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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」

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懸念的中

康太と文は土曜日にその場にやってきていた。


奏の紹介にあったアパート、いや建物の大きさからしてマンションというべきだろうか。


話を受けていた通り、康太たちが通う三鳥学校から電車で四十分ほどの位置にある駅から徒歩十分。電車の音もあまり聞こえない場所にその建物はあった。


六階建てのマンションで、康太たちが調べに行くのは三階の二号室。


すでに鍵は渡されており康太たちがその部屋の中に入ると、すでに誰かが生活しているのではないかと思えるほどに整えられた家具一式がそこにはあった。


「うっわぁ・・・予想はしてたけどすごい整えられてるわね・・・」


「これだけでいったいいくらかかったのやら・・・家電もそうだけど食器とかそういうのも全部そろえてあるぞ・・・あ、さすがに冷蔵庫の中身はないわ」


「でも米とかパスタとか・・・あと調味料関係は全部そろえてあるわね・・・これかなりかかってるわよ?十万二十万じゃ足りないわね・・・」


部屋の中に入った瞬間、康太たちはこの部屋がどのような間取りになっているのかを確認するために調査しながら中に入っていく。


扉を開けてまっすぐに伸びた廊下、途中に分かれ道として洗濯機のおいてある広めの洗面所に風呂場、そして廊下を挟んで向かい側にはキッチンがある。そのキッチンも広めになっており壁には穴が開いておりダイニングとの吹き抜けになっている。


ダイニングはリビングとふすまでつながっており、リビングから一つ扉を挟んで寝室とつながっているようだった。


そしてリビングの脇にはもう一つ扉があり、そこからもう一つリビングがあるのが確認できた。


所謂2LDKという奴だろうか。二人だけで生活するには明らかに過剰な敷地面積に康太と文は眉を顰める。


リビングにおいてあるソファ、テレビ、テーブルなどなど、明らかに奏の趣味であろうがなかなかに良いものであるというのが一見して理解できる。


そして何より文が驚いたのは寝室だ。


やはり奏の差し金なのだから仕方がないというべきか、当然のようにダブルベッド。別々で寝させるつもりなど一切ないとでもいうかのようにベッドの上には紙切れが一枚置いてあり奏の筆跡で『一緒に寝るように』と付け加えられていた。


あの人は本当に何を考えているのだろうかと思いながら部屋の中を探索している康太のほうに意識を向ける。


康太は部屋の隅々まで探索し、とりあえず何があって何がないのかを確認しているようだった。


「とりあえず食料以外はたいていそろってるみたいだな・・・さすがにゲームの類はないみたいだけど」


「奏さんもそこまでは用意してないでしょ・・・ちなみにその精霊だっけ?その存在は感知できる?」


あらかじめ幽霊と呼ばれる存在がどのようなものであるのか、今回の依頼対象がどのようなものであるか、そしてその対処法に関してはすでに文には説明してある。


まずは依頼の解決を第一目標に、その次に康太との同棲生活を楽しむつもりで文はやってきていた。


どれくらいの猶予があるのかはさておき、早めに解決しておきたいというのが文の考えである。


「俺は精霊に関してははっきり言って門外漢だからなぁ・・・文のほうがわかるんじゃないか?」


「あぁそっか、あんたまともな精霊を身に着けてないんだっけ?これもいい機会か・・・って言っても私も感じ取れないわよ?本当にいるのかも怪しいわね」


「時間指定があるっぽいし、その時間になるまで待ってみよう。それまでは普通に生活することを目標にするって感じか」


異議なしと文は手を挙げながら康太の意見に賛成する。まずは自分たちが生活できるだけの基盤を作らなければならない。


とはいえすでに生活に必要なものはほとんど用意されている。


康太たちがやることと言えば持ってきた衣類などの整理に加え、食材を買ってきて冷蔵庫の中に入れる程度だ。


日用品も持ってきているために購入の必要はなく、あとは本当にやることが幽霊退治くらいしかなくなってしまうのである。


「この辺りの店を把握するところから始めましょうか。近くにあるスーパーと、あとはドラッグストアも確認しておきたいわね」


「スーパーはわかるけどなんでドラッグストア?」


「ティッシュ、トイレットペーパー、洗剤、シャンプーとかリンスなどなど、必要なものはたいていドラッグストアにあるのよ?コンビニ以上に便利なんだから」


「なるほど。足はどうする?ちょっと遠かった場合チャリ買うか?」


スーパーなどが近くにあったのであれば自転車を買う必要などはないのだが、もし仮に遠かった場合は自転車などの購入も視野に入れるべきなのだろう。


だが良くも悪くもここには一カ月しかいないのだ。そのためにわざわざ自転車を買うというのはもったいないように思えてしまう。


「そうね・・・自転車はなるべく買わない方向で進めましょう。ここって一応居住者用の駐車場があるわよね?ならそこにバイクを持ってきましょう。康太のバイクを持ってくるのお願いできる?」


