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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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久方ぶりの

康太と文が一緒に暮らし始めてかなりの時間が経過したある日、康太は協会に呼び出されていた。


協会に呼び出されるのは地味に久しぶりだなと思いながら康太と文が支部長室に向かっている中、康太はふと疑問だった。


「なぁ、支部長に呼び出されたのは一応俺だけなんだけど・・・なんでベルもついてきてるんだ?」


「言ったでしょ、あんたがやるなら私もやるって。基本私とあんたはセットだと思いなさい。私がこの件にかかわることができるかどうかはさておいて、あんたが何をするのかは把握しておきたいのよ」


康太を呼ぶということは何かしら依頼の関係なのだろう。依頼の内容によっては康太一人しか受けられないということもあるだろうが、せめて康太が何をしようとしているのか、何のために動くのかくらいは把握しておきたかったのである。


無論それは文の自己満足に近い。だが康太にとって信頼できる魔術師が一人いてくれるというのは素直にありがたかった。


「オーケー。でも今回はいったい何だろうな・・・支部長に呼び出されるのももう慣れてきちゃったよ・・・っと・・・今日は人多いな」


「この時期は登録内容の変更とか申請とかが多いからね・・・年度末だし。あんたたちもやったんでしょ?確か時期ずらしてたんだっけ?」


「あぁ。俺らは二月あたりにやった・・・って言ってもシノのこと以外は変更なしっていっただけだけどな」


協会に所属している魔術師はそれぞれの登録情報などを大体三月に変更、あるいは更新するために協会を訪れる。


小百合はほかの魔術師たちとの敵対関係が非常に多いために時期をずらして二月ごろにその申請を行うのだ。


それと一緒に康太と真理、そして神加も同じような形で申請をしてある。


といっても康太も真理も特に内容が変わったということはない。この一年でだいぶ成長したと思えるが、登録内容自体は変わっていないのだ。


「とはいえ・・・あんたのその仮面もボロボロになってきてるわね・・・だいぶ傷が目立つわよ?」


「ん・・・そうか?つけてるとわからないんだよな」


「そろそろ新しいのに交換したら?武器作ってくれる・・・テータさんだっけ?その人に頼めば仮面くらい作ってくれるでしょ?」


「そうだな・・・今度頼んでおくか・・・外套のほうはちょくちょく交換してるけど・・・仮面のほうは全くノータッチだったからなぁ・・・」


小百合にもらってから康太は仮面の交換を一度も行っていない。


蜂をモチーフにしたこの仮面だが、文の言うように確かにところどころに傷が目立つようになってきていた。


もとより仮面はそこまで耐久力があるものではないためにちょっとしたことで傷ができてしまうのだ。


特に康太は戦闘行為を行うことが多い。戦闘中のちょっとした攻撃や動作で傷がついてしまうことが多いのである。


外套は装甲と一緒に購入したり変更したりということがあるために割と頻繁に交換しているからそこまで損傷は多くないが、仮面に関しては普段つけていると大きな破損でもない限り取り換えはしないのだ。


「そういうベルはあんまり仮面壊れてないな・・・」


「私は予備含めていくつか持ってるからね。戦闘の後はなるべく交換するようにしてるのよ」


「え?戦闘ごとに?なんかもったいなくないか?」


「もったいない気もするけどね・・・でも普通に考えなさいよ、この仮面は顔を隠すためのものなのよ?もし壊れて顔の一部でも見られたら面倒じゃない」


「んー・・・そういうもんか・・・?なんか魔術師として行動してても普通に顔を出すことがあるからよくわからん」


康太は魔術師として活動するときに時折ではあるが仮面を外した状態で行動していたことがある。


もちろん顔を隠すことの必要性は理解しているつもりだが、そこまで神経質に顔を隠す必要があるかと言われると微妙なところである。


「まぁ・・・この辺りは魔術師としての経験年数の違いってことにしておくわ・・・でももうあんた魔術師になって一年たつんだから、もう少しきちっとしないとだめよ?弟弟子もできたことだしさ」


