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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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神加の目

康太たちがそのような話をしているとき、最初に反応したのは神加だった。


康太の服の裾を掴んでいる状態で康太の顔を見つめていたのだがふいに視線をそらし、その視線を部屋のあちこちへとむけ始める。


そしてその反応に続く形でアリス、次いで康太と文の順でそれに気づき始めた。


部屋のどこかからか聞こえてくる赤ん坊の泣き声。それを確認してアリスは眉をひそめて周囲を警戒し始めた。


「なるほど・・・確かに知覚できんな・・・声から察するに近くに・・・この部屋のどこかにいるのは間違いないのだろうが・・・」


マンションの一室のどこかに精霊がいるのは間違いないらしいのだが、アリスが軽く索敵してみた結果、それでも精霊の姿を見つけることはできないらしい。


アリスが見つけられないとなるとお手上げだなと思いながら不安そうに見ているとアリスは小さくため息をつく。


「本気を出せば見つけられると思うが・・・どうする?」


「・・・いいわ。あんたは本当に最後の手段だもの・・・それより今は探すことよりも神加ちゃんを守ることを優先して」


今回アリスに来てもらったのはあくまで神加の護衛のためだ。精霊に愛されるという神加の体質を考慮して、神加が何かしらの悪影響を受けないようにするために今回アリスに護衛を頼んだ。


今回はまだそれ以上のことをする必要はない。少なくとも今、神加はアリスよりも早く反応していた。

何かを感じ取っているのは間違いないのだ。


「神加、この声が今回のおばけだ。助けてほしいのかわからないけど、この声だけが聞こえてくる」


「・・・赤ちゃん?どこにいるの?」


「それが俺たちにもわからないんだ・・・探してるんだけど見つけられなくて・・・神加はどうだ?どこにいるとかわからないか?」


康太の言葉に神加は部屋のあちこちに視線を動かしてからゆっくりと歩みを進め、そしてまるで確信があるかのように一直線に走りだす。


もうわかったのかと康太と文が驚いていると、神加は風呂場のすぐ近くにある脱衣所兼洗面所に向かっていた。


洗面所の洗面台の下。ちょうど棚になっていて洗剤やシャンプーなどの詰め替え用が置いてあるその場所を開けると、神加はその場所をじっと見つめ始める。


康太たちもすぐに後を追って神加が見ているものを把握しようとするが、まったく何も見えなかった。


一体神加には何が見えているのか、康太と文が不思議そうにしていると康太の体の中から唐突にデビットが姿を現す。


神加のそばに立つような形で移動したデビット。いったい何をするつもりなのかと康太と文がその様子を見守っている中、神加はデビットの存在に気付いているのかいないのか、ゆっくりと棚の中に手を伸ばしていた。


棚の中の何かを取ろうとしているわけではない、中にあるものを取り出そうとしているのではない。

むしろその手前、棚に至る少し前のところに手を伸ばしていた。


その手が空中で不意に止まる。まるでそこに何かがいるということをわかっているかのように。


そしてその手に導かれるように、デビットが黒い瘴気をその手の先に集中し始める。


いったい何をしているのか、康太も文も理解していない中、アリスだけがすごいものだなとため息をついていた。


「アリス、どうなってんだ?今こいつらは何をしてるんだ?」


「・・・あの場所に精霊がいるのだろうよ・・・ミカにはおそらくそれが見えている・・・デビットはデビットで何かをしようとしているな・・・不思議なものだな・・・」


「でも私たちには何も見えないわよ?子供ならではってことかしら」


子供の頃は霊感が鋭いという言葉が一般的にも存在している。この場で一番幼い神加だからこそ見えているのか、それとも神加が特殊だから見えているのか。


どちらかというとアリスの考えは後者であるようだった。


「おそらく・・・長年大量の精霊をその身に宿していたことで身についた目・・・いや五感だろうな・・・こと精霊に関してはおそらく並みの索敵よりも鋭い感性を神加は持っているのだろうよ」


「・・・魔術師の目の進化版みたいな感じか?」


魔術師がその体内に魔力を有し、術式などに長くかかわることで肉体がその影響を受け魔術的なものを視認できるようになるのが魔術師の視覚の理屈だ。


神加の場合はその魔術師の目の精霊バージョンと言えなくもない。


長い時間、おそらく生まれた時から今に至るまでずっといくつもの精霊をその身に宿してきたことでいつの間にか培われていた精霊に対しての五感。


それが神加にはあるのだ。おそらくその感覚を持っているのは神加だけなのだろう。この場にいて神加だけがその存在を知覚できている。


最高の技術を持つアリスでさえ本気を出さなければ知覚できないかもしれないようなものを、神加は当たり前に知覚しているのだ。


これを才能ととるべきか、それとも神加の特殊な体質の一種ととるべきか迷うところだったが、次の瞬間、康太たちはその考えをいったん忘れる。


神加の手を伝う形で移動していた黒い瘴気が勢いよく康太の体の中に戻っていくと、やがて康太たちの目にもそれが見え始める。


それはわずかに稲光をまとった鳥のような姿をした精霊だった。


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