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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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人生の先輩(有能)

「ほう!あの文が!」


「そうなんですよ、この前告白されまして」


康太と文がスキーに行った次の日曜日、康太は一週間学校に通いながらみっちりと考えても答えが出せなかったために一番相談役として適任だと思われる奏のもとを訪れていた。


本来ならば師匠である小百合や兄弟子である真理を頼るべきなのだろうと思ったのだが、小百合は性格に難があり相談役には不適格、真理は神加の修業で手が回らないために相談するには少々忙しい。


そのため身近にいる人間の中で奏と幸彦が相談相手として挙がるのだが、幸彦は協会での活動が忙しく捕まえることができないためにこうして奏に相談することにしたのである。


「そうかそうか、まさかそんなことになっているとは全くもって知らなかった。そうかあの文がなぁ」


いつも通りの日曜日の訓練、相談するということで文がその場にいないのかといわれるとそういうわけでもない。


普通に文は近くで魔術の訓練を行っている。相談する内容の核心に位置する人間がこんなに近くにいるというのにそのことを相談する康太はいったいどういう神経をしているのだろうと文はあきれてしまう。


そしてわざとらしく白々しい笑みと驚きを浮かべている奏にも少しあきれてしまう。


今までそんなことは知らされておらず、今そのことを知ったという体を保つつもりなのだろう。


陰ながらサポートしていた奏だが、そのあたりはわきまえているようだった。別にばらしても問題はないだろうと文は思ってしまうのだがそのあたりは大人として一歩身を引くべきだろうと考えたのだろう。


「だがどうしてそれで私に相談を?告白されたのであれば答えはイエスかノーの二択だろうに。そんなに悩むことが?」


「・・・はい・・・その・・・うまく言えないんですけど文のことを好きなのかどうかまだわからなくて。嫌いじゃないのは確定なんですけど」


「ふむ・・・なるほど。お前の持っている好意が恋愛感情としてのものか否か、それを迷っているということだな?」


アリスに諭されたことで、康太は文を自分以外の誰かに渡したくないと思っているのは理解していた。


だがこの感情が果たして恋愛感情なのかどうかわからなかったのだ。


「難しいところだな・・・康太はまだ人を好きになったことがないのか?」


「はい・・・なので本当にこれが恋愛感情として好きなのか・・・それともただ単に仲がいいから好きなのかっていうのがわからなくて・・・」


康太の抱えている悩みはそれだけではないのだが、今康太は過去の死者への配慮を完全に捨てようと努力していた。


まずは自分自身の気持ちがどうなのかを把握してからがスタートであろうと考えたのである。


考えるべきはまず自分の気持ち。他のことはそのあとに悩めばいい。幸いに時間はある。あまり文を待たせすぎるのも問題だとは思うのだが、なるべく早く答えを出すためにも頼れる大人はなるべく頼ろうと考えていた。


「康太は文といると楽しいか?」


「はい、いろいろと面白いし楽しいし何より楽です。気を遣わないからなのかもしれませんけど・・・」


それは康太が文のことを百パーセント信頼しているからなのだろう。文ならば自分を受け止めてくれるという全幅の信頼があってこそなせる感情だ。


それだけの人物に出会えることがどれだけ幸せなことだろうかと奏は少しおかしくて笑ってしまう。


康太は普段運が悪いのにここぞというところでは運がいい。奇妙な奴だと思いながら奏は小さくため息をつく。


「康太、お前はまだ高校生だ。将来のことを本格的に考え始める時期とはいえまだわからないことも多いだろう。何も今結論を出すことはないのではないか?」


「・・・でも文に対してなるべく返事は早く出したいし・・・なぁ文、返事は早めのほうがいいよな?」


「・・・そうね!早めのほうが嬉しいわ!」


「ということなので」


近くで自分のことを相談されているというのは恥ずかしいのか、文は顔を真っ赤にしながら半ば自棄になっているようだった。


恥ずかしさのせいで集中できていないのか、発動中の魔術がだいぶあらぶってしまっているがそれも仕方のない話だろう。


「とはいえなぁ・・・お前たちの世代の付き合うというのはとりあえず楽しいから一緒にいるとかそういうレベルの物だろう?本気で将来を考えるレベルの恋愛はまだ早いのではないか?」


