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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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住まい新たに

「案外近くにスーパーもドラッグストアもあったな。立地としては確かにかなりレベル高いんじゃないか?」


「そうね、確かにあの部屋を幽霊騒ぎで放置してるのはもったいないかも・・・奏さんが私たちに依頼するのもわかるかも」


周囲の状況を確認すると、比較的閑静な住宅街でありながらもスーパーやドラッグストアも比較的近くにある。


駅からもそれなりに近いうえに大通りも道を少し行けばたどり着ける。交通の便もよく生活もしやすいという意味ではかなりの好立地であるように思える。


そんな場所の部屋一角を放置しておくのは非常にもったいない。奏が康太たちのことを思ってこの場を用意したというのも間違いではないのだろうが、奏としてはこの物件を遊ばせておくというのはかなりの損失であると考えているのだろうと康太たちは察していた。


「ところでだけどさ康太、これから一カ月生活するわけだけど・・・その・・・寝るときどうするの?」


「どうするって?」


「ベッド・・・一つしかないのよ・・・近くに大きな量販店もあったし、布団でも買ってくる?」


ベッドが一つしかなかったのは奏の策略だし、何より一緒に寝るようにという指示もあった。


本来ならば依頼主でありこの状況を提供してくれた奏の言うことならしたがいたいところなのだが、文としても一カ月も康太と同衾するというのは少々はばかられる。


早い段階でその答えを出しておいたほうがいいような気がするのだ。


「・・・んー・・・別にいいんじゃないか?もちろん文がいいならだけど」


「あんたは平気なの?」


「うん、文は寝相いいしいびきとかもかいてないし別に気にしないぞ」


「・・・そうじゃなくて、その・・・男女的な意味でよ・・・」


「そういう意味だとしても、だな。まぁ文ならいいかなって」


康太の言葉に、文は耳を疑っていた。そしてその意味を深く思案し始めてしまう。


それはつまり、そういうことなのだろうかと頭の中でぐるぐると康太との行為を想像して顔を真っ赤にしてしまう。


だが自分の考えを必死に否定するかのように首を勢い良く振る。康太はただ一緒に寝るだけという考えの可能性だってあるのだ。


何も男女の関係になることまでを示唆しているとは思えない。


いつものように文が勝手に勘違いしている可能性のほうが大きいのだ。勝手に勘違いして勝手に暴走するようなことは避けるべきだろうと文が考えていると、康太は何かを思いついたかのように文のほうに視線を向ける。


「あぁ、でもやっぱそういうことするには答えを出してからのほうがいいよな・・・文としてもそのほうがいいだろ?」


「え?・・・あ・・・はい・・・」


「うん、だからまぁ俺が答えを出せるまでは普通に一緒に寝るだけにするか。文が緊張とかして眠れないっていうようであれば布団の購入も視野に入れようぜ」


「あ・・・そ、そうね」


文は康太の発言に一瞬呆けてしまっていた。


康太の言葉の意味を正確に理解し、そのうえで先ほどまでの康太の発言を整理すると一気に顔が赤くなる。


つまり康太は文とそういうことをすることも想定のうちだったのだ。これは男女間における考えの違いか、それともただ単に康太がそういうことに関しておおらかであるからなのか。


どちらにせよ文にとっては強い衝撃だった。


文が顔を真っ赤にして動揺しながら康太から顔を背けている間、実は康太も顔を赤くしながら文から若干顔をそむけてしまっていた。


康太だって思春期だ。そういった行為を想像、いや妄想したことくらいある。そういった行為をしたいと思ったことも何度もある。


だがこうして実際に、その相手もいる状態で一緒に寝るという状態が作り出され、しかもそれが文となるとどうしても平静を保てなかった。


文にはばれないように虚勢を張っているものの、ちょっとしたきっかけでばれてもおかしくない。


この二人は魔術師ではあるが、二人ともまだまだ幼い思春期の高校生なのだ。こういった状況になれていないのは仕方のないことである。


傍から見れば付き合いたての恋人のように見える二人だが、実際はまだその域には達していないなんとももどかしいところなのだ。


「・・・あ、そ、そういえばだけど、一応お線香とか買っておかない?一応幽霊っぽいのに効くかもしれないしさ!」


「あ、あぁそうだな。あとそれっぽいものとか必要なもの買っておくか。塩とか?あれって食塩じゃダメなんだろ?」


「どうなのかしらね。あら塩?食塩?ぶっちゃけ清められればなんでもいいんじゃないかしら」


気まずくなった空気を強引に軌道修正することに成功した二人は若干高めのテンションのまま今後の生活、および依頼達成のために必要そうな物品をどんどんと購入していくことにした。


