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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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未来予知の弊害

「いって・・・なんで・・・?ちゃんと予知したのに・・・」


きちんと未来を予知し、康太の攻撃を完全に見切り反撃ができたと考えていた晴だったが、康太には対処され、さらに反撃までされたこの事実を理解できずにいた。


未来予知は絶対であると考えている節があるのかもしれない。少なくとも予知に出てきた未来は絶対であると今までの訓練の中では証明されてきたのだろう。


だが未来は絶対ではない。確定した未来などないように、簡単に起こせる事象は簡単に覆せる。


「お前が未来を予知したことでとった行動を見て、俺が行動を変えただけだ。未来ってのは見た時点での未来だからそれから先自分が予想外の行動をすればそりゃ結果も変わる」


「・・・それじゃ未来予知って近接戦じゃ役に立たないんですか?」


通常の攻撃魔術のように、一度はなってから軌道が変わらなかったり、法則が変化しない魔術に対しては回避、対処は比較的容易にできる。


どこに着弾するのか、どこに向かってくるのかがわかれば魔術など使わなくても避けることはできる。


何より一度見てから着弾位置が変わらないために、距離を保った魔術師同士の射撃戦であれば未来予知は絶対的な力を発揮するだろう。


以前康太もそれに苦しめられた覚えがある。


「役に立たないことはない。だけど忘れるな、今やってる訓練はあくまで近接戦闘と魔術を同時に扱えること。特に未来予知を同時に扱えるようになることだ。射撃戦でも近接戦でも、相手の動きを見ることができるのはかなりの利点だぞ?」


「・・・そうかもしれないですけど・・・対応されちゃうじゃないですか」


「対応されないだけの速度でお前が動けばいいだけの話だ。そこまで反応速度に差がなきゃ対応するのは難しいぞ」


康太の言葉に、それは暗に自分との速度差がありすぎるのだなと理解した晴は複雑そうな表情をしながら木刀を構える。


「ちなみに、未来予知をしてる間実際に目の前に起きてる現象はどういう風に見えてるんだ?」


「えっと・・・未来予知は脳裏にそれが映るくらいです。なのでちょっと工夫すると未来予知の映像と現実の映像がダブって見えますね」


「へぇ・・・ちなみにさ、予知の魔術なんだけど、見た瞬間から行動を変えた場合はどう見えるんだ?」


「え?それは・・・試したことないです・・・っていうかそんないきなり行動を変える人とかいないですから」


行動を変えるということは自分の行動が見られているということを理解して、見られた予知の時間内の行動を変化させなければいけない。


先ほどの康太の様に、対応されたから対応したというような半ば反射的な行動でもない限り自分の行動を急遽変更するなどということはしない。


ほとんどの魔術師、いや人間に言えることだが自分の行動がすでに把握されているとしてもそんなに簡単に行動を変えることはできないのだ。


「じゃあ次の攻防は常に予知を見続けてくれ。ちょっと辛いかもしれないけど」


「い、いえ、頑張ります」


「よし、んじゃかかってこい」


未来予知の欠点とでもいうべきだが、見た瞬間からの未来はあくまで見た時点での未来でしかない。発動中に急に未来が変わった場合どのように予知の魔術が発動するのか、それを確かめておいたほうがいいと思ったのである。


攻防を逆転し、今度は晴が木刀を振りかざし思い切り康太めがけて攻撃する。当然康太は軽く回避する。後方に素早く移動することで木刀の攻撃範囲から逃げ晴の攻撃を空振りに終わらせるのだが、晴は木刀が振り終わるよりも先にさらに踏み込んだ。


