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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」

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同盟のつながり

「そうか。ならば無理強いはすまい・・・何よりまだ若い人間にこのようなことを言うべきではなかったな」


いくら条件が条件とはいえ仮にも高校生である康太にこのようなことを言うべきではなかったなと勝政は少々反省しているようだった。


少なくとも高校生の時点で婿入り、ないし結婚の話などできるはずもないのだ。康太は恋愛すら満足にできていない状態なのだから。


話が大きくなりすぎて判断できない、何より康太自身そのような形での結婚などは望まないのだ。


そういう人間であるということを知ることはできたのは良かっただろう。少なくとも康太に対して希少な魔術、あるいは後ろ盾になろうという類のものは交渉材料にならないということが分かったのだから。


その原因の一つにこの世界で最高の技術を持つ魔術師アリシア・メリノスの存在が康太の近くにいるというのもあるのだろうが、それは土御門のほとんどのものが知らないことである。


「土御門の人間になることはできませんが、それ以外のこと・・・具体的に言えば俺から何かを教えるとかその程度のことであれば可能です。皆さんもまさかこれ一つだけを対価として考えていたわけではないでしょう?」


「ん・・・案の一つ・・・これを取ってくれればこちらとしては一番今後の対処が楽だったという意味では有力だったんだがな・・・まぁいい。他の案も伝えておこうか」


やはり複数代価を考えていたかと康太は内心安堵の息をつく。


向こうとしても康太に借りがあり、それをこの場で清算したいと考えているはずなのだ。この場で一つの代価しか考えていないという可能性は低かった。


とはいえもしこれで相手が本当に土御門の家に加わるという以外の対価を考えていなかった場合、康太はこのまま断った状態で土御門の家から出ていくほかなく、ただ京都の町を観光するだけの土日になるところだった。


もっともまだほかの条件を聞いていないためにその可能性が完全についえたというわけではないのだが。


「だが・・・先ほども言ったが土御門の一族以外の者に一族の技術を教えるというのははばかられるというのが、先の話し合いにてまとまった意見であるのも事実。なるべくなら・・・どのような形でもいいから土御門に名前を置いてくれるとこちらも交渉しやすい」


一族の長、当主という役職があっても無茶苦茶をやれるわけでもすべての事柄を自分の思い通りにできるというわけではない。


いやむしろ一族にかかわる事柄に関することであるがゆえにほかの土御門の人間の声を無視することができないのだ。


家が原形となった組織というのは面倒なものだなと康太は眉を顰める。


魔術協会の様に実力主義、あるいは人脈などが重視されるのと異なり、家や派閥の中でも発言権などが顕著に表れる。


それがいくら正論でも、正しくても結局のところ発言権に左右されることになってしまうのだ。


多くの土御門の面々がいるこの場において若く、才能があるというだけで何の発言権も持たない晴や明を黙らせたのは正解だったなと、康太は今更ながら自分の判断が間違っていなかったことを確信していた。


「ですが誰かと結婚するとかそういうことはできませんよ?俺は俺が好きになった奴と一緒にいたいです」


「わかっている。良くも悪くも藤堂の弟子ということか・・・」


小百合と同列に扱われるのは康太にとっては非常に不本意ではあったが、小百合のように感情や自分の欲求によって行動基準を変える思考方法を最近康太も少しずつではあるが使い始めている。


徐々に思考方法が小百合のそれに近づいているのかもわからない。それが良いことなのかどうかはさておいて周りから見ていてやはり『デブリス・クラリスの弟子なのだな』と納得する点が増えてきているのは確かである。


「ふむ・・・では何かしら我が一族とのつながりを作ってもらおう。そうすれば最低限の技術の指導程度であれば問題はないだろう。そうだな?」


勝政がほかの土御門の面々に視線を移していくと、この場にいる誰も反論の声をあげる者はいなかった。

単に教えてもらうのに対して対価を支払えばいいという話ではないのは理解したのだが、つながりを作れと言われても康太には少々困るの一言だった。


「とはいっても・・・どのようなつながりを?結婚やら恋人やらはこういう場では作るつもりはないですが」


「そういったものではない。魔術師としてのつながりだ。同盟、師弟関係、上下関係といったほうがわかりやすいか。この場合教えてやれる技術も大したものではなくなってしまうのは頭に入れておけ」


同盟や師弟関係という形で繋がりを作ればいいのかと康太は安堵していた。当然ながら結婚などという一族に組み込まれるようなものと違い、その分得られる知識や技術もだいぶ限られるものになるのだろうが、そのあたりは康太からしても文句はなかった。


何よりこの形であれば文も土御門とのつながりを作ることができるだろう。


だが同時に少し困ってもいた。同盟関係の場合、大概が対等な関係であるのが望ましい。だが土御門の面々に対して康太が対等であると思えるような人間はあまり存在しないのだ。


いたとしても晴と明くらいのものである。


だが晴と明は康太たちを上の存在として見ている節がある。同盟として正しいかも怪しい。かといって師弟関係というのもまた違う気がした。


「同盟関係ならともかく、師弟関係や上下関係は難しいですね」


「一応その理由を聞いておこうか?」


「そもそも俺はまだ師匠の・・・デブリス・クラリスから指導されてる身です。なので誰かを指導するというのはできません。たぶん師匠に『何言ってるんだお前は』って言われます」


