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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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その事件の詳細

「・・・なるほどな」


「何かわかった?」


康太と文は後日、件の物件のことについて調べにやってきていた。


やってきたのは一般的な図書館である。過去の新聞に加え一時的にパソコンも借りることができるということもあってこの場所が一番調べ物をしやすいと判断したのである。


新聞だけしか情報源がなかった昔と違い、今ならばネットの中にも情報は残っていることがある。


特に過去ニュースに取り上げられた項目であればなおさらだ。


康太と文の思った通り、過去あの家で起きた事件に関してはしっかりと記事が残っていた。特に事故物件として取り扱われている記事の中にはその原因と思われる事件に加え、赤ん坊の泣き声が聞こえるなどということもしっかりと記事に取り上げられていた。


「事件の犯人はその一家の父親だな。傷の形からして間違いないだろ」


「具体的には?」


「家族構成が父、母、三歳の子供、生後半年の赤ん坊って形なんだけど、母親が背中に傷をつけられてるって記事にはある。しかも傷がいくつもあったそうだ」


「まぁ三歳の子供が殺すとは考えにくいし、そう考えると父親が犯人って感じになりそうね・・・にしても背中かぁ・・・」


その記事には一家の傷の場所が大まかにではあるが記されていた。この傷から犯人を特定するというのはなかなかに難儀ではあるが、少なくとも母親の背中に大量の傷があったことから父親が犯人であると断定したのである。


「ちなみにだけどさ、一家心中じゃなくて他殺の可能性はないの?」


「一応記事でもそのあたりを触れてるけど、完全に密室、チェーンまでかけてあったらしい。凶器の包丁からは家族のもの以外の指紋は検出されなかった。父親の死因は喉を掻き切っての失血性ショック死。俺らみたいな方法でも取らない限りはまず心中じゃないか?」


まだ鍵だけをかけてあるような状態であれば家主から鍵を奪ってということも考えられるが、家主は合鍵も含めすべて家の中に保管しており、なおかつ家にはチェーンがかけられていた。


事件の発覚は近隣の住民からの通報。暴れるような音と女性の悲鳴が聞こえたために通報したのだという。


「この記事を見る限り、一家望んでの心中って感じじゃないわね。明らかに父親の暴走ってところかしら?」


「その可能性が高いな・・・母親が背中にばかり傷を受けてたってことは・・・逃げてた時につかまって・・・いや・・・ひょっとして・・・?」


康太はその状況を思い浮かべながら、部屋の構造をイメージし、母親の当時の行動がどのようなものだったのかを考察する。


刃物で攻撃しているのだから、別に前だろうと後ろだろうとあまり関係はないように思える。


だが総じて背中のほうが骨が多いために致命傷になりにくい。無論何度も刺されてしまえばあまり意味はないのだが。


だがそこよりも大事なのは、母親の傷が背中にしかないということである。そこまで強情に背中しか見せなかったのには何か意味があると康太は考えたのだ。


その可能性は康太が考えている間に文も思いつくことができた。


「ひょっとして、この人赤ん坊をかばったの?」


「可能性大だな。赤ん坊だけじゃなくて子供もかばった可能性あり。・・・となるとちょっと話が変わってくるなこれ」


「どういうこと?」


母親が赤ん坊をかばったこと、そして今あの家に赤ん坊の声が聞こえること。だというのに声しか聞こえずその姿が見えないこと。


考えていくと少しずつピースが合わさっていくように少しずつ話が見えてくる。可能性としてはありえないことではない。アリスに聞けばあり得るかどうかを考察してくれるかもしれないが、今の時点でも可能性は十分にあった。


「今回の影響を受けた精霊はさ、赤ん坊からだけじゃなくて母親からも影響を受けてる可能性があるって話だ」


「・・・二人の人間の意志の影響を受けたってこと?」


「イグザクトリー。赤ん坊は不安だから母親を求め泣く。母親は赤ん坊を守ろうと隠す、見つからないように。つまり見つからないようにするのと自分の存在を知らせようとする二つの意志の影響を受けたなら」


「・・・赤ん坊のほうの泣き声は聞こえるけど、母親の意志のせいでちょっとした索敵妨害みたいになってるってこと?」


「可能性としてはありえないか?」


康太の考えに文は眉を顰める。確かにあり得なくはない。可能性としては十分にあり得るし何より筋が通っている。


今の状況を説明するには最適な解答かもしれない。だがそれだけに、今後どのようにすればいいのかがわからない。


赤ん坊は母親に気付いてほしくて、何とかしてほしくて泣く。


母親は赤ん坊が殺意にさらされないように、殺されないように隠し守ろうとする。


この二つを同時に解決しようとするとなるとかなり面倒だ。体の中に入れて徐々にその感情を融解させようにも、そもそも見つけられないのだから。


こうなってくると強い意志によって影響を上書き、あるいは加えるしかない。


だがそのような強い意志を持ち合わせているような人物など心当たりはない。というかそういう精霊にまで強い影響を与えるほどに強い意志を発することができるのは本当に限られた状況だけだ。


それほどの強い意志を都合よく出せるとも思えなかった。


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