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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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到着、京都

週末の金曜日、康太と文と神加は新幹線に乗り込んで京都へと移動を開始していた。


協会の門を使用してもよかったのだが、せっかく神加を連れて京都に行くのだから味気ない門での移動よりも新幹線などの交通機関を使ったほうがいいと考えたのである。


夕方学校が終わってから京都に行くということで少々慌て気味に出発したわけだが、康太たちは新幹線に乗ってゆっくりと二時間半ほど移動し続けていた。


「そういえば前回は車で行ったんだっけ?どのくらいで捕捉されたの?」


「捕捉自体は車で京都府内に入った時点でされてたっぽいな。そういう索敵網を敷いてるんだと思う。たぶん魔力に対して自動反応するタイプかな」


「ふぅん・・・あんたは気づいた?」


「いや、俺はその時そういうのは気づかなかったな。特にそういうことに対しても知識なかったし、京都がそこまで危ないところっていう印象もなかったし」


今も康太は京都がそこまで危ない土地であるという印象は持っていない。だが実際にあのようなことに巻き込まれたからには何かがあると考えてもいい。


普段協会にいる間個人間での争いしかないのに対し、四法都連盟では四つの大きな家が運営しているということもありその家同士での争いやいさかいが絶えない。


それが原因となり、いろいろと面倒に巻き込まれるわけなのだが今回もそのようなことがないとは限らないのだ。


「ねぇお兄ちゃん、京都ってどんなところ?」


「んー・・・話し方が独特な人たちがいるぞ。もしかしたら会えるかもな」


「どんな感じ?どんな話し方?」


「・・・えっと・・・そうなんやなとか、そんなことないでとか、そんな感じかな」


「テレビで見たことある!そんなんあるわけないやん!とか!」


「お、よく知ってるな。そういう人たちがいる場所なんだ」


さすがはテレビ大好きな現代っ子、ある程度の知識は持ち合わせているようだなと康太は少しだけ感心してしまっていた。


子供は大人の知らないところでいろいろと学習しているのだなと思いながら、自分もまだまだ子供だけどと小さくため息をついていた。


「お姉ちゃん、おやつ食べてもいい?」


「今食べると晩御飯食べられなくなっちゃうわよ?」


「ちょっとだけ・・・ダメ?」


「・・・じゃあお姉ちゃんと半分こしようか」


文と菓子を分け合っている神加を見て本当の姉妹のようだなと思いながらも、康太にはその姿が母親と娘のようにも見えていた。幼い神加としっかり者の文、そう見えてしまうのも仕方のない話だが康太は少しだけ複雑な気分でもあった。


文に告白されて、文が自分の子供を産むという未来を想像した康太はこの光景がいずれ自分もかかわる未来になるのだと思えて仕方がなかった。


「はい」


「・・・ん?」


「お兄ちゃんにもあげる」


神加がそういって差し出してきた菓子を康太は薄く笑みを浮かべながら受け取る。口の中に放り込むと洋菓子独特の甘さと香りが広がっていく。


「うん、美味い」


康太が笑みを浮かべると神加も柔らかな笑みを浮かべていた。その笑みを見ながら康太は少しだけ安心していた。


かつては人形のように無表情だった神加が、いつの間にかこんな風に笑うようになったのだ。


明らかに精神に異常をきたしていた彼女もここまで持ち直している。幼さが良い方向に作用したと思うべきか。


つらいことがあってもそれを忘れることで平常に近づけることができる。


少なくとも現段階で神加は普通の子供と大差ないように思えた。一度アリスに神加の記憶を覗いてもらう必要があるかもしれない。


もう一度あの光景を思い出したらどうなるかわからない。ここまで表向きは普通にしているのだから、何かしら記憶にも変化があってもいいかもしれない。


小学校に上がるとき、そして上がってから何か変化がないことを祈るばかりである。


「そういえば晩飯はどうする?特に何も考えてなかったんだけど」


「そうねぇ・・・今回泊まるのは?宿はとってあるんでしょ?」


「あぁ。一応京都のビジネスホテルを取ってある。四人用の部屋だから結構広いぞ」


「その宿には食事処はないの?レストランとかと一緒になったりしてないわけ?」


「せっかく京都まで行くのにホテルのレストランってなんか寂しくないか?せっかくならこう・・・どっかの定食屋とかさ・・・」


せっかく京都まで行くのに食べるのがただのレストランの食事では京都に行かなくても食べられるようなものを食べることになってしまう。


それならば近くの有名な食事処に行ったほうがいいように思ったのだが、ここで文は首をかしげてしまう。


「でも京都って何が有名なわけ?私八つ橋とかは知ってるんだけど京都の食べ物で何が美味しいかとか知らないんだけど」


「・・・粉ものとか?」


「それは大阪じゃない?お蕎麦とか?」


「あぁ、そういえば前に食べたのは蕎麦だったか・・・でも晩飯に蕎麦か・・・」


康太の中の勝手なイメージだが、蕎麦は夕食にするものではないように思えたのだ。どうせならもう少しちゃんとしたものを食べたいが、どうにもイメージができない以上選択そのものができそうになかった。



