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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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呪い発動

体の異変を感じたのは物語が進み、そろそろ中盤くらいになってきたころだった。


このころになってくると康太と文も徐々に物語を思い出し、英語の内容も何となくわかるようになってきていた。


そんな時、康太の視界に一瞬広大な大地と遠くを走る何かの動物の光景が見える。それが術式が発動した証であると気付くのに時間は必要なかった。


そして康太がテーブルの上に置いてある飲み物に手を伸ばそうとしたときその感覚に気付く。


「・・・ん・・・なんかだるいな・・・」


「だるい?風邪?」


「いやこの状況でそれはないだろ・・・なんか力が入れにくい・・・なんか今見えたし・・・たぶん呪いが発動したな」


康太はまだ自分の中に入れられているという術式を見つけられずにいた。自分で一からくみ上げたものと違い少しずつ組み上げられたものだと見つけにくいのだろう。


対して文は組みあがった術式をすぐに見つけ、術式が発動しているということを正確に把握していた。


「・・・身体能力弱体化かしら・・・?まずは小手調べって感じ?」


「出力自体はそこまで高いものじゃないけど・・・なるほど、こういう感じなのか・・・自分には使えないけど誰かに使えたら面白いな・・・デバフになるぞこれ」


「相手への妨害魔術か・・・使いどころは難しいけど使えなくはなさそうね・・・しかも消費するのは相手の魔力・・・」


これで自分自身が魔力を消費して魔術を発動しているならまだしも、この呪いは発動した術式は基本的に対象となった存在が魔力を消費することになる。


無論その弱点として先ほど文が言ったように相手の体内に術式を送り込むために妨害されてしまう可能性はかなり高いのだが。


「あぁ、確かにちょっとだるいかも・・・肉体強化をかければ相殺できると思うけど・・・どうする?」


「このままだな。とりあえずどんな効果があるのか把握しないといけないし。もしかしたら術式を徐々に組み上げていくタイプかもだろ?」


徐々に術式が組みあがり、徐々にその出力や効果が増えていくようなタイプの魔術だった場合、ここで肉体強化の魔術を発動してその効果を相殺してしまうとのちの効果がうまく測れない可能性がある。


そもそも康太の場合、呪いの術式が自分の中のどこにあるのかも把握できていないのだ。勝手に術式を発動してもし術式が混同してしまった場合どのような効果になるか分かったものではない。


「なるほどね・・・そういえばあんたはこういうロボットが出てきたらどうするの?」


「解析して分解する。俺に対して機械をぶつけることがどういうことなるのかは想像に難くないな。一発でバラバラにしてやるよ」


「大した自信ね」


「おう、俺の中で分解は一番練度が高い魔術だからな」


康太が所有している魔術の中で分解は初めて覚えた魔術でもありもっとも練度の高い魔術でもある。


そのためどんな精密な機械であろうと、どんなに強固に固定されていようと、解析してしまえば分解できるという自信が康太にはあった。


「でもこういう液体ロボット?の場合はどうするの?分解できるの?」


「あー・・・液体そのものが機械の部品を構成してた場合ちょっと困るかな・・・分解したところで意味がない。ていうか分解できない。こういう奴は一撃で吹っ飛ばすのが一番安定するかなぁ・・・」


「一発ねぇ・・・ふっ飛ばしても再生するんじゃどうしようもなさそうね」


「やりようはあるさ。壊せないもなんてこの世にはない。必ずどっかしらに壊れるものがあるんだ」


「・・・それってあんたの師匠の考え方?」


「あぁ。ものは必ず壊れる。問題はその壊し方だ」


文は康太のこの言葉に小百合に似たものを感じていた。


康太は小百合の指導を受けて一年、いまだ精進し続けている中でも小百合の影響を多大に受けていた。


康太曰く、小百合は素質自体はそこまで高くないのだという。そんな中であそこまでの戦闘能力を得たのはひとえに小百合の技術によるところが大きい。


小百合の破壊に対する考え方は、康太もいろいろと思うところがあるのだろう。


壊せないものはない。壊れないのであればそれは壊し方が間違っているだけ。そういいたいのか康太はどうやったら、どのような手段を取ればこの液体ロボットを倒せるかを考察しているようだった。


康太と文は自分の体の状態を確認しながらも映画のほうにも意識を向けてそんな話を進めていた。


こんな敵が出てきたらどう対処するか、どのように戦うか、どの魔術を使うか。すでに呪いの確認の範疇を超えている。


映像と音によって術式を送り出す。そういう技術があるということを知っているからこそ康太と文はまず映像と音をとにかく体の中に迎え入れる。瞬きは除いて絶対に目を背けないように、耳をふさがないようにしっかりとそれを見続けていた。


