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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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康太の選択

「配下・・・とはずいぶんと・・・」


「いや、言い方が悪かったな・・・我が一族に加われといったほうが正確かもしれん。そちらの実力はよく聞いている。何なら我が一族の誰ぞを嫁に取り、正式に土御門の一族に加わっても構わん。先ほど訓練してやったという明も、なかなか年の近い女子だっただろう」


まさか配下どころか、一族に加えようとしているとは康太も予想外だった。そしてまさか自分にそんな話が回ってくるとは思っていなかったのだろう。明もかなり驚いているようだった。


明は康太のことを魔術師として尊敬はしていても恋愛対象として見たことなどない。歳が近いということもありそういう考えができないわけではないがあまりにも唐突すぎた。


そして、この話に関係のある文は心中穏やかではなかった。自分が好きな康太が土御門に婿入りするなど容認できるはずもなかったのだ。


本心で言うのなら、もし許されるのなら止めたい。声を上げて、康太の体を掴んで引き止めたい。


だがそれは康太が選ぶことだ。文は康太のほうに意識を向けながら、康太がどのように反応するのかただ待つことにした。


「それで・・・どうか?今ここで確約するのであれば、喜んで情報を提供しよう。何なら先ほど求めたものだけではなく、予知の魔術など、我が一族が誇る技術もお前たちに教えよう」


おそらく、他の魔術師から見たら破格の条件なのだろう。断るような人間がいないほどの情報量だ。


ただ結婚相手を決め、将来土御門の人間になるというだけで門外不出の技術をいくつも提供してもらえるというのだから。


協会内にいる魔術師のほとんどが、この申し出を断ることはないだろう。おそらく勝政もそのことをわかっていたのだ。


康太のような未来のある魔術師を自分の家に取り込むことは喜ばしいことだが、同時に詰まらなくもあるようだった。


だからこそ、康太が出した結論は勝政を驚かせただろう。


「そうですか・・・そういうことならこの話はなかったことにしてください」


そういって康太は頭を下げる。自分が言い出し、土御門の人間が提供してもいいだけの条件を話し合って決めてくれたというのにそれを蹴る。それが失礼なことだと思ったからこそ康太は頭を下げたのだ。


勝政は目を見開いてからわずかに眉を顰める。


「理由を聞くべきだな・・・何が不満だ?我が一族に加わることが不満か?それとも明がいやだということか?ならばほかにも女はいるぞ?」


「そういうことを言っているんじゃありません。今回俺が情報を求めたのはあくまで依頼が関係しています。その依頼を解決できるかもしれない手段を得るために来ています。その程度のことに俺の将来を丸々決める決断は重過ぎる」


「・・・つまり、そちらの目的に対して代価が重すぎると?」


「有り体に言えばそうです。ついでに言えば、俺は魔術程度のことで将来の伴侶を決めるようなことはしません」


魔術程度。その言葉に文は内心ガッツポーズをし、勝政は康太のほうを静かに見つめて続けていた。


だがその短く走る静寂を破ったのは康太に対価を求めるべきであると主張していた男性だった。


「若造が知ったようなことを・・・一族の力を知れば魔術に目がくらんで食いついてくるくせに・・・生意気なことを言う」


「魔術に目がくらんでいるのはいったいどちらでしょうね」


「・・・なんだと?」


「一族が長く続いていると、家の人間よりも家の魔術のほうが大事になるらしい。そんな家はこちらから願い下げです」


康太の言葉に男性は額に青筋を浮かべて立ち上がり大声を上げる。方言がきつくて康太には何を言っているのかはうまく聞き取れなかったが、それを見て勝政の眉間にわずかに皺が寄ったのを康太は見逃さなかった。


「やめよ正平、客人の前だぞ」


「一族を侮辱されて黙っていられるわけなかろうが!この若造に土御門が何たるかを」


「・・・やめろといったのが聞こえんかったか?」


勝政が強い殺気と怒気の含まれた視線を向けると、正平と呼ばれた男性は気圧され、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたあと康太のほうをにらむ。


康太のせいで自分が非難されたと思っているのだろう。事実その通りかもしれない。喧嘩をするつもりのない康太からすれば思ったことを言っただけだったが、少々攻撃的すぎた感は否めない。


師匠である小百合に似てきているという自覚を少しだけ覚えながら、康太は小さくゆっくりとため息をつく。


「このような形で皆様に集まっていただき、さらには俺の要求を通すための案まで考えていただきながら身勝手に断ることをお許しください。ですが俺の人生は俺が決めます。少なくとも俺が共に生きたいと思う人は俺が決めます。こんな形ではなく、きちんとした形で」


康太がその言葉を言いながら頭を下げる瞬間、ほんのわずかにその意識が文に向いたことをこの場で誰も認識することはできなかった。


すぐ近くにいる文でさえ、そのことには気づいていない。


康太の堂々とした態度に、勝政は先ほどまでの渋い表情をやめ、満足そうに笑みを浮かべていた。


その意味がどのような意味を持つのか、勝政本人にしかわからなかっただろう。昔の記憶を思い出しただけ、勝政は少しだけ懐かしくなりながら小さく息をついていた。


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