最初からそこまで強く振っていなかったのだろう。振りかけの木刀を強く握り、康太めがけて突きを繰り出してくる。


おそらくこの光景は未来予知で見ていたために避けられるとわかっていたのだろう。ならば避けられた後、康太が少しでも攻撃の体勢ができていない状態で追撃をする


フェイントに対しての回避は予知通り。そしてこの先はどうだろうかと康太は突きの攻撃に木刀を添えるような形で受け流し懐に入り込む。


すると晴はその行動をしっかりと確認できていたようで康太から離れようと横に跳躍しながら苦し紛れながらに木刀を横薙ぎに振るう。


康太はその木刀をもう片方の木刀で防ぎながらさらに接近しようとするが、この時点で晴がかなり苦しそうな表情をしていることに気が付いた。


「どうした?大丈夫か?」


「あ・・・・はい・・・!だいじょぶ・・・です・・・!」


攻撃もなにも当てていないのにこの苦悶の表情は普通ではない。康太は木刀を一度置き、訓練を中止すると晴のもとに駆け寄り、晴を強引に座らせると深呼吸させた。


「一度休むぞ・・・平気か?」


「すいません・・・常時未来予知してると・・・頭が割れそうになりますね・・・」


「・・・どういう感じなんだ?情報が入りすぎる感じか?」


「えっと・・・そうなんですかね・・・?一回の動作をするごとに見える光景が違うっていうか・・・なんかこう・・・可能性がぶれてるっていうか・・・一番可能性の高い未来が見やすくて・・・低いのは見えにくいっていうか・・・」


おそらく晴には先ほどの攻防の中でいくつも見える光景があったのだろう。それは康太がとろうとした手段の数に他ならない。


だが一度に見える光景に限りがあるのにもかかわらず、未来予知の魔術は見える光景をすべて見せようとする。瞬間的な、単発的な使用であれば一つの未来しか見えないが、継続して、連続してみようとすると行動によって変化する未来すべてを見てしまうようだった。


似たような痛みを康太も経験したことがある。小百合に苦痛同調を教えてもらっていた時の話だ。


いきなり大量の情報量を脳に流し込まれると頭痛に似た痛みが走る。それを強くしすぎると一種の攻撃にもなるが、おそらく未来予知では自滅する未来しか見えないだろう。


「なるほど・・・となると継続的に未来予知をするのは危険すぎるか・・・未来予知の条件って変更できるんだよな?」


「はい・・・遠い未来を見ようとすると魔力がその分必要になったりします」


「逆に近い未来であればそこまで必要ないと・・・継続発動の際の魔力消費はどんなもんだ?」


「えっと・・・普通に常時発動しても問題ないレベルです」


予知魔術の常時発動における消費魔力量は決して少なくないが、そこは才能に恵まれた土御門の秘蔵っ子である。


決して少なくない量の魔力消費のものを常時発動しても問題ないレベルの供給口と貯蔵庫があるということだ。


うらやましい限りだなと思いながらも常時発動するにはこの未来予知の魔術は少々危険すぎる気がするのだ。


きっと小百合であれば『そんなもの慣れれば大丈夫だろう』と言ってのけるだろうが、そういう問題ではないのだ。


いやそういう問題なのかもしれないが晴はあくまで土御門の人間、康太があまりにもスパルタな訓練をつけるのは筋が通らない。


「よし、じゃあちょっと見稽古してみるか。ちょうど向こうで文と明が組み手やってるから、それを見ながら予知の魔術を常時発動してみろ。たぶん情報量が一気に増えるタイミングがあるはずだからそれを見極めてみろ」


「そんなのあるんですか?」


「ある。行動と行動の隙間っていえばいいかな?次はどうするとかどういう行動をとるか判断する隙間がたぶん一番予知の情報量が増える。そこを見極めてその瞬間だけ予知の発動をやめられるようにすればたぶん情報量は格段に減らせる」


頭が痛いのも多分なくなるぞと軽く言いながら、晴は不思議そうな顔をしながら康太のほうをまじまじと見ていた。


「どうした?」


「いえ・・・その・・・先輩は予知魔術は使えないんですよね?」


「使えないぞ?」


「なのに・・・なんでそんなことがわかるんですか?」


なぜそのようなことがわかるのか。と言われても康太としてはこれはあくまで仮設の段階だ。まだ確定というわけではないため晴に試させているに過ぎない。


だが晴は康太が予知の原理を正しく解析し、使用者である自分に教えようとしている、まるで予知の第一人者の様に見えてしまっていた。


しかも、実際に文と明の組手の様子を観察していて康太の推察は当たっていたのだ。要所要所とでもいえばいいか、予知の情報量が急激に増す瞬間が確かにある。


互いの攻撃の発生の瞬間、あるいは攻撃が終わった後の反撃の瞬間、それぞれの攻撃と防御を行う少し前に膨大な量の情報が晴の頭の中に送られてくる。


「うっわ・・・これきっつ・・・!」


「今は二人を同時に見てるからきついけど、自分が相手にしている人間だけだったら処理は半分で済むな。逆に言えばこの見稽古で完全にスイッチのオンオフができるようになれば自分が戦う時はさらに楽に予知が使えるようになると思うぞ?」