そして徐々に、徐々に康太と文はその効果が体の中に発生しているのに気づいていた。


先ほどまで体の中にあった倦怠感、身体能力弱体化だけではなく、新しい効果が発動しつつある。


支部長が言っていた効果は倦怠感、幻覚、そして金縛りなど。どのような効果が出てもいいように二人は少しだけ身構えていた。


まず二人を襲ったのは金縛りだった。


康太も文も金縛りという現象をその身に受けるのは初めてのことだったが、それでも体が急に自由に動かなくなったことでこれが金縛りであると解釈していた。


「お・・・動かなくなったな・・・」


「ちょっと待ってよ・・・今私飲み物取ろうとしてすごく中途半端な体勢なんだけど・・・何とかしてくれない?」


康太は座った状態で頬杖を、文は飲み物を取ろうと少し前かがみになったところで完全に止まってしまっている。


だが視線や口は動かせる。そして指先なども何とかわずかではあるが動かすことができていた。


どうやら体の大まかな部分を止める金縛りといっても完全に体を停止させることはできないようだった。


「ベル、そういえば金縛りの魔術ってどういう原理なんだ?」


「そうね・・・一応原理としては固定化魔術が一般的かしら。周りの空気・・・っていうかこの場合は空間っていうべきかしら?それを固定する場合や体そのものを物質的に固定する場合があるわ。後者の場合はかなり危険が伴うけど」


要するに金縛りをかけたい対象に対して、周りを固いもので覆い囲むか、あるいは対象そのものを止めてしまうかということだ。


康太の考察として、前者は安全に相手を止めることができるがおそらく消費や発動までに時間がかかること、そして正確に覆わなければいけないために高い練度が必要であることが考えられる。


後者ならばその対象が生き物であった場合、血液などの流れそのものも止めかねないために対象が危険にさらされる。当然ではあるがこれを攻撃手段とすることだってできるだろう。


もっともこちらも高い練度がなければ全身をしっかり固定することは難しいと思われる。逆に一部だけ固定するという手もあるが、今は置いておくことにした。


「なるほど・・・これはどっちのタイプだと思う?」


「・・・んー・・・体自体が止められてるって感じはないわね。どっちかっていうと体の周りに物体がたくさんあって動けないみたいな印象を受けるわ。全力で動けば抵抗できるんじゃない?」


文の言葉に康太は全力で力を籠める。指先、腕、胴体、首、足、どこでもいいから動かそうと全力で力を込めていった。


するとほんのわずかではあるが動く。どうやら空間の固定によって金縛りを作り出しているのは間違いないようだった。


とはいえほとんど動けないのも事実。これではまず間違いなく戦闘に支障が出る。


「ちょっと待ってね、試してみるわ」


文は魔術を発動し近くにあったペットボトルにあった飲み物を念動力で浮かせると、康太と文の周りに飛翔させる。ペットボトルが軽く動いて腕や首などを叩こうとするが、ところどころで体に届かない場所がある。


「なるほどね・・・関節部分の周りに固定をかけてるんだ・・・なるべく消費を抑えてるわね」


「っていうか空間固定って結構上位の魔術じゃないのか?物体の固定とかよりずっと大変だろ?」


「んー・・・空間固定っていうより周りの空気を固定してるって感じよ?普段意識できてないだけで私たちの周りには空気っていう物体があるんだもの。抵抗が少ないせいでそう感じちゃうけどね」


「空気を固定するだけでこんな風になるのか?固定ってすごいな」


「その分消費魔力が多かったり・・・発動するための制御やらがめちゃくちゃ難しいのよ?私も一時期挑戦したけど・・・三十センチ立方体で固定するのがせいぜいだったわ。こんな正確に関節部分を覆うような制御をするにはかなりの練度が必要ね」


文でさえも固定魔術はかなり苦戦するらしい。ただ単に相性の問題もあるのかもしれないが、文ができないという時点で康太は自分にもたぶんできないだろうなとあきらめてしまっていた。


もしそれが五感などにかかわることであればもしかしたらなどと思ったかもしれないが、消費魔力も多い、また制御が難しいという点で康太にはあまり向いている魔術とは思えない。


康太は単純な魔術のほうがいい。組み合わせ、あるいは応用によってそれらを増強、補助していくのが康太の基本的な魔術の使用方法だ。


だが康太はここで一つのことに気付く。


「あれ・・・?消費魔力が多いっていったよな?これ意外と消費魔力少ないけど・・・?」


「ん・・・確かに・・・関節部分に発動を限定してるからかしら?それにしたって少ないような・・・」


現在康太たちは呪いという魔術体系に則って自分自身で魔術を発動させられている状態だ。当然魔力の消費も康太たちの自前のものになってしまっている。


康太の体感では文が多いというほど消費魔力は多いとは思えなかった。もっともそれは文の感覚から予測したものより少なかったというだけであって、それでも康太からすれば十分に多いほうである。


具体的に言えばおそらくこのままいけば三十分もしない間に康太の魔力は枯渇してしまうだろう。


「とはいえ俺の供給量じゃちょっと足が出るな・・・ベル、悪いけど吸わせてもらっていいか?」


「はいはいどうぞ。魔力の補充はあんたの生命線ね・・・デビットがいてよかったわ」


康太は文の体にDの慟哭を発動させその魔力を吸い取っていく。現在発動している二つの魔力を何とか補える程度の魔力を賄うことはできているが、これ以上消費が増えたらもうどうしようもなかった。


土曜日なので二回分投稿


今日はスプラトゥーン2の前夜フェスですね。仕事休みだといいなぁ


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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