表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
819/1515

お化けを助ける

「精霊みたいなものというのであれば、君の弟弟子に力を借りることはできないのかな?確か彼女は大量の精霊を内包していたはずだが」


「・・・あ・・・なるほど・・・それはいい考えかもしれないですね。何かしら進展があるかも・・・」


文の考えついたマナの結晶を使った変化というものも期待できそうだが、神加を現場に連れて行って変化を見るというのもかなり期待できる打開策だった。


神加は精霊に愛されている。それはもう溺愛というレベルで。その場に行けば意志の影響を受けた精霊も何かしらの反応を示す可能性は十分にあり得る。


「でも大丈夫かしら?神加ちゃんにこれ以上精霊を入れるのは危ないんじゃないの?そもそも今どれくらいの精霊がいるのかもわからないんだけど・・・」


「うん、それは俺もわからない。そもそも神加の体の中から精霊たちが出てることってあんまりないんだよな・・・それだけ神加の中が居心地がいいのか・・・」


「いやそっちよりも、強い意志の影響を受けた精霊って危なくないの?体に入れる入れないはさておいて神加ちゃんに何かあったら・・・」


文は神加の身を案じているようだが、康太はそこまで心配はしていなかった。少なくとも神加の中にいる精霊たちは常に神加のことを守っている。


もし強い意志の影響を受けた精霊が神加の中に強引に入ろうとし、何か悪影響を与えるようであればその中にいる精霊たちが止める、あるいは排除しようとするだろう。


何せ小百合が見つけた状況では自発的に何らかの術式を発動しその身を守って見せたほどだ。もし神加に命の危険が迫ればその中にいる精霊たちがその身を守ることだろう。


「とりあえずあの家に連れていくくらいならいいんじゃないか?一応万が一のことを考えてウィルも一緒に来てもらってさ。何かしらあれば反応できると思うし」


「ん・・・まぁやってみて損はないと思うけど・・・」


ひとまず見つけられないことにはその先の対応も難しくなってしまうためにまずは見つけ出すこと、話はそこからなのだ。


康太か文の体内に入れるかどうかは相性の問題もあるためになんとも言えないが、見つけなければ話を先に進めることもできないのである。


「そのあたりは師匠とも相談だな。あとは姉さんと・・・一応アリスの意見も聞いておくか。あいつなら適切なアドバイスはできるだろうし」


「そうね。一応保護者の意見はしっかり聞いておきなさいよ?小百合さんは神加ちゃんの保護者なんだからね?」


「・・・あの人のことだから好きにしろとか勝手にしろとか言いそうだけどな・・・そもそも保護者ってタイプじゃないだろあの人」


小百合は良くも悪くも指導は丁寧だ。丁寧にぶちのめしてくれるという意味で。


だがそれ以外のことは完全に放任主義なのである。好きにしろとか勝手にしろとか康太が想像している通りの返答をするのは目に見えている。


春奈もそんな小百合の姿を想像したのか、それとも思い出したのか額に手を当てながら大きくため息をつく。


「まぁ・・・そうだな・・・あいつが誰かのことを心配するというのは想像できない・・・弟子のことでもまったく気にしないだろうな・・・」


「でしょうね。別に私の許可を取る必要もないだろうとか言いそうです」


「あぁ、言いそうだな。自分の立場を理解していないからあいつは質が悪いんだ。もう少し自覚を持てと昔から言われているだろうに・・・」


小百合は良くも悪くも立場が微妙な魔術師だ。協会の中からは危険とされているうえに実力も高く、なおかつ敵が多い。


少し歩いただけで面倒ごとを引き寄せる体質であるために彼女には何もしてほしくないと考えるものも少なくないだろう。


そんな小百合のことだ、きっと師匠でありながら弟子の安否にはあまり興味がないのだろう。


技術は教える。一人前にするつもりもある。だがそれ以外はたぶんだが興味がないのだ。人間的な興味を抱けないという意味ではかなりの欠陥のように思えるがそれはそれで小百合らしいあたりが何とも情けない限りである。