「なるほど、任された。んじゃちょっくらとってくるわ。その間に部屋の細部の確認と買い物リストの作成頼んだぞ」


康太が出て行ったあと、文はさりげなく寝室を調べることにしていた。あの手紙が置かれていたということは奏がここにやってきたということである。


何かしらの道具などが置かれている可能性があるために文は一応寝室にあるものを調べることにしたのである。


寝室にある棚やライトを置いてある小さめの台、そしてそれぞれにある収納などを確認してみると、再び奏の筆跡で何か書かれたメモとメモが張り付けられた段ボール箱が見つかる。


そこには『もし機会があれば使いなさい』という端的な内容が書かれていた。いったい何が入っているのだろうかと文が中を確認すると、その中には明らかに高校生が使うようなものではないものが入っていた。


具体的には避妊具などの類である。康太と文がそういった行為をするときに必要になるだろうと考えて奏が用意したものであるということは容易に想像できた。


奇しくも小百合の予想が的中した形になる。文は小百合の懸念と予想を知らなかったがこうなることは文も予想できていた。


むしろ今までこのような直接的な、少々下卑た支援をしてこなかっただけましだと思うべきなのだろう。

この段ボールはどうするべきだろうか、そんなことを考えながらほかにも何かあるのではないかと索敵を発動する。


部屋の中にいったい何があるのか、確認するためにはこれが一番手っ取り早い。するとベッドの下にある引き出しの中に何かがあるのを確認する。


それは縄だった。なぜ縄が置いてあるのだろうかと文はかなり疑問に思ったが、まだ縄以外にもいろいろと入っているのを確認して文は一つ一つ手に取って確認してみる。


出してみれば明らかに異常とも取れるものが大量に出てきた。


手錠やら拘束具やらローションやら妙に大きな針のない注射器のようなものまで。ありとあらゆるものをそろえたとはまさにこのことを言うのだろうか。


奏がこういうことをする人間かどうかはさておいて、その中に一つの封筒が用意されているのを確認してその封筒の中身を確認する。


そこには奏から文宛の手紙が入っていた。


『文へ。

康太と一緒に生活するということで必要になるものが多く存在すると思う、たいていの日用品は用意させてもらった。ただこれから康太と一緒に生活しそういうことが起きないとも限らない。そのため最低限のものは私が、少々特殊なものは章晴に用意させた。君たちの好みに合うかはわからないが、使わなければそれに越したことはないように思う。


今回は依頼という形をとり、このような場所を用意したが私は君と康太が一緒になれることを願っている。


君たちを導く大人としてはこのようなことを言うべきではないのかもしれないが、可能ならばやってしまえ。


康太はあのようにまだ子供だ。迷うところもあるがあれも男だ。しっかりと対等な関係を築いていけるように頑張りなさい。


追伸 もし必要なものがあれば私に連絡しなさい。たいていのものは用意しよう。


草野奏より』


文はこの手紙を読んで段ボールの中に入っている避妊具の類を奏が、そしてベッドの下にある明らかに何かしらのプレイを想定して用意された物品が彼女の弟子である章晴によって用意されたものであるということを理解する。


高校生にこんなものを用意して一体何をさせるつもりなのだろうかと、かつて一度だけ手合わせをしたことがある章晴のことを思い出しながら文はそれらをベッドの下にしまい込む。


おそらく使うことはないだろうと決心しながらも、奏が用意してくれた段ボール箱だけは比較的だしやすい押し入れの中に入れておくことにした。


文本人はそんなことをするつもりはないと思っているが、康太がもしそういった行為をしたいといった時文は拒める気がしない。


そう、これは康太の行動を予見してのものだと文は自分に言い聞かせながら段ボールをしまった押し入れの扉を閉じた。


康太が帰ってくるまでに買い物のリストを作らなければいけないと文は部屋の中を探索し始めた。


寝室などには買うものはない。あと買うものと言えば日用品の中でも消耗するものばかりだ。


とりあえずこの土日の間にまともに生活できるだけの環境を整えなければ学校が始まってから慌てることになってしまう。


二月ももう半ばを過ぎた。三月半ばから終わりまで、つまり春休みの直前までは康太と一緒に過ごすことになるのだ。


このチャンスを逃すことはできない。


とはいえこれは康太の意識改革の一環でもある。奏曰く康太と一緒に暮らしていれば見えるものも出てくるはずだ。


そしてそれは康太も同様。文のことをどのように見ているのか、どのように見るべきなのかこの生活の中で見えてくるはず。


まずは依頼を完遂することを第一に考えなければならないだろうが、それ以上に康太との関係を進めることが文にとって重要なことだった。


日用品で必要そうなものを買い物のメモに記していき、部屋の構造やものが置いてある場所などを把握し、それぞれの家具の機能なども確認している間に、康太がバイクをもって戻ってくる。


一応持ってきたバイクは置いて、まずは徒歩で周囲の店の調査と買い物に出かけることにした。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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