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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」

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早朝の話し合い

翌日、康太たちは起床時間よりも少し早くに目を覚ましていた。


方陣術を解体した後合宿所まで戻ってくると同時に康太たちは忍び込むように入浴し体を温めてから互いに別れ、そのまま寝床に着いた。


大きなあくびをするとそれを見ていた文が同じように、まるでつられるかのごとく大きなあくびをし始める。


「あくびってどうして伝染するのかしらね・・・不思議なもんだわ・・・」


「もうちょっと寝てればよかったかな・・・ていうか今からでも寝たい・・・」


まだ同級生たちは眠っている時間に康太たちが起きた理由、それは単純だ。今日の行動を確認しておくためである。


先日すでにこの建物内に結界用の方陣術が刻まれた紙は配置してある。今日一日はオリエンテーションを午前に行い、昼食をとった後のほとんどは自由時間だ。


この日の放課後に一体何を行うか、それによってこの旅行の是非が決まると言っても過言ではなかった。


「今日の放課後、自由行動の内にこの建物を中心に周囲の街を探索するわ。もちろん遊んできてもいいけどマナの変調があればすぐに報告するようにね」


「ん・・・了解。探すついでにいろいろと回れそうだな」


自由時間内に可能な限り行動しあの魔術師を発見したいところである。だが康太には少し疑問、いや疑念があった。


隠しておくことでも考えたままにしておくような事でもない。康太は思ったままを口にすることにした。


「ていうかさ・・・昨日の魔術師がまた同じようなことをするのか?一度失敗してるのに?」


「正直可能性は低いわ。種が割れてる以上、同じことをするだけの利点は少ない。むしろ相手がやろうとするのは私達の排除よ」


自分達の排除、それを聞いて康太は眉をひそめる。そもそもにおいて康太たちは可能な限り魔術的な事件を防ぐために行動しているのだ。


だがそれはあくまで旅行中の話であって別にこの区域の魔術師が何をしようと旅行が終わってしまえば知ったことではないのである。


可能ならこのまま何もなく過ごしたいところだ。もしあの魔術師の連絡先を知っていれば迷うことなくその事情を話すだろう。


だが相手が自分たちを狙っているという言葉は正直良いものではない。むしろ悪いニュースである。


「ちなみになんで?やっぱ昨日俺が怪我させたのが原因か?」


「あんたが恨みを買ったかどうかはこの際どうでもいいのよ。私達・・・いえあんたが件の魔術師を目撃したってのが問題なの。相手だって可能なら魔術協会のお叱りなんて受けたくないと考えてるでしょうから目撃者を消そうとするのは当然じゃない?」


魔術師というのは基本的に顔を隠す。康太や文、そして先日の魔術師がそうだったように基本的に仮面をつけているのだ。


つまり一見すると個人の特定は難しいという事でもある。戦闘状態でしかも暗闇、正しく外見的特徴を把握できないような状況だったために目撃者さえ消してしまえば問題なく今後も活動できる。


既に康太は小百合にその魔術師の事を話しているが、それはどのようなことをしようとしたかという事だけで特徴までは話していない。


しいて言えば氷の属性の魔術を使うということくらいだ。だが氷の魔術くらい他の魔術師なら簡単に使えるかもしれない。もしかしたら文だって使える可能性がある。


そんな不確かな情報で一個人の特定など不可能だろう。そうなると手がかりは康太の視覚的な情報だけなのである。


「ひょっとして俺が町を出歩くのって釣り餌代わり?」


「よくわかったわね、三分の一正解よ」


「三分の一?もしかしてまだなんかあるのか?」


「もちろんあるわ。三分の一は他の場所でマナの変調がないかを調べるため、もう三分の一はこの旅行を楽しむためよ」


せっかく来たんだから楽しまないとねと文がつけたす中康太は目を丸くしていた。


なんというか、こんな状況だというのにまだ普通の生徒として楽しもうとしているあたり、文はしたたかだ。


自分はこの状況になっているだけで目を回してしまうような感覚に襲われているというのに文にはまだまだ余裕があるように見えた。


さすが魔術師歴十一年は自分とは格が違うというべきだろう。技術もそうだが考え方も全く異なる。


だが確かに彼女の言う通りだ。実際楽しまなければ損という言葉の通り、せっかくこうして旅行に来ているのだ。楽しまなければもったいない。


初めての高校での学校行事、しかも泊りがけなのだ。こんな機会はなかなかない。楽しめるか否かで高校生活が充実するか否かが決定すると言っても過言ではないだろう。いやもしかしたら過言かも知れないが。


