嫁に行く先
「ごちそうさまでした・・・いやぁ、フミの料理もなかなか・・・」
「お粗末様。神加ちゃんはどうだった?おいしかった?」
「うん、おいしかった。ごちそうさま」
神加は朗らかな笑みを浮かべながら手を合わせていた。以前のようにハンバーグによって記憶を呼び起こされるということはなかったようだった。
神加の精神状態が少しずつ快方に向かっているということを察知して康太は少し安堵していた。
そしてそんな空気を察したのか、アリスは薄く笑みを浮かべる。
「食後とはいえ・・・もうそろそろ例の時間か・・・腹ごなしというには少々気分が悪くなるかもしれんな」
「そのあたり空気を読んでくれたらうれしいけど、そんなわけにはいかないでしょうね。お茶いる?」
「いただこう。それにしてもフミは台所に立つ姿が似合うようになったの。なかなか様になっているぞ?」
「褒められていると受け取っていいのかしら?」
「もちろんだ。もういつでも嫁に行けるな」
康太がこの場にいるというのにそんなことを言うというのはどういうつもりなのだろうかと文は眉を顰めるが、アリスなりに発破をかけているというところだろう。
このままでは早々に嫁に行かれてしまうぞという圧力をかけているつもりなのだろうか。どちらにせよ文からすれば恥ずかしいことこの上ない。
「お姉ちゃん結婚するの?」
「まだできないわよ?いや一応年齢的にはできるんだけど・・・相手がね・・・」
文はそういいながら視線を逸らす。意図的に康太とは違う方向に視線を動かしたものの、その意識が完全に康太に向いてしまっているのは傍から見ても明らかだった。
この場でそのことに気付いていないのは神加くらいのものである。
「ふむ、相手がその気になれば即籍を入れることも視野に入れているか?」
「相手の年齢的にまだ無理ね・・・っていうかまだそんな段階にないわよ。変な圧力かけないでちょうだい」
アリスと文の会話に康太は居心地が悪そうにしている。自分のことを話されているということくらいいやでも理解できるのだろう、難しそうな顔をして顔を伏せてしまっていた。
さすがの康太も目の前でこういった話をされるのは少し気まずいのだろう。そのくらいの考えを持っているということが意外ではあったが文からすれば康太のこの反応はなかなかに面白いものだった。
「ミカよ、お前は相手をよく選ぶのだぞ?フミのように面倒な奴に惚れるといろいろ苦労するからな」
「・・・私?」
「そうだ、お前はいい女になる。好きになる相手は選べよ?」
アリスの言葉に神加は少し考えてから康太の近くに歩み寄りその服の裾を掴む。
その行動にいったいどのような意味が含まれているのか、どのような意図でそのようなことをしたのか、それがわからないほどこの場にいる人間はバカではなかった。
「・・・ほう・・・茨の道を行くか・・・フミよ、なかなかに手ごわいライバルができてしまったな」
「・・・これは・・・どうしたものかしらね・・・康太、さすがに神加ちゃんを相手にするのはやめてね?歳の差ありすぎよ?」
「わかってるっての、俺はロリコンじゃない。神加のことは大事に思っているしかわいいと思っているがロリコンじゃない」
康太は神加の頭をなでながら真剣なまなざしで自分のロリコン疑惑を払拭しようとしている。
だがなでられながら気持ちよさそうにしている神加を見てしまうとどうしても危険に思えてしまうのだ。
本当に大丈夫なのだろうかと。
「確かコータとミカは十かそこら歳が離れていたな?」
「そうね。十分に犯罪的だわ」
「ミカが結婚できる年齢・・・日本の場合は十六か?コータは二十六・・・もし手を出したら本当に犯罪になるのか?」
「そうね。両者の承諾があっても多分犯罪よ。携帯で百十番をプッシュするわ」
現在の法律の関係上、成人男性が未成年の女性に手を出した場合いろいろと問題が発生する。
とはいえ両者の承諾があり、結婚を前提に真剣に交際をしていた場合はその限りではないのかもわからない。
文もアリスもそのあたりの法律に詳しくはないためになんとも言い難かった。
とはいえ十歳も年が離れている子供相手にそのような感情を抱くということそのものが問題であるということは理解できる。
少なくとも文ならばそれほどの年の差がある人間に劣情を催したりはしない。
「だが少しだけわかる気がするな。若い体というのは何というかこう・・・そそるものがあるのだよ」
「・・・なんかあんたが言うとものすごい説得力ね・・・ていうかあんたでもそういうこと思う時があるわけ?」
「そりゃ私の体はまだ若いままだからな。そういった感情がわくこともある。もっとも精神が成長しすぎてなかなかそういう風になることはないがな」
アリスは数百年生きた人間だが、その肉体年齢はかなり低い段階で停止、いや停滞している。そのため性欲の類は普通にあるようだが、成熟しすぎた精神のせいでそういった感情がわきにくいらしい。
特に人類皆年下というのがそういった感情をさらに抑えているのだろう。