結局周囲の散策も含め、買い物が終わって部屋に戻ってきたのは夕方になってからになってしまった。














「さて・・・とりあえず生活するための準備はできたな・・・」


「そうね。食材はちょくちょく買い足すようだけど、ひとまずは生活できるはずよ。あと足りないと思ったものは随時買い足しましょ」


康太と文はその日の夕食を食べ終え、一息ついていた。


その日の夕食は文が作った。今のうちから胃袋を抑えておくのもいい作戦だと思ってかなり気合を入れて作ったのである。


文は比較的料理はうまいほうだ。その文が気合を入れて作ったものなのだから美味しくないはずもなく、康太は舌鼓を打ちながら非常に満足した様子だった。


夕食の片づけを二人で並んでしていると、康太はちらちらと時間を気にしだす。


現在時刻は十九時五十分、もうすぐ二十時になろうという時間帯である。そしてその事実を確認して文も康太が何を気にしているのかを理解した。


二十時三十分ごろ、奏の証言によればその時間帯に赤ん坊の泣き声が聞こえてくるのだという。


今回の本題の一つとでもいうべき案件だ。早い段階でこれを解決するためにはなるべく集中して事に当たらないといけないだろう。


「どうするか・・・風呂に入るには中途半端な時間だし・・・一応対応できるように準備しておくか?」


「そうね。あらかじめ精霊が活発に行動しやすいように準備しておいたほうがいいかもしれないわ」


「そんなことできるのか?」


「一応精霊を操ってるからね。あくまで多少はって感じだけど・・・どれくらいの影響力を持ってるのかわからないから少しだけにしておくけどね」


文は皿を乾燥機に入れながら部屋を見渡す。


この部屋のどこかに現れるのか、それとも今この瞬間にもいるのかはわからない。


魔術師としての視覚を有している二人でも視認できないほどその存在が希薄になっているのか、ただ単に全く別の場所にいるのかはわからない。


少なくとも文が普段行っているような程度のことであればできると考えていた。


「索敵では反応ないんだろ?」


「今のところはね。ただ単に反応に引っかからないようにしてるだけかもしれないわよ?」


「精霊ってそんなこともできるのか?」


「精霊はどこにでもいるのよ?私たち魔術師がそれを知覚できるようにしてるってだけの話。自然そのものって話したでしょ?」


「じゃあここら辺にも?」


「いるかもしれないわね。少なくとも私は感じられないけど」


普段精霊を使役していない康太からすればその感覚はわからない。精霊という存在をそろそろ使役してもいいころだと兄弟子である真理などは言ってくれているが、完全にタイミングを逃してしまっていた。


供給口に不安のある康太からすれば属性魔術だけでも一時的に供給量が増すのはありがたいことであるために早い段階で精霊を身に着けたいとは思っていた。


だが精霊を身に着けるということがどういうことなのか、どのようにして行うのかまったくイメージできないのだ。


何より康太の中にいる同居人がどのような反応を示すかもわかったものではないために成功するかも怪しいところだが。


「ちなみにだけど康太、今回の精霊、あんたはどう対処するつもりなわけ?」


「・・・俺の中に入れようとしてる」


「・・・一応聞いておくけど、その心は?」


「文はもう精霊連れてるから干渉されるかもしれないけど、俺は精霊連れてないから喧嘩することもないだろ?最悪デビッドを文に預けるよ」


そんなことができるかどうかはさておいて、デビットがもし精霊と喧嘩をするようなことがあれば康太は体の中にいるデビットを一時的にでも文に預けるつもりでいた。


デビットも文とそれなりの付き合いになってきたのだから、一時的に引っ越しくらいは許容してくれると思いたい。


「別に抱え込んでるとかそういうわけじゃないのね?」


「まったくかかわってない赤ん坊に対して何を抱えろっていうんだよ。抱っこしろってことか?」


「そういうことじゃなくて・・・言いたいことわかってるでしょ?」


「・・・うん、とりあえず俺ならもしかしたらいろいろ見えるかもしれないからさ」


見える。康太の起源を発端として、康太は魔術の原点とでもいうべき光景を見ることができる。


もしそれが変質した精霊などにも適応されるのであれば解決の糸口になるのではないかと考えたのだ。


実際それができるかどうかは置いておいて、精霊について詳しい文を正常な状態で待機させるというのも重要なことだ。


万が一の対応は文に頼むことになるため、体を張るのは自分の務めだと康太は考えているようだった。


文もその考えが間違っているものではないと思っているからこそそれ以上何も言うことはなかった。


「泣き声が聞こえてきたら本格的に行動開始ね」


「それまでは普通にしてようぜ。準備があるなら手伝うぞ?」


「大丈夫よ。何なら魔術の修業でもしてる?せっかく時間があるんだし」


「それもそうだな。早いところ覚えなきゃいけない魔術たくさんあるし・・・今年度中にものにできるかな・・・?」


康太はそんなことを言いながら手を拭きつつ笑って見せる。その笑みをどこかで見たことがあるなと文は一瞬眉をひそめて康太と同じように手を拭いて台所を後にした。



日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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