「・・・先輩も予知覚えたらこういうことしますか?」


「するな・・・と言いたいところだけどその仮定は無意味だな。間違いなく土御門・・・っていうか京都の人間は予知魔術を外部に教えたりしないだろ。それに場合によっては使ったら逆に不利になる可能性があるしな」


土御門の人間に限らず、京都の人間は多く予知魔術を使えるがその魔術を外部に教えるということはまずないだろう。


何せ多くの魔術師が存在している中で予知魔術というのかなり貴重なものなのだ。


未来の情報をほぼ何のデメリットもなしに得ることができる。これはかなり重要な魔術だ。


これがあるからこそ四法都連盟は協会の中でもかなり高いレベルでの警戒をされるだけの組織となっている。


今は組織間での争いがないために友好な関係を築けているが、もし何かがあったら面倒な事態に発展するのは目に見えている。


そういった状況を見越して、自分たちの脅威度レベルを下げないためにも京都の人間は自分たちの秘儀ともいえる未来予知の魔術を教えたりはしない。


今回康太たちが頼んでいるのも秘術と言えなくもないが、これは一般的な魔術が派生してきた技術の一端であるためにそこまで重要なものではない。


だがそれでも土御門の中で代々伝わってきたことに変わりはない。だからこそ今上役の人間は話し合っているのだ。


「不利になる状況って・・・例えば?」


「相手に未来予知を持っているってことが知られると、その分対応される。どの未来が見えてるのか、どこまで見えてるのかとか解析されて対応される。予知に頼りすぎるとそういったところで不意を打たれるな」