「んじゃ師匠たちへのお土産とかも買っておかないとな・・・姉さんからは漬物系を頼まれてるんだよ」


「へぇ・・・ジョアってそんな趣味があるんだ・・・私も師匠へのお土産考えないとなぁ・・・長野って何があるのかしら」


そんな話をしている中でも康太は内心汗をかいていた。必死に普段通りの振りをしているが釣り餌代わりの行動をとらなければいけないのが三分の一ほど含まれているのだ。


一番手っ取り早いのは魔力の微量放出を続けることだろう。


マナの薄い中で放出を続けるというのは正直リスキーだが、さすがに昼間から手を出すような愚行は起こさないと信じたい。


行動開始は日が落ちてから。恐らく昨日と同じ時間帯に攻めてくる可能性が高い。もし別の場所に陣地を構えたのであれば再び自分たちが打って出るほかない。


「ちなみにさ、文は一応手伝ってくれるんだよな?」


「囮以外なら手伝うわ。方陣術の解体と攻撃は任せておきなさい」


相手の使用する魔術が氷だということを知っているというアドバンテージからか、文は自信満々に笑みを作っている。


相手が自分と同格の魔術師であるという想定で動いているのだろうが、こういうところで堂々とできるあたりさすがだというほかない。


魔術師として未熟な康太としては羨ましい限りである。


「危なくなったらちゃんとフォローしてくれよ?さすがに死にたくないんだからさ」


「わかってるわよ。ちゃんと見守っててあげるから頑張んなさい」


「・・・信用するからな・・・?見捨てないでくれよ・・・?」


はいはいと文は笑いながら康太をなだめる。なにせ矢面に立つのは康太の役目なのだ。もとより攻撃と防御で別れて行動する予定で、康太は単独行動を強いられる立場だというのは最初から留意していたことだがさすがにあの魔術師相手だと単独での戦いは危険なのである。


無論手の内を隠した状態なら倒せたかもしれない。だがすでにこちらの手の内のほとんどを見せてしまった今、康太が圧倒的に不利なのである。


そうなれば康太だけではなく文の力も借りるほかない。康太の手の内のほとんどを見せたとはいえ文の手の内はまだ見せていない。というか文の存在そのものをまだ露見させていないのだ。そう言う意味では康太たち二人で考えればまだ有利と言えるだろう。


康太が心配しているのはしっかりと文が助けてくれるのかという点である。


彼女の人格は信用できるし、魔術師として自分より圧倒的に優秀であるというのも認めている。だが彼女が素直に助けてくれるかという一点のみが不安だった。


彼女は確かに優秀だし立派だが、康太に対しては妙に意地悪なことがある気がするのだ。普段猫を被っているからその反動なのかもしれないがそれにしても妙に康太に対して気安くも対抗心を燃やしている節がある。


出会いとその後の戦いがあったからこその対応なのだろうが、康太からすればその対抗心が不安の種だった。


気安さに関してはむしろありがたいくらいなのだが、その対抗心が康太の身を危うくするのではないかと気が気ではない。


特に今回は康太の命がかかっていると言ってもいいのだ。そう思ってしまうのも無理からぬことだろう。


「そんなに心配すること?ちゃんと助けてあげるわよ。これでも協力関係にあるんだし・・・それに・・・」


「それに?」


「あー・・・まぁいいわ、これは言わないでおく」


「なんだよ、気になるじゃんか」


康太が眉をひそめている中文は内心ため息をついていた。なにせ自分が言おうとしたことはまったくもってくだらない内容だったからだ。


先程康太が感じていた対抗心を燃やしているという事は間違っていない。文は康太に対してそれなりに強い対抗心を燃やしている。


同世代の魔術師として、自分の師匠が毛嫌いしているデブリス・クラリスの弟子だからというのもあるだろうがそれ以上に自分を負かした張本人だからこそ、彼女は康太に対して対抗心を燃やしていた。


だからこそ先ほどこういおうとしたのだ。


『あんたを倒すのは私なんだから』と


こんな言葉を言おうものなら康太に妙な警戒心を植え付けてしまう上に、自分の方が格下だと認めるような気がしたのだ。


文は確かに康太に負けた。康太より劣っている部分があるのも認めた。だが自分が康太よりも格下だとは思っていなかった。


次戦う時は自分が勝つ。だからこそ自分を負かした康太が他の奴に負けるのは気に食わない。だからこそ康太の手助けをする。何もおかしいことはないがそんな恥ずかしい言葉を言うのは文のプライドが許さなかった。


個人的に康太のことは嫌いではない。少々抜けているところもあるが頭の回転は速いし好感が持てるし何より信頼できる。


だからこそ文は康太と協力関係を結んでいるのだ。これで康太が嫌なやつで思考も信頼もできないような人間だったらたとえ自分より格上だったとしても協力関係などは結ばなかっただろう。


だからこそ、康太が真摯に対応してくれているのであれば自分も真摯に対応しようと思ったのだ。


康太が助けを求めたのなら助ける。そしてきっと逆もまた然りだろう。自分が助けを求めたらたぶん康太は助けてくれる。


付き合いは短いがそのくらいは確信が持てる。だからこそ文は康太を助けるつもりだった。もちろん囮をしっかりこなしてもらうが。


「なぁ、なんて言おうとしたんだよ?他の人に言わないから言ってみ?」


「言わないわよ。しつこい男は嫌われるわよ?」


「え?そうなのか?マジか・・・気をつけよ・・・」


女子の意見というのは大事にするべきだと思っているのか、ちょっとした言葉でも真に受けるあたり康太の単純さが見て取れる。


頭の回転が速い時はその処理能力は目を見張るものがあるのにどうしてこういう平穏時には鈍いのか。


文は小さくため息を吐きながらも口元は笑っていた。康太のこういうところは嫌いではない、そんなことを考えていたのだがそれが顔に出ていたようである。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


火曜日あたりからちょっと予約投稿になるかもしれませんがそのあたりご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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