「とにかく、もし神加ちゃんを連れていくなら私と康太だけじゃちょっと不安よ?可能なら真理さんに、最悪アリスに神加ちゃんの護衛をお願いしましょ」


「アリスに頼むのは護衛なのか?」


「当たり前でしょ。あいつに解決を依頼したら即解決されちゃうだろうし、何より奏さんにも言われたでしょ?なるべく私たちで解決するようにって」


「なるほど・・・まぁそのくらいの協力ならいいのか」


康太はアリスに知識を求める以上のことをさせるのはまずいと考えていたのだが、神加の護衛という名目であれば確かに問題はないのかもわからない。


少々過保護かと思われるかもしれないが、神加に関してはこれくらい過保護のほうがいい気がしている。


まだ精神的に不安定な状態の彼女に無理をさせればどうなってしまうのか分かったものではないのだ。


「・・・ていうか神加ちゃんって幽霊とかそういうの大丈夫なのかしら?赤ん坊の声だけだけど結構ホラーよね?」


「え?精霊だって連れてるし、大丈夫じゃないのか?あれだって一種の幽霊みたいなもんだろ?」


「いやそうかもしれないけどさ・・・虫っていったって蝶々とゴキブリじゃ全然違うのと同じよ、イメージの問題よ」


そういわれればそうかもしれないと康太は文にしては的確なたとえに納得しながらとりあえず神加を連れていくための準備をすることにした。


弟弟子を巻き込むのは少々気が引けたが、これも一種の経験だと割り切ることにしていた。













「というわけで神加よ。兄ちゃんと一緒にお化け退治を手伝ってほしいんだ」


「・・・おばけ・・・?」


というわけでという雑な説明の後、康太はさっそく神加に交渉をしていた。


修業をやっている最中、康太は神加の休憩の名目で呼び出し、真理とアリスも含めてその話を切り出していた。


「幽霊退治とは・・・また妙なことをしだしましたね・・・ですがなぜ神加さんの協力が必要なんですか?」


「そのあたりはミカの体質と関係あると見た。だがコータよ、ミカを連れていくだけの理由があるのか?」


「あぁ、そういえばそのあたりの事情を説明してなかったな」


事情を正確に把握できていない真理やアリスにとりあえず今回の状況を正確にわかりやすく話すことにした。


幽霊の正体が精霊であろうということ、そしてその精霊を見つけることができていないこと、神加の協力が必要であることなどなど、可能な限り康太が把握できていることを話すと真理とアリスはなるほどと小さくつぶやいていた。


「事情は分かりましたが・・・神加さんに危険はないんでしょうか?良くも悪くも神加さんは精霊に好かれる体質です・・・もし何か悪い影響があったら・・・」


「ふむ・・・だがミカの体質を考えると精霊たちがミカに悪影響を与えるとは考えにくい・・・か、なるほどコータにしてはよく考えているではないか。リスクがないとは言い切れんがかなり良い策であるように思えるぞ」


心配そうにする真理とは対照的にアリスは康太の考えに肯定的な姿勢を示していた。


少なくとも神加の体質を鑑みる限り、精霊としての本質を忘れていなければ神加を傷つけるようなことはしないと考えたのはどうやら間違いではないらしい。


とはいってもどのような物事にも例外は存在する。今回の相手である精霊がその例外である可能性が否定しきれない以上必ずリスクは生じてきてしまう。


神加の体や精神状態を心配している真理としてはそのあたりは決して無視できないものといえるだろう。


もちろん康太も神加の安全が第一であると考えている。だが神加が魔術師として活動することになる以上、自分の中にいる精霊という存在がどのようなものであるのかを把握しておくのも悪くないと思ったのだ。


康太自身も精霊の存在をよく理解できていない節があるために、そのあたりは一緒に勉強していくことになるだろう。


「・・・正直に言えば私は反対です。もちろん協力してあげたいのはやまやまなのですが、神加さんに頼るのはもっと後でもよいのでは?話を聞く限り一カ月の猶予はあるのでしょう?」


