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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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備えよ常に

とにかくまずはこの石窯を使えるようにしなければと、康太は周囲を徹底的に掃除することにしていた。

正確には石窯ではないそうなのだがそれは今はどうでもいい。康太は今クッキーなどを焼くことができる道具を欲していた。


可能なら隠れてできるという意味でも小百合の店の地下であれば問題ない。


近くに積み上げられたほかの道具をどかし、暴風と旋風の魔術で埃を吹き飛ばし、軽く水拭きなどをすれば十分に使えるレベルの清潔さは戻る。


問題は石窯部分よりも排気管部分だ。石窯と直結する形で地上へと延びているもので、炎が発生したことで生まれる二酸化炭素などを逃がすためのものである。


この地下空間には最低限の空調機能がついているために酸素量的には問題ないのだが、排出される二酸化炭素や一酸化炭素を逃がすためにこうした排気管がついているのだ。


康太が軽く索敵をしてみると、この排気管部分は長いこと使われていなかったためかかなり汚れている。

もともと排気のためのものであるため綺麗なはずもないのだが、それ以上に長期間使われていなかったためか非常に汚れている。


排気するためのものであるためにそこまで清潔さは必要ないが、しっかりと空気が通るかどうかだけ確認しなければいけない。


どうやらこの排気管は地上部分にあるエアコンの排気管の近くにつながっているらしい。


いくつものフィルターが取り付けられており、新たに使う前にそれらをすべて交換したほうがよさそうだった


外部とつながっているのであれば多少荒く使っても問題はないなととりあえず康太は排気管の中にあるごみをすべてフィルターに取り込ませるために暴風の魔術を発動して一気に排気管の中に空気を送り込む。


そして地上部分に移動してから排気管の一部を取り外し、フィルターを交換していく。普通の換気扇などでも使われるタイプのフィルターだったためにそこまで苦労はしなかった。


これでようやく石窯を使えるようになるなと、康太はとりあえず石窯の性能を見ることにした。


「アリスー。ちょっといいか?」


「なんだ?私は今忙しいのだが?」


暖かくなってきたというのに未だ炬燵から出ようとしないアリスを見て康太は少々あきれてしまうが、それよりも今は石窯の性能をテストしたい。アリスを引きずり炬燵からだしながら康太はとりあえず事情を説明することにした。


「うん・・・まぁ事情は理解したが・・・なんでわざわざ石窯なのだ?いっそのことオーブンくらい買えばいいではないか。そのくらいの金は持っているだろう?」


「持ってるけどありものを使ったほうがいいじゃんか。それに石窯のほうがおいしくできるって聞いたことあるだろ?」


「・・・それはパンなどの話だったような気がするが・・・」


アリスが今まで生きてきた中で石窯で作ったほうが美味しくなるというのは否定しない。もとよりクッキーなどは昔から石窯などで作られていたのだ。


だが現代技術の進歩で石窯で作るよりもオーブンなどで作ったほうが美味しくできることもある。

というかそちらのほうが美味しいし楽なのではないかとアリスは考えていた。


「とりあえず酸欠にならないようにとか、あと火事にならないようにとかいろいろ考えなきゃだからさ、アリスに力を貸してほしいわけだよ」


康太は動こうとしないアリスを担いでさっさと移動を開始している。アリスがここまで動こうとしないというのも珍しいが、ただ単にやる気が出ないだけなのだろう。


何せのんびりしていたかと思えばいきなり炬燵から引きずり出されたのだ。やる気を出せというほうが難しいというものである。


「・・・まぁフミのためだ、協力は惜しまんが・・・もちろんちゃんと見返りはあるのだろうな?」


「もちろんだ。俺が作ったクッキーの味見を許可してやろう」


「・・・それって所謂毒見では・・・?」


「物は言いようだ!嘘偽りのない意見を出してくれるとありがたかったりするぞ!」


康太はやる気になっているようだが、こんなことに付き合わなければいけないアリスはため息をついてしまっていた。


だがこれも文のため。文がようやくつかみかけようとしている幸せを無為にするようなことはアリスにはできなかった。


下手に相談に乗ってしまったために情が移ってしまったなとアリスは少しだけ後悔しながらも、決して悪いものでもないなと思っていた。


「時にコータよ・・・焼くのはいいが、菓子などを作った経験は?」


「ない!昔直火でバウムクーヘンを作ったことならあるけどな」


康太が言っているのは竹の棒に少しずつ甘く味付けしたクレープ生地のようなものをかけていき、重ねるように焼いていくというものだ。


正確なバウムクーヘンの作り方がそのような形なのかは康太は知らなかったが、それがバウムクーヘンだと思っていたためにそれ以外に答えようがなかった。


「・・・すまないコータ、少々薬局まで胃薬を買いに行く時間をくれないか?実は私は胃腸が弱い性質でな」


「安心しろ、もう買ってある。いくらでも腹を壊してくれ」


あわよくば薬局に行くふりをして逃げようと考えていたのだが、妙なところで用意周到な康太にアリスはうなだれてしまっていた。


もう逃げることはできないなと眉をひそめながら、まずは石窯の耐久テストという名目で火を起こしてみることにした。


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