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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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彼女の弟子

康太は自分の右側にいた神加を守るように躍り出ると同時に襲い掛かってくる男性の得物を確認してそれを持っている手を掴むと同時にひねりあげ、体勢を崩しながら足を蹴り上げることで強引に地面にたたきつけそのまま組み伏せる。


男性が持っていたのは刃の部分を潰してある、所謂模造刀の類だった。明らかに戦う意志はないがとっさの判断を求められる試験のようなものであると康太は判断していた。


「ほうほう・・・なるほど、さすがは藤堂の弟子というべきか・・・この程度の攻撃では全く意にも介さない」


「いきなりこんなことをするとはずいぶんとご挨拶ですね・・・刃物がまともなものではなかったとはいえ喧嘩を売っていると思われても仕方がありませんよ?・・・師匠がこの場にいなくて本当によかった」


「ふむ、きっとあれなら刃物を取り出した段階でその腕を切り落とすくらいはするだろうからな。そういう意味ではまだ冷静に物事を見られているというべきか?」


「いろんな人から釘を刺されていますからね・・・四法都連盟の人間に失礼なことはしないようにと」


そういいながらも康太はまだ襲い掛かってきた男性の腕をひねりあげて拘束したままにしている。


いくら刃を潰してある模造刀とはいえ、思い切り突き刺せば怪我もする。今は康太たちは靴を脱いでいるためやらなかったが、もし康太がナイフを持っている手を蹴ったりしてその刃物を弾き飛ばそうとした場合どうなっていたかわからない。


そして何より、康太は別のことを言わなければならなかった。


「今回のこれはなかったことにしますが・・・次はありませんよ。もし俺の身内に手を出そうとしたら・・・その時は覚悟してください」


康太が殺意さえ込めてそういうと、勝政は薄く笑みを浮かべていた。康太が向けてきた強く鋭い視線、刃物のような研ぎ澄まされた殺気に康太の背後に小百合がいるかのような錯覚を覚えてしまったのである。


弟子は師に似るとはよく言ったものである。勝政は笑いながらゆっくりと頭を下げる。


「失礼した、二度とこのようなことがないように一族皆に言い聞かせよう。八篠康太よ、間違いなくお前は藤堂の弟子であるらしい」


たった一瞬のことだったが、勝政が康太の技量を見極めるのに十分すぎるやり取りだったのは言うまでもない。


その気になれば康太は組み伏せられたままの男性が気絶するような攻撃をすることだってできたのだ。


その気になれば刃を持った手をひねり、そのままその体に突き立てることだってできたのだ。


だが康太は無力化することを最優先に考え行動した。自分の思う通りに実行できるだけの技量を持っている。魔術師らしからぬ体術の使い手。


そして決め手は康太が放ったこの殺気だ。勝政からすればまるで生き写しのように感じられただろう。


肌に突き刺さる殺気、それはかつて勝政本人が感じたそれと同質のものだった。


康太が自分たちに襲い掛かった男性の拘束を解くと、男性はひねりあげられた腕に痛みを覚えているのかわずかに苦悶の表情をしながら自分の座っていた場所へと戻っていく。


そして康太が先ほどと同じように座ると勝政は神加が先ほどの荒事の中、じっと自分を見つめていることに気付く。


何か気になることでもあるのだろうかと不思議に思いその目を見返すと、勝政はわずかに寒気を覚える。


神加のその目を見て、かつて見た誰かを思い出しているのだ。


その誰かがいったい何者であるか、思い出すのに然程の時間はかからなかった。


康太の師匠である小百合の師、岩下智代。彼女の目にそっくりなのだ。


なぜ小百合がこの幼い少女を弟子に取ったのか、少しだけ不思議だったがその目を見て疑問は解消していた。


「・・・なるほど・・・面白い人材がそろっているようで何よりだ・・・さて・・・八篠康太、今回お前たちがこの場所にやってきたその理由を教えてもらおうか」


理由、あらかじめおそらく双子から聞いているのだろうが、この全員がそろっている場で本人の口から言わせることに意味がある。


おそらく土御門の主要人物がすべてそろっているであろうこの状況で、康太が求める技術や知識を有している人物を割り当てる目的もあったのかもしれない。


それに何より康太は頼む立場だ。他人任せの人づてではなく、自分の口から頭を下げるのは至極当然である。


康太は姿勢を正し、勝政に向かい合った。


「協会本部の依頼によって、とある呪いがかけられた物品を解析することになりました。ですが俺たちは呪いという系統の魔術に関してはほとんど何も知らない状態です。その中でも現象を媒体にして術式を伝達するような技術は全く知りません。なのでそういった技術や知識を教えていただきたく、この場を設けていただきました」


なるべく簡素に、自分たちが何を求めて何を欲しているのかを端的に述べ一呼吸おいてから再度姿勢を正す。


「陰陽師として京都に続いている土御門の家であれば、そういった技術の伝承などもあると考えこうしてやってきました。どうかその技術、知識を教えていただければと思います」


康太がそういって深々と頭を下げると同時に、文が、そして少し遅れて神加が深く頭を下げる。


礼儀は通す。仮に向こうが康太たちへ恩を返したいと思っていても頼み事は頼み事だ。それで教えてもらうのが当たり前だと思ってはいけない。


何せ陰陽道における技術の一部を教えろと言っているのと同じなのだから。これで仮に断られたとしても仕方がないと康太は考えていた。


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