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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」

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精霊ガチャ

「これはなかなか大変そうだな・・・ちなみに文は自分と相性のいい精霊に出会えるまでどれくらいかかったんだ?やっぱ時間かかるんだろ?」


「そうね・・・私の時は目的がはっきりしてたから厳選はそこまで苦労しなかったけど、それでも三カ月くらいかかったわ。こういうのは結局確率・・・いや運なのよね」


「うーむ・・・なんだかガチャをまわしてる気分だな・・・レア5が出るのはまだまだ先の話なのか・・・」


相性の良い精霊を呼び出すことができるかというのははっきり言って運でしかない。召喚した精霊に対して一つ一つ体内に入れて相性を確認することでしか確実な方法がないために時間がかかってしまうのである。


こんなに時間がかかるのでは精霊術師などはまともに活動できるまでかなり時間がかかるのだなと倉敷の苦労を少しだけ垣間見て改めて精霊術師の大変さを理解していた。


康太たちが最初からできるような修業をするためにも数カ月単位、あるいはそれ以上もの遅れが生じるのだ。これはなかなかに容易なことではない。


「親が持ってる精霊とかは割と波長とかが合って相性が良かったりするんだけどね。肉親はやっぱり相性が同じになりやすいみたい」


「なるほどそういうのもあるのか。うちも親が精霊を持ってたら話が早かったんだけどな・・・」


「一般人で精霊がいるようなのは本当に珍しいわよ?神加ちゃんみたいなタイプとかは本当に特殊な例だと思いなさい」


神加は魔術師になる前から、一般人の段階ですでに大量の精霊を体内に内包していた。それは彼女の体質が原因であり、本来ならばあり得ないことなのだ。


何をしたわけでもなく、おそらくは精霊たち自身が神加の中に入り神加を助けたいと思ったからこそ実現したのだろう。


比較的普通の体質をしている康太は確実に一体ずつ精霊との相性を確認していかなければならないだろう。


「ちなみにさ、さっきは歯にものが挟まったっていうのが全身に起こったレベルの違和感だったけど、相性がいいとどんな感じになるんだ?」


「んー・・・そうね・・・私の場合は・・・たとえが難しいわね・・・履いてる靴下が表裏逆レベルかしら?」


「・・・それって違和感っていうレベルか?」


「なんかこう、気にならない?いや気づかなかったら放置するけど、それがわかったら直すレベル?」


「なるほど、その程度の違和感なのか・・・」


相性の良さというものがどの程度なのか知りたかったのだが、文のたとえで微妙に理解が遠のいた康太はとりあえず精霊のことは置いておくことにした。


おそらくこれから毎日精霊を召喚することになるのだ。その召喚の中で康太と相性のいい精霊を一つでも引き寄せることができれば御の字である。


今は今回の本来の目的を気にするべきだと康太は意識を切り替えた。


「まぁ最初からうまくいくとは思ってなかったけど・・・やっぱり来なかったな赤ん坊&母親」


「一発目からくるわけないとは思ってたけどね・・・火属性ではなかったか・・・あとは康太の番よ、強い意志で相手を捻じ曲げて御覧に入れなさい」


「よっしゃ任されよう」


康太はその場に座禅を組んで目をつむり瞑想し始める。傍から見ている文も康太が高い集中を発揮しようとしているのがわかるのだが、ふと康太が目を開ける。


「強い意志はいいんだけどさ、どんな意志を作るべきだ?相手に影響を及ぼすにしたってどういう影響をすれば見つけられるようになる?」


精霊に影響を与えるほどの強い意志を作れるかどうかはさておき、今回の状況においてどのような意志を作れば問題解決の糸口になるのか、そのあたりを考えていなかったために康太は疑問符を飛ばしてしまっていた。


仮に康太の仮説が正しく、赤ん坊の『母親に気付いてほしい』という意志と母親の『赤ん坊を守る、隠す』という意志が混ざって精霊に影響を与えていた場合、どのような意志を加えれば康太たちでも正しく認識できるようになるのか、そのあたりを考えていなかったのである。


「そうね・・・今回の場合、母親の意志、隠そうとしてるっていうのが邪魔になって私たちに知覚できなくしてるわけでしょ?だったらそこを変えられるようにすればいいんじゃないかしら?」


「具体的には?」


「そうね・・・どんなことをしても生き延びたいとか・・・たとえ自分の子供を盾にしてでも生き延びてやるとか・・・」


「とんだ鬼畜野郎だよ。まさかのサイコパスレベルだよ。俺が子供だったらそんな親は嫌だなぁ・・・」


「私だっていやよ。でもそういう意志が上書きされた場合、母親の隠そうとする意志を押しのける形になるんじゃないかしら?赤ん坊のほうは生き残りたいとかそういうことは思ってないでしょうし」


赤ん坊の感情や意思というのは自我がないために非常にシンプルだ。そのために思考を伴った意志に関しては母親のそれを変えるだけで何とかなる。


文の言ったのは少々極端な例だが、自分から赤ん坊を差し出す、あるいは隠すということではなく逃がすといった方向に誘導することができれば康太たちでも今回の精霊を認識できるようになるのではないかと文は考えているようである。