「・・・そんなこと実戦の中でできるんですか?」


「俺や師匠たちならそうするってだけの話だ」


自分たちならやって見せる。やらなければ負ける。そう真剣に考えているのが小百合を始めとする血脈の恐ろしいところだろう。


そして自分たちがそれをやるのであれば、ほかの人間がそれをしても不思議はないと平然と考えるのが、彼らの真に恐ろしいところでもある。


小百合も康太も天才ではない。凡人が努力を愚直に積み重ねて今の実力を持ち合わせているのだ。


つまりどのような人間でも訓練の方法さえ間違わなければ同等の実力をつけられるということでもある。


それは小百合と康太が一番理解している。そのため自分たちよりも強い人間がいて当たり前というのが師弟としての共通の認識だった。


「あんたらどうしたの?休憩?なんで神加ちゃんと遊んでるのよ」


文と明が先ほどからずっと見られていることに気が付いたのか、一度組み手をやめて康太たちのほうに歩み寄ってくる。


晴はずっと文と明の組手を見続け、康太と神加は暇だったためにシールはがしの訓練を行っていた。


「いやいや、これもれっきとした訓練だ。こいつの予知の技術を上げるためには必要なことなのだよ」


「・・・予知ねぇ・・・せっかく私たちが一緒にいるんだし、肉弾戦の訓練してあげればいいじゃない」


「まぁ今日も明日もあるんだしさ、どうせなにしたって結果が変わらないならしっかり指導してやったほうがいいだろ?何事も経験経験」


康太は神加の攻撃、というかシールを奪おうとする動きを華麗に回避しながら逆に神加の体についているシールを素早く剥がして奪い取る。


普段攻撃を当てることしかしてこなかった康太だが、体に当たるギリギリのところで掠らせるというなかなか技術が必要なシールはがしにかなり白熱しているようだった。


神加の低い身体能力でも、しっかりと技術が伴い始めているためになかなか避けにくい攻撃をしてくる。

胴体に攻撃を集めることで動きにくくしているのだが、そのあたりはリーチの違いが災いしなかなかシールを奪えていない。


とはいえ完全にリーチを活かして一方的に攻撃したのでは神加の訓練にならないために、適度に懐に入れてやっているのが見て取れる。


晴や明からすれば遊んでいるようにも見えるし、まじめに鍛えているようにも見えるなんとも不思議な光景だった。


「晴はいいわけ?あんなふうにしてるけど・・・得るものはあったの?」


「はい・・・かなりあります。ぶっちゃけこれを使いこなせればだいぶ強くなれるはずです・・・!」


「・・・そう・・・まぁ本人が納得してるならそれでいいわ・・・で、あんたは何を教えたわけ?」


「大したことじゃないって。近接戦における予知の活用法を見出しただけだ・・・といっても操れるようになるかどうかは晴次第だけどな」


康太が言っているのはあくまで理論的な活用法だ。それを実際に使えるようには何度も何度も予知を使い鍛錬を積むしかない。


使えるようになるかどうかは晴次第というのは嘘でも謙遜でもなくれっきとした事実なのだ。康太はあくまでこういう風に使ったらどうだと案を出しただけである。


「先輩、私にもその方法教えてもらっていいですか?」


「構わないけど・・・そうだな・・・じゃあ実際に訓練をやってみるか。神加、選手交代、文とシールはがしだ」


「んー・・・勝てなかった・・・」


「ふっふっふ・・・まだまだ俺も未熟だが、弟弟子に勝たせてやるわけにはいかんな。精進するんだぞ?」


康太は嬉しそうに神加の頭をなでる。神加も嬉しそうに撫でられた後、隙ありとでも言わんばかりに康太の服に張り付けられていたシールを一枚奪う。


不意打ちの一枚とはいえシールを奪われた康太は一本取られたなと苦笑しながら体に張り付けられていた残りのシールを文に渡すと、文が担当していた明と向き合う。


「明は確か接近戦の場合は肉弾戦だったっけか?」


「はい、よろしくお願いします」


康太もそこまで肉弾戦が得意というわけではないが、少なくともそういった訓練をしたことがない人間に負けるつもりはなかった。


康太と明が対峙する中、晴は正座した状態で二人の様子がしっかりと見える場所で二人の戦いを『見る』つもりのようだった。


見稽古とはよく言ったものだ。見ることそのものが稽古になっている。これはなかなかに良い訓練法を思いついたかもしれないなと思いながら康太は腰を下ろして静かに集中し始める。


康太と直に対峙している明は康太の目にわずかに気圧されていた。


先ほどまで対峙していた文とは全く違う。文は良くも悪くもただの訓練のつもりで対峙していた。

だが康太は真剣に自分と向き合っている。


まるで本気の戦いとでもいうかのような集中の度合いだ。


「・・・あの・・・本気は・・・出しませんよね・・・?」


「・・・ん・・・?あ、そっか、そうだ、すまん・・・ちょっと気合い入れすぎた」


明の言葉に我に返ったのか、康太は息を抜いて首を横に勢い良く振る。


「悪かった、普段徒手空拳の訓練してる人は本気でやらないと軽く気絶させられる人だから・・・武器持ちの時ほど加減ができないかもしれない」


康太の得意な武器の攻撃などであればある程度加減もできる。だが康太は徒手空拳をそこまで得意としているわけではない。


普段この訓練の相手をしているのが幸彦なだけあって、半端なことをすれば簡単にやられてしまう。そのため肉弾戦の訓練の時はどうしても気合のノリが違うのだ。


もうちょっとうまく相手を選ばないとなと思いながら康太はゆっくりと深呼吸して静かに構える。


「んじゃいっちょやってみるか。お題は一つ。常に予知の魔術を発動してみろ。それができたら次の課題だ」


「え・・・常にですか・・・?」


「そうだ。まずは軽く準備運動からするか」


そういいながら康太は明めがけて軽く拳を振るう。先ほどまでの文との訓練で体はあったまっていたのか、明はかろうじて反応して防御して見せた。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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