仮に康太が誰かを弟子にするのなら、最低限小百合のもとを卒業するくらいの実力がないと難しい。


というか自分自身が中途半端に未熟な状態で誰かの指導に専念するなどできるはずもなかった。


「上下関係に関しては、俺は何人か・・・今ここにいる文もそうですが同盟を結んでいる相手がいます。そいつらは基本対等な関係を築いているので、俺が勝手に上下を決めるとそいつらも引っ張られる形で上下を作ってしまうことになるので・・・」


「なるほど、筋の通った言い分だ。そういうことならうちの誰かと同盟を結ぶがいい。お前たちと同世代のほうが好ましいのであれば・・・」


勝政は一瞬晴と明に視線をやったが、その名を呼ぶことはなかった。別に晴と明に対して同盟関係を結ぶということであれば康太たちとしても異論はないのだが、勝政としては何やら思うことがあるのだろう。


康太が疑問符を浮かべている中文は何となく勝政の葛藤を察していた。


晴と明は今でこそただの中学生だが、土御門にとっては将来の中核を担うことになるであろう魔術師だ。

その将来有望な魔術師と、デブリス・クラリスという魔術協会の中でも飛び切りの危険因子の弟子を簡単に結び付けていいのか迷っているのだ。


康太が積極的に面倒ごとに巻き込むような性格ではないのはある程度把握しただろうが、それでも飛び火してくる可能性がないとは言い切れない。


そのためここは少々方向性を変える必要があると文は考えていた。


「今回のお願いはなにも康太だけのものではありません。康太との同盟が難しいということであれば、私との同盟でも構いません」


「ふむ・・・そうか・・・」


自分の葛藤の内容を正確にいい当てた文に、勝政はわずかに目を細めながら文のほうにも視線を向ける。


エアリス・ロゥの弟子である文であれば、協会内でも評判が高いであろうこと、そして今後協会とのつながりを維持するうえでも問題がないであろうということ。


それらを考えると同盟を結ぶにあたって最も適切なのは康太よりも文のほうであることが判断できる。


危険の中に身を投じることが多い康太と違い、穏健派であるエアリスこと春奈の弟子であればそのあたりは問題ないと考えているようだった。


もっとも、康太と文が常に一緒に行動していることを考えるとあまり意味がないのかもしれないがそのあたりは協会の事情をあまり知らない土御門の人間ということもあってこの場では問題ないと判断しているようだった。


「では鐘子文、お前からして土御門に自らの同盟相手としてふさわしいものはいると思うか?」


「同年代、あるいは近い世代という意味で言えば土御門晴、明が該当しますが、彼らはあなたたちにとっても切り札に近い存在です。それを承知で許していただけるのであれば・・・もちろん本人たちの意向も考慮いたしますが」


そういって文は晴と明のほうに視線を向ける。二人は問題ないというかのように笑顔を浮かべた状態で何度もうなずいていた。


あとは土御門のほかの面々がこの同盟を認めるかどうかというところに焦点が集まってくる。


「本人たちはよし・・・とするか・・・では皆よ、この同盟、われらとしては受け入れるべきか否か」


個人間の同盟であれば勝手に結ぶことも可能かもしれないが、この同盟はあくまで土御門の一員として結ぶ同盟だ。


本人達だけではなく、他の土御門の人間の承認も必要になる。


だが逆に言えばこれさえ認めてしまえばあとは得られるものは大きい。情報を得たいのであれば土御門の身内に近い形となるために払う代価もそれなりのものでよくなる。


同盟相手への技術的な指導は問題なく行える。それが土御門の総意なのだ。


今のところ反対するような意見は出てきていない。声をあげる者もいなければ批判的な感情を向けている者もいないようだ。


先ほど康太に食って掛かっていた正平も、同盟相手なら求められている情報程度であれば指導するのもやぶさかではないと考えているのかもしれない。


逆に康太から多くのことを指導してもらおうとしている節もあるのかもしれないが、それはすでにやっているためにいまさらというものである。


「では、晴、明、お前たちがこの三人・・・いやこの二人のどちらとどのような同盟を結ぶか、お前たちの意見を聞こう」


一瞬選択肢の中に神加も入れかけていたが、神加が今回の件とはかかわりがなく本当にただ連れてきただけだったということを思い出したのか、勝政は神加を除いた二人を選択肢として提示する。


いかに土御門の家の人間が反対しようと賛成しようと、あとは本人の意志が強く反映される。ここで意見を求めるのは正しい判断だろう。


晴と明は少し前に出て姿勢を正すとそれぞれに視線を向けた。


「俺は八篠康太先輩と同盟を結びたいと思っています」


「私は鐘子文先輩と同盟を結びたいと思っています」


それぞれがそれぞれを指名するということで、どちらともつながりができるという意味では土御門にとってはデメリットよりもメリットのほうが大きいと判断したのだろう。その場にいる全員が肯定的な感情を抱いているようだった。


「では、反対意見がなければ、この時をもってそれぞれの同盟を締結するものとする。異議のある者はいるか?」


勝政の声にだれも反応することはなかった。この瞬間康太と晴、文と明がそれぞれ同盟を結ぶこととなる。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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