「マリよ、一カ月の猶予があるからこそ早めにミカという手段を切っておくのだろう?もしダメだったときの対応を練るためにも早めに取れる手段はとっておくべきだ」


「・・・ですが・・・言っていることは理解できますが・・・」


真理とて長く魔術師として活動してきたのだ。問題解決にあたり取れる手段は可能な限り早くとったほうがいい。


もしその手段がうまくいかなかった時に次の策を考えるだけの猶予を作るという意味でもそうだし、もしその手段で解決するのであれば早々に事態を収拾することができることにもつながる。


もちろん状況や条件によっては手段を最後まで取っておくというのも必要なことではあるかもしれないが今回のことに関していえば取れる手段は早めに行動に起こしておいて損はないだろう。


無論その場合神加を危険にさらすかもしれないというリスクをしょい込むことになる。真理が懸念しているのはその一点なのだ。


「アリスとしてはどうだ?神加が出て行っても安全だと思うか?」


「んー・・・百パーセント安全ということはできんな。私はまだ現物を見ていないこともあってなんとも言い難い。お前たちも現物を見たわけではないのだろう?」


「うん・・・だから正直迷ってもいる。前にアリスむき出しの感情は結構危ないって言ってただろ?」


前に精霊や幽霊のことに関してアリスに相談した時彼女はそのようなことを言っていた。赤ん坊のような自意識のないむき出しの感情や意思は、影響を受ける側としては多大な影響を及ぼす。


危険かどうかはその度合いにもよるが、通常の精霊などとはまた違う影響を受けることは間違いない。

そこに神加を連れていくことがどれほどの意味を持つのかわからないほど康太も真理もアリスも馬鹿ではなかった。


「確かに言った。だがそれは直接体内に入れた場合の話だ。要するにミカを餌におびき寄せ、コータかフミのどちらかの体に入れてさえしまえば問題はないのだ。いやそれでも問題は普通にあるんだがな」


たとえ康太か文の体の中に入れようと、結局のところ強い影響を受けることには変わりがないためにリスクとしては同じなのだ。


問題は神加にそのリスクが振りかからないかということである。


「精霊に対しての護衛・・・なかなか難易度が高いですね・・・」


「そうなんです、そこでウィルとアリスの二人に神加の護衛を頼みたいなと思ったんだけど、ダメか?」


「・・・まぁそうなるとは思っていたがな・・・だがいいのか?私ならたぶんその精霊そのものを退治することはできると思うぞ?」


「奏さんに言われてるからな、アリスにはあまり頼りたくないんだよ。アリスは万能すぎて何でもできちゃうからな、すごいと思うけどそれは逆に言えば欠点でもある」


「ふふん・・・有能すぎるのも困ったものだな」


アリスは何でもできてしまうという言葉を受けて悪い気はしないのか胸を張ってにやにやしている。


「お兄ちゃん、おばけって怖い?」


話の中心にいるにもかかわらずあまり話に参加していなかった神加が康太の服の裾を引っ張って話に参加しようとする。


康太は身をかがめて視線を低くして神加の目線に合わせながらどう答えたものかと悩みだす。


「ん・・・今回の奴はそこまで怖くないな。赤ん坊の泣き声が聞こえてくるだけだ」


「・・・やっつけるの?」


「やっつけるというか・・・助けてあげるっていったほうがいいかもしれないな。泣いてる子がいるから助けてあげたい。泣き止ませてあげたい。けどその子が見つけられないんだ」


「・・・私がいれば見つけられる?」


「かもしれない。だから手伝ってほしい、けど神加も危ない目に・・・怖い思いをするかもしれない」


だから迷ってるんだよという康太の言葉を、神加はどれほど理解できたことだろうか。康太が何を迷い、真理が何を恐れているのか、この小さな幼女はどこまで把握できているのだろうか。


