあ君たちにはいろいろと私に指導してもらおうかな。それぞれが得意としているものをうまく伝えられるような形が好ましい」


それぞれが得意としているもの。康太なら戦闘、文なら応用という具合なのだろうがそう簡単に教えられるものでもないように思える。


だがそれは治久が教える技術も同様なのだ。互いに技術提供するという意味ではこれほど適した対価もないだろう。


多少時間はかかるかもしれないが必要な手順なのだ。今更どうこう言うつもりは康太も文もなかった。


「それじゃあさっそく講義に入ろうか。ここじゃなんだし、場所を移そう。いろいろと教えたいこともあるし知りたいこともあるだろうからね」


治久はそういって場所を移そうと移動を始める。なんだか先生のような人だなと思いながら康太と文は学校の授業を受けるような気分になってしまっていた。


当然のように土御門の双子がついてきたのは言うまでもない。


「さて・・・それでは魔術の講義を始めよう。君たちが知りたいのは魔術の術式を現象・・・例えば音や光などに乗せることで発動させる技術というものだったね」


「はい。お願いします」


「よろしくお願いします」


客室の一つを借り、康太たちはさっそく魔術の授業を始めていた。


座布団に長机、そして治久がどこからか持ってきたホワイトボードの前に立って講義を始めようとしている。


今まで魔術を習得することはあったが、このような本当に講義に近い形でするのは初めてだった。


何せ康太は戦闘をしながら魔術を覚え、文は発動しながら魔術を覚えてきたのだ。このように理屈に沿った魔術講義というのは実は非常に珍しいのである。


「君たちが知りたい技術の根幹は、君たちが習得している通常の魔術と同じように特定の儀式が深くかかわってきている。いけにえを捧げてお祈りしたりだとかたき火をしたりだとかそういう奴だね」


一番イメージしやすい不可思議な現象を引き起こす人為的な行動として挙げられるのが儀式と呼ばれるものだ。


それが意味があるものもあればないものもある。だがその中には本当に超常現象を引き起こすきっかけとなったものもあるのだ。


それは物理的な解釈であったり、魔術的な解釈であったりと理由は様々だが、とにもかくにもそういった中から魔術的な要素を抽出したものが現代における魔術の『術式』である。


「さて、その中で私たち土御門の家で重宝されていたのが『先読みの法』所謂未来視だね。これの術式を教えるわけにはいかないからとりあえず実際に自分で術式を音や映像に乗せてみるところから始めよう」


「・・・えっと・・・具体的には・・・」


「家に伝わっている儀式の一つを再現してもらう。これはやり方さえ正しければだれでも魔術を発動できる優れものさ。だからこそ危険でもあるけどね」


誰でも魔術を発動できる。その発言はある意味間違っているともいえるし矛盾しているともいえる。


正確に言うならば誰でも術式の伝達が可能であり、伝達されたものが強制的に術を発動してしまうというものだろう。


「この儀式は複数人で行うもので、複数人の魔力を消費して行われる。出力によっては一般人でも問題なく扱える代物でね、無論魔力のない人が扱えば生命力が削られるから危険ではあるけど」


そういいながら治久はホワイトボードに必要なものとその配置、そして行う行動を記していった。


「儀式で重要なことは、儀式を行う人間が術を発動するわけではないということなんだ。術を発動するのはあくまでそれを見ている人。つまり観客がいればいるほど多くの人に術式が伝播する。使い方によっては強力な魔術を発動できるよ」


「それは、一つの魔術の消費を観客一人一人で分割するからですか?」


「その通り。準備も手間も必要だし、何より一般人に対して生命力を強制的に消費させるわけだから危険すぎるけど、場合によれば魔術師が発動するそれよりも大きな力を発揮できる」


といってもそれだけの準備にはすごく手間がかかるけどねと言いながら治久は苦笑してしまう。


そして一つ一つの手順を書いていき、その儀式に必要な道具を一つ一つそろえていき、それらを正しく配置していくと治久はその近くに蹲るようにしてからゆっくりと体を起こしながら手を大きく掲げるように広げて見せた。


瞬間、それを見ていた康太たちの体が不意に軽くなる。強制的に肉体強化の魔術が発動したのだと理解できた。


文はさらに見ていた光景が終わった瞬間に体の中に術式が構成されていったことに気づけただろう。


「さて、今君たちは体が軽くなったんじゃないかな?」


「はい・・・肉体強化が発動したような気がしました・・・こんな簡単にできてしまうんですね・・・」


「簡単じゃないさ。今置いてある物体の位置が五ミリでもずれれば発動しない。あとは蹲ってから起き上がるタイミング、掲げる腕の角度が少しでもずれれば成功しないんだ。結構高等技術だよ?」


一見簡単そうに見える動作しかやっていなかったが、どうやらかなり綿密に計算された結果の動作であるようだった。


自然界に含まれる術式を人為的に組み上げた結果完成した魔術。これは再現がかなり難しいらしく、康太と文は目を丸くしてしまっていた。


「さて、君たちには今無属性の強化を体験してもらったわけだけれども・・・この術式伝達の場合、見ている人間から必要な魔力をもらって発動することになる。では質問だ。仮にこれが属性魔術だった場合はどうなるかな?」


本格的に学校の授業のようになってきたなと、康太と文、そして話をずっと聞いている晴と明も考え始める。


属性魔術は無属性魔術をさらに効率的に使えるように編み出されたものだ。状況によって尖った性能ではあるが高い効果を発揮するものが多い。


そのために必要となるのが属性専用の魔力だ。適切な魔力を使うことでその魔術を発動することができる。


魔術師によってその素質や適性はあるが、その気になればだれでもその魔力を作り出すことができるとはいえ、術が発動する際にそういった属性魔術を覚えていなかった場合はそもそも発動すら難しいように思える。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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