二人の方針
康太の攻撃をかろうじて受けている明だが、最初こそぎりぎりのところでの防御だったが徐々に余裕ができ始めている。
それも康太に言われた通り、防御しながら予知の魔術を発動しているからである。
だが晴の時と同じように、康太が次の行動を取ろうとする、いわゆる行動の隙間に差し掛かると急に情報量が増え頭に強い痛みが走る。
それでも何とか康太に食らいついていけているのは単純に彼女の予知に対する適性の高さと言わざるを得ない。
康太は先ほど、ほんの少ししか打ち合わなかった晴が苦しそうな表情をしていたのを思い出していた。
晴に比べ、おそらく明は予知による負荷が少なく済んでいる、あるいは耐えることができているのだろう。
双子でもやはりこういったところに違いが出るのだなと納得しながら、軽く速度を上げてから回し蹴りを放って明の体勢を大きく崩す。
未来が見えていても反応ができない。どうやら明は晴ほど近接戦闘の才能には恵まれなかったようだ。
「なるほどなるほど・・・結構いい感じだな・・・すみわけもできそうだ」
「はぁ・・・はぁ・・・っつぅ・・・晴はこんなのに耐えてるんですか?」
連続して予知を発動し続けた反動によって頭を押さえている明は、すぐ横で自分たちの様子をじっと見ている晴に視線を向けた。
先ほどからやっている見稽古の意味を理解したのだ。先ほどから晴は自分たちの攻防を常に予知を使って確認していたのだろう。
自分がここまでの痛みを覚えているというのに晴があの様に平然としているのを見て明は信じられないといった様子だった。
「これもちょっとしたコツだな。晴、どうだった?どれくらい余計な情報をカットできるようになった?」
「んと・・・まだまだ切り替えが難しいです・・・タイミングずらすと情報量多すぎて・・・でも少しずつ掴めるようになってきましたよ」
先ほどからずっと見ていた甲斐はあったということだなと康太は薄く微笑む、晴と同じ指導をしてもいいのだが、せっかく明には明の特性があるのだからそれを無視するのも少しもったいないなと考えを進めていた。
「明、晴の奴は予知を常に発動させてるとどうにも動きがかなり鈍くなるレベルで頭が痛くなるそうでな、余計な情報を得る瞬間に発動をやめる訓練をやってるんだ」
「・・・それって・・・意味あるんですか?」
「たぶんある。それができれば予知で相手の行動を読んで近接戦ができるようになると思う。けどたぶんこの方法はお前には向いてない」
「・・・才能ないってことですか?」
「逆だな、お前の場合晴よりも予知の才能があるっぽい。普通に数分間予知を発動し続けて戦えただろ?あいつはほんのちょっとで吐きそうになってたんだぞ?」
晴が自分よりも予知の常時発動に耐えられなかったという事実に、少しだけ明は得意げな表情をする。
当然晴は反論しようとしたが、事実であるのだから仕方がない。そのせいでこうして見稽古に徹しているのだから。
「でもあれだな、近接戦の才能は晴のほうがあると思う。明はもともと射撃型だろ?たぶんなかなかいいすみわけができると思うぞ」
「どうしてですか?」
「射撃系の攻撃なら予知が一瞬で覆ることはあんまりないからな、入ってくる情報量が格段に落ちる。たぶんお前なら常に予知を発動した状態で射撃戦ができるようになるんじゃないか?」
要所要所に予知の魔術を発動する従来の京都の魔術師とは異なり、常に予知の魔術を発動できるようになればそれこそ普通の魔術師ではほとんど手も足も出せなくなるだろう。
その分消費魔力がけた違いに多くなってしまうが、そのあたりは天才というべき素質にすがるべきだ。
晴曰く常時発動しても問題ないレベルの魔力消費なのだから、通常の射撃戦を行える程度には魔力も残っていることだろう。
「というわけで文、さっそく二人の訓練に戻るぞ」
「戻るって・・・それはいいけど、どうするわけ?」
シールはがしをしている文は神加の攻撃から辛うじてよけながら神加の体に張ってあるシールを奪おうとする。
だが康太や真理ほど鋭く、うまくシールを奪えないせいか膠着状態が続いているようだった。
「俺は神加とシールはがし、晴はそれをよく観察、文は明と魔術の射撃戦をやってくれ。文が攻撃で明が防御な。ちゃんと手加減しろよ?」
康太が次のシールはがしの相手と知って神加は勢いよく文の体に抱き着くとその体に張ってあったシールを二枚ほど奪っていった。
会話の隙にしっかりとシールを奪うあたりさすがは康太の弟弟子だなと、してやられた気分になりながらも文はため息をつく。
「いいの?射撃戦って具体的にはどんな感じ?」
「そうだな・・・怪我しない程度の弱い攻撃ってできるか?ちゃんと射撃系の奴で」
「・・・できなくはないわ。実戦でも使えないような弱いのでいいのね?」
「あぁ、今はまず慣れることが大事だからな」
それぞれ予知魔術をどのように使うかが分かれた時点で指導方法も別けたほうがいい。康太は神加と訓練をしながらそれを見せることで近接戦における予知のスイッチのオンオフを、文は射撃攻撃をしながら常時発動の予知に慣れさせる。
文は康太に説明されてなかなか指導が上手いのではないかと康太の新たな一面に少し驚いていた。




