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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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お返し

三月になり、もう少しで今年度も終わろうとしている中康太は近くにあるデパートの一角で悩んでいた。


そこに並んでいるのはホワイトデーのお返し系の商品だ。康太も文からバレンタインデーでチョコをもらったのだからしっかりとお返しをしなければいけないと考え、こうして買いにやってきたのである。


とはいえ、文は手作りの物を作ったというのに自分が買ったもので済ますというのはどうかと思ってしまうところもあったのだ。


買ったほうが確実においしいものが手に入るのは間違いない。だがそこに気持ちを込めなければいけないのではないかとも思うのだ。


もちろんチャレンジしてできなかった場合どうしようもなくなってしまう。黒焦げ、あるいは半生のクッキーなどを渡してもうれしく思われないかもわからない。


現在の日時は三月の十日。まだ若干の余裕があるとはいえ手作りのお菓子をどのようにして用意するか康太は頭をひねっていた。


実際に二人暮らしで生活している状態だ、この状態でうまく文には隠しながら手作りするためにはやはりどこか別の場所を借りなければいけない。


実家が一番隠しやすいのだが、実家に菓子を作れるだけの機材があるかは疑問である。


しかも長時間家を空けるとなると文も不審がるだろう。あまり時間はかけられないというのに失敗のことも考えると買ったほうが安定するのではないかという考えが康太の中で大きくなっていく。


いっそのこと本人に買ったものでもいいだろうかと聞くのも一つの案だったのだが、やはりバレンタインデーでサプライズに近い形で渡されたのだから康太も同じように驚かせるようなやり方を取りたかったのである。


康太は携帯で軽くクッキーなどの作り方を調べてみる。たいていは材料を混ぜて放置して形を作って焼くだけだ。問題なのはその分量と焼くときに使う機材である。


「・・・いっそのこと直接焼くか・・・?」


康太は自分の覚えている魔術の中で一応火を出すことができる火の弾丸を思い出す。これを応用すれば一応焼けなくはない。下手に機材のない状態で行動するよりも自分で調節できる魔術で行動したほうがいいのではないかという明らかに無茶な考えに至るまでに思考が進んでしまっていた。


だが数秒間冷静に考えてやはりそれらが無理であるという結論に達する。直接火であぶるにしてもまんべんなく加熱できなければ意味がないのだ。


ここはひとつ人生の先輩に聞くべきだなと、康太は兄弟子である真理に電話をかけることにした。


『もしもし康太君ですか?』


「お疲れ様です姉さん、今お電話大丈夫ですか?」


『平気ですよ?どうかしましたか?』


「実はですね・・・」


康太はとりあえず文へのホワイトデーへのお返しはどうしたらいいか、手作りしたいところだが迷っていると伝えると、真理はどう返したものだろうかと悩み始めていた。


真理としても康太と文の恋路を応援したい気持ちはあるのだろう。なるべく隠したいという康太の気持ちも理解して現在の康太と文の行動を考慮したうえで考えてくれているようだった。


『うーん・・・でも今の康太君の現状だとなかなか難しいですね。オーブンなどもないでしょうし、何より文さんに隠れてやりたいとなると・・・』


「はい・・・失敗することとかも考えるとやっぱり買ったほうが確実かなって思って・・・それで今デパートに来てるんですけど・・・」


『んー・・・文さんだったら何をもらっても喜んでもらえると思いますよ?たとえ買ったものだろうと』


「それはわかってるんですけど・・・なんか負けた気がするんですよね。文は手作りしたのに俺は買ったものっていう」


『勝ち負けの問題なんですか・・・?』


贈り物に勝ち負けなど存在しないと真理は思うのだが、康太の中では一種の優劣のようなものができてしまっているらしい。


良くも悪くも康太と文は互いに競い合う関係を築いてしまっていただけにそういう感覚が抜けないのだろう。


もちろん悪くはないのだが、できないことをやろうとしても失敗するだけである。そもそも前提条件がそろっていないのだから。


『一応今のうちにお返しだけ買っておいて、それで手作りにチャレンジしてみますか?それなら万が一失敗しても何とかなりますよ?』


「そうか・・・そうですね、そうします。でも手作りはどこで作れば・・・うちには菓子作りができるようなオーブンはありませんし・・・」


『ふむ・・・そうなると・・・直接焼きますか・・・?』


なぜ兄弟弟子で考えることが同じ方向に行くのだろうかと康太は若干驚いてしまっていたが、そこは康太よりも魔術に精通した真理だ。康太の扱うような単純な火の魔術ではなくしっかりとした応用の利く魔術を扱うことができるのである。


『石窯のようなものがあればそれこそ一定の温度で焼くことはできますよ?ピザなどの作り方に似ているかもしれませんが』


「・・・なるほど!さすが姉さん!でも石窯なんてありますかね?」


『一応うちの店にある資材置き場の一角にそれらしいものがありますよ?昔はそこでいろいろと自作していたことがあったらしいですから』


小百合の店の地下。今は商品や資材などが置いてあるのだがその一角にそれらしいものがあるという。康太の記憶にはなかったがとりあえず探してみるかと、康太は目の前にある商品を一つ手に取ってレジへと走ることにした。


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