だがそういった心配や懸念を無視するかのように、神加はその両手で康太の服の裾を強く握りしめる。


「行く、私も行く」


「・・・大丈夫か?おばけだぞ?怖いぞ?」


「だいじょぶ。ウィルもいるし、お兄ちゃんもいる。それに、ししょーがいつも言ってた。やりたいようにやれって。だからやるの。赤ちゃん助けるの」


言葉足らずながら自分の言いたいことをはっきり言う神加に、康太はうれしくなってしまいその頭を思わず撫でてしまう。


神加はくすぐったそうにしていたが康太に頭を撫でられるのが嫌いではないのかされるがままにされていた。


「・・・あの師匠にしてこの弟子あり・・・かの・・・サユリは良くも悪くも弟子をよく教育しているようだ」


「悪影響を受けないか心配なんですけどね・・・神加さんの場合、なるべく師匠との距離も考えながら指導していかないと・・・」


「お前がしっかりしていればいいだけの話だろう?第一、サユリの一番弟子のお前がしっかりしているのだ。サユリはあれで、なかなかいい師匠だと思うぞ?」


アリスは小百合の評価がかなり高いのだなと康太と真理は意外そうな顔をしてしまっていた。


今まで多くの人間と接してきたアリスの言うことなだけにとても強い説得力を持つのだが、あの小百合を素直に褒めるということは康太と真理は少し抵抗がある。


「あの人がいい師匠・・・ねぇ・・・どうにもそうは思えませんが・・・」


「それはお前たちがまだ人を指導する立場にないからそう思うのだ。実際育てることを経験するとよくわかる。あれはなかなかいろいろ考えていると思うぞ?あれを天然でやっているとしたらそれはもはや才能だろう」


小百合のことを妙に持ち上げるアリスに康太と真理はいったい師匠にいくらつかまされたんだろうかと疑ってしまうが、金などでアリスが動くとは思えないためにこれがアリスの本心からの言葉であると思うことにした。


あそこまで傍若無人な人物がそこまで優れた師匠であるとは思えない二人としては疑わしいところだが、少なくともまともな師匠とは違えど何かしら良いところはあるということなのだろう。


「ひとまず・・・神加もこう言ってくれてるし、アリス、神加の護衛を頼む。ウィルも神加をフォローしてやってくれな」


「ふむ・・・まぁいいだろう。子守はもう慣れたものだ。せっかくだからお前たちの生活の様子も見てやろうではないか」


アリスはニヤニヤと笑い、ウィルはやる気を出しているのか体を震わせている。この二人はもはや神加と一緒にいるのが半ば当然のようになっているために特に気にしている様子もなかった。


康太からすればありがたい限りだが同時に申し訳なくも思ってしまう。


「アリスさん、康太君たちの生活環境についてもよく見てきてくださいね。ちゃんとご飯を食べているかとか、あとはその・・・不純なことをしていないかとか」


「何を言うか、もうコータもフミもいい歳なのだからそのくらいのことをしないでどうする。いつまでたっても初心では子供がいつ生まれるかもわかったものではないぞ」


「だめです。康太君も文さんもまだ高校生ですよ?子供を育てるにはまだまだ時間が必要なんですよ」


「何を言うか。それは今の世だからこそだろう?昔は十五、六のものが子供を育てるなど当たり前だったぞ?問題なのは金だろう?二人はそのあたりは問題ないと思うが?」


「お金があっても精神的に成長していなければ意味がないんです。戦国時代じゃないんですからそんなことしたら大変なことになりますよ」


アリスと真理の話がどんどんと脱線していくのを確認しながら、康太は神加にとりあえず頼むことはできたなと安心していた。


いったいどんなことになるのかはさておいて、少なくとも状況が先に進むことを望みながら康太は神加の頭を軽くなでる。


精霊を体内に大量に宿しているという時点で特殊なタイプだ。神加がどれほどの量の精霊を体内に入れているのかは不明だが、精霊との付き合い方を考えるいい機会でもある。


自分も早く精霊を一体くらいは内包したいものだと思いながらいつの間にか育児の方針にまで発展している真理とアリスの会話を止めるべくとりあえず二人の間に入ることにした康太であった。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