雑なたとえにしては非常に的を射た意見だと康太はひとまず赤ん坊を引きずり出せるだけの状況をイメージしてみた。


隠そうとしているのではなく、さらけ出すような、そうしてでもなすことがあるとでも言いたげな意志。

上手くイメージできなかったが康太は深く瞑想してその意思を作り出そうとする。



案の定というべきか、当然というべきか、強い意志による上書きというのはうまくいかなかった。


康太がうんうん唸って何とか影響させようとしているのだが全くと言っていいほど何も起こらなかったのである。


もとよりそう簡単に話が進むとは思っていなかっただけに、康太も文もそこまでがっかりした様子ではなかったが、少なくとも現段階でできることがかなり限られてしまったのは事実である。


そこで翌日、康太と文は精霊の召喚に加えてもう一つ行動を足すことにしていた。


「・・・さて・・・今回はどうかしら?」


翌日、学校が終わってから超特急で魔力を注ぎ込み、深夜近くになってようやく召喚用の魔力が蓄えられたところで文が精霊の召喚を行う。


前回の召喚の時と同じように強い光に包まれながら現れたのは蛇のような外見をした緑色の存在である。


「一応聞いておくけど、こいつは何の精霊だ?」


「風属性の精霊よ。あんたの得意な属性相性を選んでみたの。まぁ属性的な相性はさておき、精霊の個人的な相性は別問題だから何とも言い難いけど」


宙に浮いているそれを見て、康太は警戒するが、とりあえず目的の赤ん坊ではないことを確認して魔力を放出する。


自分の中に入れるべく魔力の道を作って精霊を導くと、精霊はうねりながら空中を泳ぐかのように康太の中に入っていった。


「どう?」


「・・・ぬぅ・・・?なんか変な感じだ・・・そこまで違和感は強くないんだけど・・・なんかこう・・・ずれてる感じがする・・・上半身と下半身が別の場所にあるみたいな感じがする・・・」


先日の火の蝶々に比べると違和感自体は少なめとはいえ、また別種の違和感を覚えていた康太は難しそうな複雑な顔をする。


これはセーフの部類なのだろうかと悩みながらとりあえず内包したままの状態にしているのだが、文はため息をついて首を横に振る。


「あぁ、それはダメね。明らかに違和感が強すぎてるわ。感覚に影響するっていうのはほぼアウトだから覚えておきなさい」


「・・・オーライ・・・それで精霊を出すにはどうすればいいんだ?」


「どうすればって言われてもこれ完全に感覚なのよね・・・あんたがいつもデビットを出すみたいな感じじゃないの?」


「また雑な・・・んっと・・・こうか・・・?これでどうだ・・・!」


康太は座り込んだまま体に力を込めていく。あぁでもないこうでもないと試行錯誤して数分後、ようやく精霊を体の中から出すことに成功していた。


「ぷはぁ・・・ようやく出せたよ」


「お疲れ様。その様子だと微妙に感覚は違うみたいね」


「あぁ、なんか絶妙に違うな。なんて言ったらいいんだろ・・・こう・・・体の中から絞り出すというか・・・無理やり便を出そうとしてる時の感覚というか・・・」


「お願いだから本当に出さないでよ?まぁそれはいいか・・・今回もダメだったわね」


その場からいなくなった風の精霊を見送ってから、文は自分の中にいる精霊たちを体の外に出していく。


核が文の中にある状態での顕現であるためか、以前真理に見せてもらったような光の球体のような外見をしている。


「よし、それじゃみんな、お願いね」


文の声とともに光の球体はふわふわと部屋の中を飛んでいく。今回召喚以外に追加したものというのは精霊による調査である。


文の体内にいる精霊に掛け合って、この屋内にいると思われる隠れた精霊を探し出そうとしているのだ。


「ちなみに精霊たちはどんな感じだった?任せろ的なことは言ってたか?」


「私の精霊はそこまで上位の子たちじゃないからそういうのはないわよ。ただ最低限のお願いは聞いてくれるレベル。今回のもこの近くにいる精霊を見つけてってお願いしただけだし」


「それでも一応宿主の言うことは聞いてくれるんだな・・・なんか本当にデビットに似てるかもしれん」


精霊というのは上位の者になればなるほど強い自我を持つらしいが、文の連れている精霊はそこまで上位のものではないらしく最低限の意志と感情を有している程度だ。


だがそれでも文の頼みであればある程度のことは聞いてくれるらしい。


「いっそのことデビットにも探させるか。やってくれるかもしれないし」


「・・・デビットってそういうことできるの?っていうかあんたから一定距離以上離れることできるの?」


「なめるなよ、もともと大人なデビットなら初めてのお使いだってできるっての。頼むぞデビット」


康太の声とともにその体の中から黒い瘴気が噴出して徐々に人の形を作り出していく。だが康太の意志に反して人の姿になったデビットは康太の前から全く動かない。


ただじっと康太のほうを見ているだけである。


「・・・どうやらダメみたいね」


「なんてこった・・・マジかよデビット・・・お前いい大人なのに隠れてる子供を探すこともできないのか・・・?」


「・・・いい大人だからかくれんぼはできないってことじゃないの?いやそもそもデビットがそこまで活動できるとは思えないんだけど」


精霊たちと違いデビットは魔術の中に宿った人間の残滓だ。一定のプログラムのように動くことはできても自発的に動くことはできないのだろう。


康太は愕然としながら目の前にいるデビットを見ながら強い失望感を覚えていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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