依頼の背景
「では支部長、これがどのような効果を持っているのかはわかりましたけど・・・今回の依頼の達成条件と。その背景を教えていただけますか?」
「・・・やっぱりそうくるよね・・・まぁ君の場合知らないと死活問題になるから当然と言えば当然か」
康太の疑問はもっともだろう。先ほど呪いを解除してほしいと言われたものの、その依頼の解除と言われても具体的にどのような状態を指すのか、そしてなぜこれを本部がわざわざ依頼するほどに危惧するのか。
はっきり言って呪いのビデオなどというチープな存在に対して本部がそこまで問題視する理由がわからなかったのだ。
たとえ魔術を発動するタイプだとしても、すでにここにあるものに対して本部がそこまで危惧する意味が分からなかったのである。
「ではまずこの依頼の達成条件を教えよう。条件は先ほども言ったが呪いの解除。これはビデオそのものにかかっている術式を解体する、そしてその解体方法を確立することだ。ただしビデオの破壊は認められない」
「・・・魔術的な要因を取り除けってことですか・・・術式が記されているようには見えないんですけど」
「そこが本部も頭を抱える理由なのさ。索敵しても解析しても、このビデオそのものからは術式は確認できない。けれど呪い自体は発動している。だからこそこのビデオの解呪をお願いしたいんだよ」
それをなんで魔術師歴一年しかないような俺に頼むのかなと康太はため息をついてしまうが、それなりに理由はわかっている。
本部はおそらく康太に依頼することで、間接的に一緒にいるアリスへの協力を取り付けようとしているのだ。
康太が依頼を失敗しようとしたときに、アリスが口を出す、あるいは手を貸すようなことを想定しているのだろう。
康太とアリスがどのような関係を築いているのか本部が知っているかどうかはさておき、アリスと身近にいる康太に依頼することで何とかならないかと画策しているのだ。
「では、この依頼の背景を伝えよう。君たちとしてもどうしてこんなものに本部が動くのか不思議だろうからね」
「そうですね・・・ただ単にビデオそのものを破壊してしまえばそれでいいように思えます。別の支部にいくつも依頼を出すほどの物とは・・・」
文の言葉に康太も同意する。実際小百合のような解決方法になってしまうのは少し嫌だったが、ビデオの呪いを消したいのであればビデオそのものを破壊してしまえばいいだけの話だ。
幸いにして現在ビデオなどはほとんど使用されていないのが現状だ。レトロマニアなどがいまだにビデオを所有し、好んで見ているということはあれど時代の流れには逆らう事はできない。
いずれ廃れていくようなものにそこまでの労力を割く、その真意を測りかねていたのである。
「このビデオが発見されたのは割と最近らしくてね・・・去年のいつ頃だったかな・・・?本部の人間と支部長を含めた合同会議でも議題に上がっていたんだ」
そんなものがあるのかと、康太と文は少しだけ驚いてた。支部は支部のことだけを管理するのが仕事かと思っていたが、どうやら定期的に本部の人間と各支部の長を集めた合同会議なるものが開かれているらしい。
定期的な情報共有と問題の共有。これらは比較的重要なことを取り上げるものであることが想像できる。そのためそこで取り上げられるということは本部がこれをかなり重要視しているということが理解できた。
「その議題っていうのが、このビデオを封印指定に登録する考えがあるっていう内容だったんだよね」
「封印指定に?これを?」
封印指定。康太が今まで関わってきたそれにこのビデオも登録されるということを考えると、ここで康太が指名されたわけがさらに理解できてしまった。
封印指定に二度もかかわった魔術師だ。今回もかかわらせれば何かしらの結果が得られるだろうと本部の人間が考えたのだろう。
「うん・・・けど、本部もまだ決めかねているようだったんだ。正確には本部の人間は、これの危険度よりも、このビデオの個数を気にしているようだった」
「個数・・・?」
「そう。このビデオがこの一つだけなら、封印指定にする必要もない。けれどこのビデオがダビングされていたり、複製されていたり、複数作られていた場合・・・本部はこれを封印指定として登録するという考えを示した。合同会議で取り上げられたのはこのビデオと同様の効果を持ったものが各国に存在するかどうかの調査依頼だったんだよ」
支部長の説明に康太は以前アリスに説明されていた封印指定の話を思い出す。
封印指定とはその危険性を含め、世間一般に対して魔術の存在が露見しかねない物品あるいは現象、人物などに当てはめられる。
封印指定百七十二号ことデビットはその危険性から。封印指定二十八号ことアリスはその存在そのものから。そしてこのビデオは複数存在することで、多くの人間に魔術の効果を発動することになりかねないこと、そして呪いのビデオらしい効果によってマスコミなどに面白半分で取り上げられる可能性があるということである。
もしこのビデオが全国区のテレビで放送された場合、その映像と音を媒介にしてそれを見た全員に呪いが発動する可能性が十分にある。
この一つだけであれば破壊してしまえば話は済む。だがもし複数存在していた場合、その解除の方法を理解していたほうがより今後のためになるし、万が一の時の対処も可能だと考えたのだろう。