康太たちはとりあえず京都に到着するとすぐにホテルに向かっていた。まずはチェックインして身軽になってから行動しようと考えたのである。


だがこの時点で康太は眉をひそめて警戒の色を強くしていた。その気配を感じ取った文も同じく警戒を強くする。


「なに、もう見られてるわけ?」


「見られてるな。我ながら師匠の弟子ってだけはあるわ。到着しただけですごい注目されてるよ」


康太たちが京都の駅に到着し、改札を出た段階ですぐに遠視の魔術が発動されたのか、見られている感覚が非常に強く康太たちにへばりついていた。



その感覚を察知できているのは康太だけだが、神加も何やらもぞもぞと落ち着かない様子だった。


「どうしたの神加ちゃん、具合悪い?」


「んーん・・・なんか・・・わかんない・・・けど・・・なんか・・・やだ・・・」


何がいやなのか、何が不快なのかは神加自身わかっていないようだったが、この見られている感覚をどうやら感じ取っているらしい。


幼いながらに鋭い感受性をしているなと文は驚きながら神加の目を見ていた。その視線は動き続けている。どこかからか向けられている『目』を捉えているようにすら思えるほどだった。


「さすがは我が弟弟子、どこから見られてるかばっちりわかってるな」


「あんたもわかるわけ?」


「あぁ、神加が視線を向けた方向が大体そうだな。今のところ四つ・・・いや五つ発動されてるな。それぞれ別の奴だな」


現段階で康太が感じ取れる視線は五つだけ。その方角は先ほど神加が視線を動かしていた方向と合致していた。


この幼さですでにこれほどの感受性を有しているあたり、神加は天才なのかもしれないなと康太は自分の弟弟子のすばらしさに感動していた。


「なんでそんなに・・・いやがらせかなんか?」


「いやいや、索敵網の関係で複数の家が索敵の人員を割いてるんだろ?一応ここが京都の玄関口の一つだ。電車で来るにはここを使うしかないしな。あとは道路、そういうところには必ず監視がされてるんだよ。一応ここは連中が管理してるからな」


「協会の人間も一応いるんでしょ?」


「もちろんな。でも協会の人間もやっぱり四法都連盟とのもめごとは嫌なんだよ。連中はここから動くことはあんまりないから、ちゃんと統治してくれるなら勝手にやってくれって感じなんじゃないか?」


康太の言葉にそんなものなのかなと文は眉をひそめながらも周囲からの視線を感じ取ろうとするがやはり難しかった。


先日真理がやってくれたような強い殺気を込めた視線であれば文も何かしらを感じ取ることができたかもしれないが、残念ながら文はそういった訓練をしてこなかった。


この辺りは師匠の違いが大きく出たというところだろう。


「索敵する?一応近くにいれば確認くらいはできると思うわよ?」


「んー・・・近づいてくる奴だけ確認だな。範囲絞ってそれで確認しよう。それ以外の連中に余計な圧力かける必要もないだろ。とりあえず晴に連絡しとくな」


康太は携帯を取り出して今京都に到着したことと、これからホテルにチェックインすること、そしてその後に食事に行きたいがどこかおすすめはないかということを聞くために電話を始めていた。


文は康太に言われた通り自分たちに近づこうとする魔術師だけを警戒するために半径五十メートル程度の索敵を展開する。


物理的な索敵だけではなく魔力の探知もできるタイプのものだ。強い魔力を有していれば一発で感知できる。


「お姉ちゃん・・・」


周りから向けられる遠視による監視が気持ち悪いのか、神加は複雑な表情をしながら文の服の裾を掴んでいる。


見たことがない場所にやってきた不安というのもあるのだろう。少しでも文の近くにいようとすがるような表情をしていた。


「大丈夫よ。ちょっと珍しいから見てきてるだけ。私たちは何も心配しなくていいわ。いざとなったら私と康太がしっかり守ってあげるから。それにウィルもいるでしょ?」


「・・・うん・・・」


ウィルは今康太がギターケース状にして持っている。有事の際以外はこのような形で固定するように指示してあるのである。


こんなところでいつものような形になったら騒ぎになってしまうこと請け合いだ。


文は神加を安心させるようにやさしく抱きしめてその頭を撫でてやる。自分たちに向けられる視線というのを理解できれば、文にも何かしらの行動ができたかもしれないが、あいにく文はそういうことがわからない。


何とかしなさいよと康太のほうに視線を送ると、康太は電話しながらもわかったよと手で返事しながら小さくため息をついていた。


「あぁそうそう、あとこっちを見てる連中に見るのをやめろって言ってくれないか?見られて怖がってる子がいる・・・そうそう・・・いや文じゃなくて、俺の弟弟子だ。まだ小さい子なんだよ・・・あぁ、大至急頼む。じゃないと俺もなにするかわからん」


いったい何をするつもりなのだろうかと文は疑問に思っていたが、康太がその気になったら場所を解明して即座に叩き潰すくらいはできるだろう。遠くにいる敵を攻撃する手段を康太は持っているのだ。文は知らないが、以前似たような方法で監視者を捕まえている。


今回はあらかじめ知り合いがいるためそういうことはしなくても済みそうだった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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