職業:趣味人
「して、今日私とミカはここに泊まっていけばいいのか?少なくとも夜も遅くなってしまうことだし」
「そうだな。神加、今日はここにお泊りするか?」
「いいの?」
「おう、お泊り会だ。寝間着とかは俺や文の服を貸してやるよ」
康太の言葉に神加は「やった」と小さくガッツポーズをしながら微笑んでいた。
小百合のもとから離れられるのがうれしいのか、それとも康太たちと一緒にいられるのがうれしいのか。
どちらにせよこの笑顔は貴重だなと康太と文は微笑んでいた。
「すまんなフミ、二人の逢瀬を邪魔したくはないのだが、頼まれてしまった以上仕方がないというもの・・・せめてミカの情操教育に良いように見つからないところで頼むぞ」
「あんたはいったい私たちがどういう生活を送ってると思ってるのよ・・・言っておくけど私はまだ処女よ」
「生娘がそのようなことを堂々と言うものか。それになんだ、あのベッドの下にあるものは。明らかに見られたらまずいものだろうが」
「・・・あれは私じゃなくて奏さんと章晴さんが用意したものよ。使ってないわよ?神に誓ってもいい」
「私相手に神に誓われてもな・・・まぁ今はミカもいるから追求するのは避けようじゃないか」
そういいながらもアリスは信用してないのか、それともからかうつもり満々なのかニヤニヤしながら康太と文を見比べている。
康太は疑問符を浮かべ、文は顔を真っ赤にしながらアリスを凝視している。にらみつけているといったほうが正確かもわからない。
「それはさておき、今日の夕食は何にするのだ?私たちは育ちざかりなのだからしっかりしたものを頼むぞ?」
「あんた自分で成長抑えてるくせに何言ってるのよ・・・まぁいいけど・・・康太、今日の晩御飯何かリクエストは?」
「肉」
「あんたに聞いた私がばかだったわよ。神加ちゃん、何か食べたいものある?」
「・・・んと・・・ハンバーグ」
「よしハンバーグね。それじゃあサラダは・・・ポテトサラダにでもしましょうか。付け合わせで人参とブロッコリーゆでて・・・キャベツの千切りに・・・」
次々と献立を考え始める文に、アリスはふむふむと何やら感心した様子で文のほうを見つめていた。
「どうした?そんな神妙な目つきして」
「いやいや、ちゃんと食事をとっているか少々不安でもあったのだが、どうやら文は思った以上に料理のスキルが高くなっているようだと思ってな」
「あぁ、食べることに関しては困ってないぞ。文がしっかりしてくれてるからな」
康太の笑みにアリスは少し疑問を覚える。確か話では康太と文が交互に食事を作っているという話だったはずだ。
「・・・コータもたまには作るのだろう?」
「一応一日おきで作ってるぞ?って言っても俺の料理って本当に雑だけどな。たいていパスタとか生姜焼きとか照り焼きになる」
「あぁ、一人暮らし初心者にもやさしい料理だな」
康太の作る料理は比較的味付けも下ごしらえも簡単ですぐに作ることができる料理ばかりだ。
無論まったく料理ができない人間からすればそれでも十分すぎるほどの料理テクニックなのだが、そのあたりは文と毎日のように比べているせいか自分のレベルが低いと感じてしまうようだった。
「そういうアリスはどうなんだよ。料理くらいできるのか?」
「私をだれだと思っている?趣味に関しては右に出る者はいないといわれるアリシアだぞ?当然料理もかなりの実力を持っていると自負している」
長年趣味に時間を費やしてきたアリスにとって、料理も一種の趣味のようなものなのだろう。
食事というのは栄養を摂取する目的を達成するためであれば本当に無味乾燥でも問題ない行為だ。
だがそこに美味しさといったものを追求することによって高い技術を必要とする一つの文化に昇華しているのだ。
当然趣味といえるものに関して徹底的に突き詰めようとするアリスだ。これらのものに手を出さないはずがない。
「ちなみにだけど、アリスが一番得意な料理ってなんだ?」
「また難しいことを・・・そうだな・・・一時期ピザづくりにはまっていたことがあったな・・・魔術を使ってピザを焼くと何とも言えん出来上がりになる」
「なるほど、そういうところでも妥協しないわけだな」
「石窯も捨てがたいのだがな、私はやはり魔術焼のほうが美味く感じてしまう。今度食べさせてやろう。絶品だぞ?」
「でもピザって小麦粉こねて具を乗っけるだけだろ?そんなに変わるのか?」
「ピザをなめるな。私の場合生地そのものもかなりこだわるぞ。まぁ百聞は一見に如かずだ。この場合見るだけではなく味も見ているがな」
アリスは自分の料理の腕に相当の自信があるのか、胸を張りながらいつか康太たちにピザを食べさせてやろうと豪語していた。
変なところで本気を出す奴だなと思いながら、康太は少しだけアリスの作るピザが楽しみだった。




