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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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かつてその場所は

小百合の店の地下、毎日のように足を運ぶ中で康太が目にかけない、意識しない場所も確かに存在する。

康太は地下にある空間を隅々まで索敵することでその場所を見つけていた。


そこにはかつて康太も使ったことがある道具が置いてある場所だった。魔術師になる際に使ったゲヘルの釜などが置いてある場所で、商品ではないが魔術的な効果を持った道具が置いてある場所であるらしい。


とはいえその用途はほとんどわからないものばかりだ。康太も今までそこまで気にしたことがなかったためにあまり知ろうともしなかったものばかりである。


そんな中にそれはあった。真理の言ったように一見石窯のように見えるそれは道具の一角に埋もれるように存在していた。


使われる火の煙だけは地上に逃がすようにできているらしく、何やらパイプのようなものが伸びているのがわかる。


ドーム状の形をしていて、燃やすための材料、そして焼くものを入れる口部分があり、それらをレンガらしきもので構成している。


かなり高い温度で使用されたことがあるのか、ところどころに焦げ跡が残っている。おそらく実用に足るものだろうことは容易に想像できた。火を起こすことによって生じる一酸化炭素によって中毒にならないようにきちんと配慮もされている


この場所が地下であるためか、こういった空気への気遣いはしっかりとされているようだった。


そもそもなんでこんなところに石窯があるのかと不思議でならないが、少なくとも大きな破損はなく、掃除をすれば問題なく使えそうである。


「師匠!師匠!ちょっといいですか!?」


康太が師匠である小百合を呼びながら小百合のいる地上の居間まで戻ってくると、いつも通り居間で茶をすすりながらパソコンをやっていた小百合はけだるそうにしながら康太のほうに視線を向ける。


「なんだ?どうした?」


「下にある石窯、使わせてもらってもいいですか?」


「・・・石窯・・・?あぁ・・・あれか・・・別に構わんが、ちゃんと掃除しろよ?特に空気管は詰まっていると死ぬ可能性があるからな」


てっきり理由を尋ねられるかと思ったのだが、小百合にとってはそういうことはどうでもいいのだろう。

追及されなかったのは良かったと思いながらも、康太は少し疑問だった。


なぜあの場所に石窯があるのかと。


「了解です・・・ちなみに何であんな所に石窯があるんですか?」


「・・・正確にはあれは石窯ではない。昔地下で鍛冶に近いことをしていたことがあってな。その火床だ」


「え・・・?あれでですか?」


「あぁ・・・近くを探してみろ。一応鍛冶の道具も一通りそろえてあったはずだ。それとあれは一応魔術用の道具だ。そのあたり気を付けて使えよ?」


魔術用の道具と言われて康太は一瞬気が引ける。いったいどんな効果を持っているのか全く分からない。


かつて康太が入ったことのあるゲヘルの釜は一種の拷問道具だった。あれも同じような効果があるのだろうかと少し気が引けている中、小百合もそれを感じ取ったのか小さくため息をついて康太のほうに視線をもどす。


「安心しろ。いきなり爆発とかはしない。鍛冶を行う上で必要な機能だ。そもそもあれに魔力を注ぎ込めないならただの道具とそう変わらん」


「あぁそうか・・・方陣術とかが仕込んであるってことですね?それなら気にしなくてもいいか」


康太はまだ方陣術の発動は満足にできない状態だ。数えられる程度ではあるが発動に成功したことはあってもそれも持続できない。


発動するために必要な魔力を注ぎ込むのだが、どうにもそれが難しくなかなか難航している状態なのである。


良くも悪くも気にする必要がないということもあって康太は少し安心していた。


「何をする気なのかは知らんが火事だけは起こしてくれるなよ?一応アリスについていてもらえ。万が一の消火器代わりだ」


「それは構いませんけど・・・ちなみにあそこで昔何を作ってたんですか?剣とか槍とかですか?」


「・・・そんなたいそうなものじゃない。まぁ趣味の一環だと思え」


趣味の一環で鍛冶をするというのもなかなかに珍しいタイプだが、ひとまずあれを使えるようにすることが優先だなと康太は小百合の許可を取り付けると地下へと駆け出していく。


康太が走り去っていく中、小百合はあれをまた使うことになるとはなと小さくため息をついていた。


小百合があれを使ったのはもうかなり昔のことになる。まだ修業時代で、智代がこの店の主だった頃の話だ。


あれを使っていたのは主に小百合と奏だった。その時のことを今でも思い出せる。


奏が火をおこし、小百合が打つ。時折幸彦も巻き込んで一緒になって汗だくになっていたことを思い出していた。


何度繰り返しただろうか、そんなことを思い出しながら小百合は地下のほうに意識を向けていた。


懐かしさともどかしさ、そしてそれを再び康太が使おうとしていること。


いったい何に使うのか、小百合は少しだけ気がかりだったが、そんなことを気にしても仕方がないかと視線をパソコンに戻す。


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