「そうだな・・・威厳のある頼りがいのある兄弟子を演じたいものだ・・・どうすればいいかな?」


「・・・サリーさんとかを手本にしたら?あの人は威厳もあって頼りがいのあるタイプじゃない?」


サリー、サリエラ・ディコル。奏の術師名だ。普段奏としか呼ばないために術師名を不意に出すと非常に困惑するが、康太も奏のことを言っていると理解して唸りだす。


「・・・あの人か・・・でもあの人弟弟子・・・師匠には嫌われてるしなぁ・・・嫌われてるってか苦手に思われてるって感じか」


「それはあんたの師匠のほうに問題があるでしょ。たぶん」


「可愛がってるんだけど可愛がり過ぎって感じなのかな・・・今のままだと俺らもそうなる可能性が・・・?」


「あり得るわね。今のうちから適度にかわいがっておきなさい」


自分たちの兄弟弟子構成が師匠である小百合たちのそれと似通っていることから同じような道をたどるのではないかと康太は今から少し不安を覚えているようだった。


小百合が普段そうしているように神加に邪険にされるようなことがあったら康太からすれば毎度死にたくなるほど落ち込むことになってしまう。


「支部長、ブライトビーです。失礼します」


康太がノックしてから支部長室に入ると、その中にはいつも通り書類仕事をしている支部長がいた。


康太と文が入ってきたのを確認すると小さく息をついてその書類仕事をいったん止めて話をするために一度伸びをしていた


「やぁ・・・来てくれてありがとう。ライリーベルも来てくれたんだね、ありがたいよ。こういう話は複数人に聞いてほしかったからね」


「ついてきただけですよ。依頼内容によってはビーしか受けられないこともあるでしょうから・・・」


文の言葉にそれでもいいさと支部長は朗らかに言いながら話を先に進めることにしたようだ。

机の中から何やら厳重に保管されたものを取り出し、机の上に置く。


アタッシュケースのように見えるが、少し小型だ。とはいえ厳重に施錠されているのが傍から見てもわかる。


通常アタッシュケースについている鍵に加え、さらに外側にまるで装甲のような形で取り付けられている拘束具。それらについている鍵をさらに覆うような形で術式の刻まれたベルトのようなものが覆っている。


明らかに危険物だというのは見て取れた。康太が軽く物理解析をしてみたが、内部まではわからない。外側のアタッシュケースまでしかその内容を解析できなかった。とにかく厳重だということが分かったくらいのものである。


「・・・一応聞いておきますけど・・・爆弾とかの類じゃないですよね?」


「そこは安心してほしい。人が死に至るようなものでは・・・いや・・・死ぬ可能性は十分にあるか・・・」


「明らかに危険物ですね・・・いったい何なんですか?」


人が死ぬ可能性があるということを受けて康太と文の警戒レベルはかなり引き上げられていた。


この中に入っているのが貴重な魔術的な物品ということであれば何も問題はなかったのだが、実際に人が死ぬ可能性があるといわれると康太も文も身構えてしまう。


「うん・・・まずは概要から説明しようか。そのあとで君がこの依頼を受けるかどうか考えてほしい」


「って言っても、支部長がこうして持ってきた以上、たぶん拒否権はないでしょう?なんかそんな感じがしますよ?」


「・・・わかる?」


「はい。なんか俺の勘がそういってます」


いつの間にか康太の勘も鍛えられたものだなと文は思っていたが、支部長の反応を見る限りおそらく康太の勘は正しかったのだろう。


支部長は申し訳なさそうな声でごめんねと言いながら話を切り出した。


「実はこの依頼・・・本部からの物なんだよ・・・しかも君を直々にご指名だ」


「・・・本部が俺を指名するってことがどういう意味を持っているのか、向こうもわかっていると思いますけど・・・それを承知で持ってきた依頼ですか?」


康太はかつてデビットとアリスの一件で本部にかかわったことがある。そしてアリスの一件でアリスと同盟を結んだことにより、無理やりという形での康太への依頼はできないように牽制をした。


無論アリスというバックがついたとはいえそれはあくまで同盟関係というだけの話だ。アリスが牽制をしてくれたおかげで無茶苦茶な要求はできなくなったというだけで本部からすればやりようはいくらでもあるのだ。


「うん・・・今回の場合は仕方なく君に依頼したって形だろうね・・・何せこれ、いろんなところをたらいまわしになってきた依頼だから」


「・・・他の支部の魔術師じゃ解決できなかったってことですか?」


「そういうことになるね・・・良くも悪くも君は最後の手段として見られているみたいだよ?いや、どっちかっていうと君と一緒にいるアリシア・メリノスがそうみられているというべきなのかな・・・?」


「まぁどっちにしろですね・・・ていうかほかの支部に依頼しても解決できなかった案件が俺に解決できるとも思えないんですけど・・・」


他の支部の誰に依頼したのかは不明だが、それらに回しても解決できないような難解な事象を康太が解決できるとは到底考えにくかった。


特にこれといって特別な能力を持っていない康太からすればそんなものを押し付けられても困るの一言だ。


いや、正確に言えば特別な能力といえるだけのものを康太は所有している。かつて猛威を振るった封印指定百七十二号。その力を持っているだけでも特別と言えなくもない。


そして康太はそれを鎮める何かを持っていた。


さらに言えば康太の近くには最高の魔術師アリシア・メリノスもいるのだ。それを考えると康太にこの依頼が回ってくるのは別に不思議な話ではない。


「本部としてもダメもとって感じがあるんじゃないかな?一応記録としては・・・イタリア支部、ドイツ支部、ロシア支部、北アメリカ支部、南アメリカ支部、オーストラリア支部、あとエジプト支部も依頼を受けてるね・・・」


「・・・そもそもそんなに支部があったことが驚きですよ」


「まだまだ支部自体はあるんだけどね・・・今回のことに対応できそうな人がいる支部に全部声をかけた結果、こうして君のところに来てるって感じだね」


本部としても可能な限り康太は使いたくない手札なようだった。まるで小百合のような立ち位置になっているなと康太は複雑な心境になりながらもとりあえず話を先に進めてもらうことにした。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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