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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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魔術師の攻防

『ビー、大丈夫?』


「大丈夫だ、相手は氷の魔術を使うみたいだな。さっきから小技で牽制されてる」


康太がこれから突っ込もうとした瞬間にイヤホンから聞こえてきた声に僅かに脱力してしまう。


タイミングというものを考えてくれないかなと思いながらも康太はその声に反応していた。


「これからちょっとアクションかけようってところだ。アドバイスくれるなら今の内だけど」


『そう、アドバイスって言ったって状況なんて見えないんだから出しようがないわよ。頑張りなさい。魔力の残量に注意しなさいよ?』


文に言われるまでもなく、康太は自らの魔力の残量に関しては常に注意していた。なにせ魔力の供給量が非常に少ないのだ。優秀な文と違ってポンコツであるためにそう言ったことは常に意識している。


だが心配してくれるというのは素直に嬉しかった。今彼女はしっかりと生徒たちを守っているだろう。正確には生徒たちの意識がこちらに向かないようにしてくれているだろう。そのおかげで自分は十分に戦える。


周りを気にしなくていいのだ、これだけで康太にとっては十分以上に好条件であると言える。


『ただ一つだけいえることがあるわ、方陣術を使ってるって言ってたけど、陣は反応し続けてる?』


「あぁ、良く光ってるぞ。おかげでよく見える」


『オッケー、それならまだ勝ちの目があるわ。当然だけど方陣術だって使い続けてればその分集中しなきゃいけないわ。そうなれば他の魔術に割けるだけの余裕は少なくなるはず。たぶん魔術の同時使用や高威力の魔術は使えないはずよ』


方陣術というのは物体を媒介にして術を発動するためのものだ。あらかじめ魔力を注いで時間差で発動することもできるがその為にはそれだけ複雑な術式を刻まなければならない。


そして式が複雑になればなるほどに加える魔力の波長や量が変化する。


単発で発動するならまだしも、連続して使用し続けるという事はそれだけ魔力を注ぎ込まなければいけないという事でもある。


繊細な魔力を注ぎ続けるという動作に加えて他の魔術も発動できるという時点でかなりの高等技術だが、逆に言えばそれ以上の魔術的な行動はかなり制限されると考えていいようだ。


「オーケーいい知らせだ。そっちは任せたぞ」


『了解、くれぐれも気をつけなさいよ』


通話は切らずに会話を終了させると康太は意識を集中した後で槍を構えて姿勢を低くしていた。


誰が見ても分かる突撃体勢。陸上などでもよく使うクラウチングスタートである。康太は姿勢を低く視線の先にある方陣術の方向へと意識を向けていた。


この先にいる氷の魔術師、自分が倒すべき敵。


相手がどのようなことをしようとしているのかは知らない、それはあの魔術師を倒した後でゆっくりと聞けばいいだけの話だ。最悪倒してから文に教えてもらおうとさえ考えている始末だ。


まずは倒す。あれだけ文が慌ててすぐに止めろと言ってきたのだ、それ相応の意味がある。協力関係にある自分より優れた魔術師が言っているのだ、恐らく間違いはないだろう。


息を吸って吐いて、いつも走っているのと同じような感覚で康太は呼吸する。部活動のそれを思い出しながら康太は静かに頭の中でスタートを切った。


頭の中に響くスタートの合図とともに康太は一気に走り出していた。木々をすり抜け身体能力だけで一気に接近していく。先程のそれよりも速い、走ることにしか集中していないそんな動きだった。


康太の姿を確認した魔術師は当然のように氷の礫を放ってきた。無数の礫が襲い掛かる中、康太は槍と外套により最低限の防御をしたまま魔術師めがけて突進していく。


礫だけでは康太は止められないと察したのか、魔術師は再び足元につららの刃を作り出そうとしていた。


先程はこれで突進を止められた、ならば今回も止めてやるという気持ちだったのだろう。


だが今回の康太はそれでは止まらない。


あのつららの刃はいわば文が使っている電撃と同じだ。威力が高い代わりに自らの近くでしか使えない。もし距離があっても使えるのであれば氷の礫を乱打するよりも進行方向を塞ぐという意味でもつららの刃を使ったほうが確実に相手を打倒できるからでもある。


だからこそ、康太がやることは実にシンプルだった。


魔術師の眼前にまで迫った康太に対し、つららの刃が発動しようとしたまさにその瞬間、康太はその場から消えた。


少なくとも魔術師にはそのように見えていた。今まさに目の前にいたはずなのに突然その姿を消していたのだ。


だが康太は消えていなかった。魔術師もすぐに康太がやったことを理解していた。


康太は再現の魔術を使い空中に足場を作り出し、魔術師の頭上を跳び越えていた。


目の前をつららの刃でふさがれてしまうのであれば、進行方向を変えずに進めば貫かれてしまうのであれば、そのつららの刃を回避するついでに跳び越えてしまえばいいと考えたのである。


康太は魔術師の頭上を跳び越えながら手に持っていた槍の狙いを定める。標的は眼下にいる氷の魔術師。


槍を振り下ろすと同時に康太は魔術を発動する。再現によって槍の刃の起こす斬撃と刺突を再現することで康太は一呼吸の間に三回の攻撃を魔術師に与えていた。


肩、腕、胸


それぞれを切られ、刺され、傷つけられたことで魔術師の体から血が出る中、康太はその勢いのまま魔術師を飛び越えて地面に着地する。


すぐに着地して体勢を整えるとすぐに踵を返して魔術師めがけて突撃する。この好機を逃す手はない。相手は負傷し何より自分の魔術を分析しようと頭を回しているだろう。所謂パニック状態に近い。


混乱した頭にさらに攻撃を与えれば勝てる。思い切り槍を突き出して魔術師を攻撃しようとした瞬間、槍の先にいる魔術師は血を振り乱しながら地面に手を着いた。


瞬間、槍に伝わる硬い感覚。硬い何かにぶつかるような音が康太の耳に響く。それは槍が弾かれた音だった。


康太の槍は魔術師の作り出した氷の壁に弾かれていた。その壁は一面だけではなく魔術師の全方位を囲むようにドーム状に形成されている。


一分の隙もなく、空気を取り込むための穴さえもなくした完全な防御態勢。


どうやら康太の攻撃とその対応に危険度を跳ね上げたのだろう。このまま籠城の構えを取るつもりのようだった。


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