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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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見て測る

「なるほど・・・これは石窯ではないな」


「あぁ。師匠が言うには昔鍛冶に使ってた火床?なんだとさ」


「だろうな・・・これ単体でかなり高い温度を維持できるようになっている・・・よくもまぁこんなものを作ったものだ・・・」


アリスがその石窯を見て初めて抱いた感想は完全に趣味の領域を超えているものだなということだった。


かつてアリスはこれと似たようなものを見たことがある。それは魔術師が自分で鍛冶を行う際に使っていたのと同種だった。


細部のつくりや内包されている術式は異なるものの、それは確かに鉄などの金属を打つために作られるものだ。


よくよく周囲を見渡すと鍛冶用の道具があちらこちらに点在しているのがわかる。これらは間違いなく使われていたものだろうなと今度は康太が綺麗にした石窯の中を覗いてみる。


「んー・・・コータ、このままではクッキーを焼くには少々火力が高すぎるな」


「まじでか。具体的にはどれくらい高い?」


「たぶんクッキーを入れた瞬間に消し炭になる程度には高火力だ。もともと鉄を溶かすためのものだからな、クッキーを焼く程度の温度にするにはかなり出力を抑えなければならんな」


「確かクッキーを焼くための温度って百七十度くらいだったよな?これどれくらい温度上がるんだ?」


「少なくとも千五百度までは上がりそうだな・・・その気になれば二千度くらいまでは届くだろうよ」


「・・・こんなただの石の窯なのにか?」


「そのための術式が組んである。もちろん普通に焼いても高い温度が期待できるだろうな・・・これに組んである術式は熱を逃がさないというものだ。少しの火でも高い温度を出せるように工夫してある」


「術式を使えば高い温度を維持できると・・・じゃあ使わなかったら?」


「それはやってみないとわからんな」


そういいながらアリスは石窯の中に小さな炎を灯して見せる。


ゆっくりとではあるが周囲の温度が上がっていくのがわかる。いや、正確には目の前の石窯が熱を帯び始めているのがわかる。


「今ってその術式使ってるのか?」


「いや使っていない。熱をこの石窯が反射して内部に熱をため込んでいるのだ。ついでに軽く風を送り込んでいるから空気の心配はいらん。ところで温度はどうやって測るつもりだ?」


「任せろ。こんなこともあろうかと持ってきた」


康太が取り出したのは温度計だ。料理用に使われるもので油などの温度を測るために使われるものである。


それを見てアリスはため息をついてしまっていた。火の温度をそのようなもので測ることそのものが間違いだ。


アリスは目を凝らすようにして魔術を発動した。それは熱を感知するタイプの魔術だ。一般的にサーモグラフィーなどと言われるような見え方をすることができる。


石窯の中が高温になっていくのを確認してアリスは康太の体に触れて同じ術式を無理やりに発動させる。


「ん・・・おぉ!?なんだこれ!?」


「これを使って温度を把握しろ。コータはこういった魔術と相性がいいのだろう?自分でやってみろ」


「おぉう・・・まさかこんなところで新しい魔術とは・・・うれしいんだけどちょっと複雑な気分」


「クッキーを作っている間に使いこなせ。そうでなければフミのために美味いものは用意できんぞ」


「了解。頑張ってみよう」


康太は五感に関係する魔術との相性がいい。この魔術は熱を視認できるという意味では康太との相性はかなりいいだろう。


「熱が一定になったら早速クッキー生地を入れてみよう。焼けるかどうかは運しだいだな」


「焼く焼かない以前にそちらのほうが重要だと思うのだが・・・そっちは用意してあるのだろうな?」


「もちろん。あとは混ぜ合わせてちょっと寝かせるだけだ」


「・・・寝かせる?」


「なんか冷蔵庫の中で一時間くらい寝かせないといけないんだと。パンで言うところの発酵みたいなもんだろ?」


そういうものなのかとアリスは今まで興味を持ったことがなかった分野に少しだけ興味をそそられているようだった。


アリスの趣味がまた増えそうな感じだが、とりあえずアリスは火を消し石窯の温度を下げていく。


「ひとまず生地を作ろうではないか。少なくともこの石窯が機能することはわかった。あとはコータがいい具合に火加減を調整できるようになればいい。そのあたりはとにかく練習だ」


「よっしゃ。んじゃ作るか。アリスはどうする?手伝うか?」


「・・・ん・・・まぁいいだろう、手伝ってやろう。その代り私が作った分は私が食べるからな」


「了解。とりあえずチャレンジしてみよう」


康太とアリスはひとまずクッキーの生地を作ってみることにした。実際どのようなものが出来上がるのかは焼いてみなければわからないだけになかなかに作業は難航することになる。


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