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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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出された条件

十三時過ぎ、康太たちは土御門の面々の集まっている大広間に戻ってきていた。


相変わらず部屋の奥に堂々と鎮座した当主勝政、そしてそれらを挟む形で並ぶ土御門の面々。


すでに話し合いは終わっているのか、土御門の面々の表情はそれぞれによって異なる。


渋い表情をしている者もいれば何の表情も浮かべずに無表情を貫いている者もいる。


各々思うことはあるのだろう、康太に対して自らの一族が積み重ねてきたものを伝えるか否かという分水嶺に立たされたのだ。何も思わないほうがおかしい。


康太が真ん中に、神加と文がそれぞれ左右に分かれる形で土御門の面々のちょうど中央に座ると、勝政は小さくため息をついてから康太に視線を向ける。


「待たせてすまなかったな。こちらとしても急な話で意見をまとめるのに手間取った。許せ」


「構いませんよ、無茶を言ったのはこちらですから。それに暇つぶしもできました、いい機会でしたよ、そちらの秘蔵っ子と訓練できたのは」


康太の言葉に数人の人物の視線が自分たちの位置に座った晴と明のほうに向く。


どのような感情を抱いているのかはさておいて、康太が訓練をしたということが気がかりのようだった。


自分たちの一族のものに、それも未来を担う天才二人に何か良からぬことを吹き込んだのではとわずかに康太に対して疑いの視線を向けてくるものもいる。


「そうか・・・うちのものが随分と世話になったようだな・・・率直に聞こう。あの二人を見てどう思う?」


「まだまだ未熟、実戦も知らないひよっこではあるけれど、才能はある。正しく鍛えることができれば間違いなく一流の魔術師になるでしょうね」


「・・・ふむ・・・未熟・・・か」


「えぇ、俺もまだ師匠を越えられない未熟者ではありますが、それよりもさらに未熟。魔術を扱えても魔術で戦う術を、戦いとはなんであるかを知らない。よく切れる刃を持っているというのに、その鞘で戦っているようなものかと」


康太の言葉に双子は褒められていると同時に貶されているということを理解しているのか複雑そうな表情をしていた。


だが康太の評価は事実だろう。いかに才能に恵まれていてもその才能を正しく生かさなければ宝の持ち腐れ。


正しく力を使えなければはっきり言って無駄もいいところである。


「・・・それで、あの二人のことはさておいて、俺たちの話をしましょう。もうすでに結論は出ているようですから」


康太は周りにいる土御門の人間に意識を向けながら目の前にいる勝政の目をまっすぐに見つめる。


結論を聞いていない以上判断はしかねるが、あまり康太たちにとっても喜ぶべき様なものではないように思えたのだ。


少し先ほどよりも渋い表情をしているように見えた。


もっともその顔にある皺の多さのせいもあって表情を掴み切れていないが、雰囲気や気配から彼の感情があまり良いものではないのは理解できる。


「八篠康太、ここに足を運んでくれたことまず礼を言う。かつてお前たち一派に世話になった恩を我ら土御門は忘れたわけではない」


「それこそ気にする必要はないでしょう。あの時俺たちは商談をしにやってきていた。その商談を邪魔した連中をただ蹴散らしただけ。一応は関係のないあなた方が恩を感じる必要はない。少なくとも俺に対しては」


師匠である小百合や兄弟子である真理がどうかはさておいて、康太は少なくとも恩義を感じる必要はないと考えていた。


おそらく小百合も同じことを言うだろう。土御門に対して繋がりができているだけで十分以上の報酬と取れなくもない。


もっとも形はどうあれ助けられた土御門としては『はいそうですか』と納得するわけにはいかないのは目に見えているが。


「そういってくれるのはこちらとしても助かる・・・・だがこちらとしてはそちらに恩義があるのは事実。そのことは頭に入れておいてくれ」


勝政がそこで一度言葉を区切り、視線をわずかにそらす。その先には先ほど康太たちに技術を教えるのであれば対価を要求するべきであると主張した男性が座っていた。


「だがそれはそれ、今回の件に関しては正しく対価を要求することとした」


その発言に一番反応したのは晴と明だった。どうしてそのような結果になったのか、いまだ信じられないという表情をしている。


今にも立ち上がって文句を言おうとしている二人にわずかに視線を向け、康太は黙っていろと目で告げる。


わずかに怒気さえ含まれた康太の視線に、双子は黙っているほかなくなってしまった。


「当然の判断であると考えます。それで、俺に要求する対価とは?」


「・・・こちらが提供する技術は、われら土御門の一族に伝わってきた技術の一部である。それを知ろうとしているのだ、それ相応のものをいただこう」


一族の秘術、あるいは代々続いたその技術の一端。それにふさわしいものを康太が持っているとは思えない。


考えられるのはデビットかウィルのどちらかだが、康太はどちらも差し出すつもりはなかった。


仮にもしそのどちらかが要求されたのであれば、この話はなかったことにするつもりで康太は目を細め、視線の先にいる勝政の姿を見つめる。


「・・・というと?」


「一族の積み上げたもの、一族の伝えた技術と歴史を一族以外の者に教えるのは、他の者に伝えるのははばかられる。故に、八篠康太、魔術師『ブライトビー』よ、われら土御門の配下に加われ」


予想していなかった言葉に、康太は一瞬目を丸くしていた。単純に対価となるものを差し出せと言われると思っていたが、まさか仲間、いや部下になれと言われるとは思っていなかったのだ。


それだけ康太のことを買ってくれているということなのだろう。うれしくもあるのだが少々複雑な気分だった。


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