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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
809/1515

むき出しの

「そうなのか・・・奏さんとか、普通の魔術師はそういうことは知らないのか?」


「普通は知らん。というか知る機会がないだろうな。そもそも魔術師にとって精霊というのは都合よく存在している補助用の存在になり果てている。それにそういった存在が変質していたところで別の何かだと考えても不思議はないだろう」


生まれる瞬間を見なければその存在が元は精霊であったなどと信じられるはずもないのだという。


精霊の研究をしている魔術師なども当然いるだろうが、精霊そのものの研究よりも魔術に対する研究のほうがメジャーであるためにアリスの知っているような事実に到達できていないのが現状であるらしい。


そしてアリスがどのようにしてその事実に行き着いたのか、少しだけ興味はあるがそれを聞いたところで仕方がない。


少なくとも具体的な解決方法が早々に一つ見つかったことに関しては僥倖と思うべきなのだろう。


「今回の物件・・・赤ん坊の声が聞こえるって話なんだけど・・・そういう小さな子供の意志でも影響を受けるのか?」


「・・・赤子か・・・正直に言えばわからんとしか言いようがないな。私は少なくとも成人した人間の影響を受けた精霊しか見たことがない。右も左も、まだ自我さえない状態の者の影響を受けるかどうか・・・いやまて・・・昔一度だが動物のように変質した精霊は見たことがある。そう考えると不思議ではないのか・・・?」


人間のように意識と知恵を持って行動している生き物とて動物の一種だ。人間の影響を受ける精霊が動物の影響を受けないという保証はない。


いくら人間の強い意志が強い力を持っているとはいえ、それらが動物にないとは一概にいうことはできない。


さらに言えば人間の中でも限りなく動物のそれに近い赤ん坊の影響を受けないとはいいがたいのだ。


「可能性としては否定しきれん。だが正直少々危険かもしれんな」


「どうして?赤ん坊だぞ?」


「赤ん坊だからこそだ。大人のように知性があり、ある程度リミッターがかけられている感情と違い、赤ん坊のそれはむき出しだ・・・おそらく・・・かなり宿主に強い影響を及ぼすとみていいだろうな」


「・・・具体的には・・・?」


「どうなるのか・・・正直私にも判断しかねる。だがもしその精霊を宿して解決しようというのであれば、覚悟したほうがいい」


むき出しの感情。直接その精霊を身に宿した場合どのような結果になるのかアリスも予測できないようだった。


精神の崩壊を招くのか、あるいはその精霊の影響を強く受ける程度で済むのか、稀なケースゆえに判断ができないらしい。


「その言い方だと、別の解決方法があるみたいな言い方だな」


「あるにはある。とはいえ根本の解決にはならん。要するにさっきコータが言ったことではないが、強い意志で強引にその存在に影響を及ぼせばいい。徐々に元に戻すのではなく強い力で全く別の方向に捻じ曲げるのだ」


「・・・そんなことできるのか・・・でも一応そういう方法で解決もできるのか?」


「精霊そのものが元に戻っていないという意味では解決はしていない。だが一度存在に強く影響を与えることでより安全に近い形に変えるのもまた方法の一つだろう」


強すぎる意志の影響が危険なものであるならば、その危険なものから少しでもまともな感情に引っ張れば宿した時の影響が安全側に傾くことになる。


とはいえそう簡単にはいかないのは間違いない。何せ精霊に影響を与えるほどに強い感情でなければその方法は使えないのだ。


それが困難であることを康太は理解している。


かつて康太が見たあの光景。絶望したデビットの上げた慟哭。あの時デビットが抱えていた絶望の感情を康太は直に感じたのだ。


無力感、悲しみ、悔しさ、怒り、それらすべてを煮詰めて混ぜ合わせたかのような、ぐちゃぐちゃになった感情。


今のデビットを作り出したそれほどの感情を生み出さなければ、おそらく精霊に影響を与えることなどできないだろう。


そうなると取れる手段は一つだけとなる。強い意志のほうもやってみて損はないかもしれないが、はっきり言って無駄骨になる可能性も高いだけになんとも言い難い。


「なるほどな・・・まぁ一応候補には入れておくよ。あとは実物を見てからだな・・・どんな感じなのかわからないけど」


「そうだの・・・だが覚悟しておけ、死してなお残るほどの強い意志だ、近くにいるだけでも影響を受ける可能性がある」


「あぁやっぱそういうのあるのか。一般人にもわかるくらいだから相当かな?」


「そうだろうな・・・一般人でもわかるほどの強い存在感を示しているということだろう。あるいは同じ人間だから感じやすいというのもあるのかもしれないな」


そういわれれば動物の幽霊というのはあまり心霊現象などでも取り上げられることはないなと康太は思い出す。


同じ生き物だからか、人間は人間の霊をよく確認する。


同じ生き物だからこそ波長のようなものが合うのだろうか。


魔術師としての視覚を有していない一般人でも確認できるほど、強く発せられる意志に影響を受けてしまう。


それが心霊現象の原因といえるのだろう。


良くも悪くもこの一カ月は心霊現象に立ち向かうものとなりそうだった。少なくとも解決の方法が見つかっただけまだましと考えるべきだろう。


康太は来たる同棲の始まりの日まで少し決意を新たに準備を進めることにした。


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