「って言っても・・・俺の場合付き合っても付き合わなくても多分一生文と一緒にいるでしょうから変わらないんでしょうけど」


康太の爆弾発言に文は吹き出し、奏はほほう?と思い切りにやにやしながら文のほうに視線を向ける。


康太は信頼できる人物としてこれからも関係が続いていくという意味で使ったのだが、康太の考えの重さに奏は感心しているようだった。


それだけの関係をこの一年未満で築くことができているのだなと奏は感心しながらも、これはしっかりと相談に乗らなければならないなと少し真剣に康太の話に対して考えを巡らせることにしていた。



「恋愛感情か・・・とはいえこればかりは本人の感覚次第だからな・・・どう自覚しろと言えるものでもないし・・・だが康太がそこまでの未来を見据えて答えを出したいというのであれば・・・うむ・・・」


今のところ康太は文に対して好意を抱いている。それが恋愛感情かどうかを測りたいということだったが、奏の言うようにこればかりは本人の自覚と感覚次第だ。


一緒にいて楽しい、楽だというのは友人に対しても十分あり得る感覚である。異性でも友情は成立する。康太がそういうタイプであった場合本当に判断に困ってしまうのだ。


奏としては康太と文が結ばれるのはとてもうれしい話だ。とはいえいくら身近にいたとしても他人の恋愛話、自分がどこまで干渉していいものかと奏は悩んでしまう。


「一つ確認しておきたいのだが、康太よ、お前は仮に文に対する好きが恋愛感情だった場合、将来的に結婚することも視野に入れているということだな?」


「はい、そのつもりですけど」


まだ好きかどうかも決まっていないのにそこまで視野に入れているあたり、何というか豪胆というか大胆不敵というか、奏はそう考えながら文のほうを見る。


文はもう顔を真っ赤にして蹲ってしまっている。この場に文を連れてきているのは康太なりのアピールなのかと思ってしまうほどである。


一種の公開処刑に近いこの行動に奏はどうしたものかと悩みだす。


康太の身近にいる中でアリスを除き一番の年長者として何かしてやりたいが、おそらく自分が考えるようなことは文やアリスなどが言っていることだろう。


ならば自分にできることは何だろうかと奏は考え始める。


「一番わかりやすいのは感覚の同調か・・・文が今康太と一緒にいる時の感覚や感情などをお前に同調させればそれが恋愛感情だろう。だがそれも個人差があるから何とも言い難い。やはりこういうことは自覚しないといかんな・・・」


「そうですか・・・とはいえどうすれば自覚できるのか」


「・・・よし、ここは少々荒療治と行くか。そこまで将来を考えているというのであれば経験しておいてもいいだろう。ちょうどいい案件もあるしな」


いったい何をさせるのかと康太と文は少々不安に思っていたが、奏は大量にファイルのしまわれてある棚から一つ取り出してそれを持ってくる。


「年末の時の借りを返してもらうとしよう。実はうちの所有している不動産の中で心霊現象が起きるという部屋があってな」


「心霊現象・・・?幽霊ってことですか?魔術師になってから気になってましたけど幽霊って実際にいるんですか?」


「幽霊みたいなやつを引き連れてるあんたが言うの?デビットだって幽霊みたいなもんじゃないの」


依頼の話となってまじめな話だと思ったのか、文は恥ずかしさをどこへかへと投げ捨てて奏と康太のもとへとやってくる。


幽霊の存在について康太はあまり信じていなかった。何せ魔術師としての視覚を有してからそれなりに長く経過したがそういった類をデビット以外見たことがないのだ。


しかもデビットも幽霊とはいいがたい。そのためこの世界には幽霊はいないのだと勝手に思っていたのだ。


「なかなかいい立地の場所にあるのだが、そういう噂が立っているせいもあって買い手がつかなくてな・・・私もその場所に行って調査したいものだが、あいにく手が離せない。そこでお前たちに事実確認をしてきてほしいんだ」


「それはいいんですけど、それが何で荒療治に?」


「あぁ、調査期間はそうだな・・・一カ月ほどを考えている。要するに一カ月間お前たちに共同生活・・・同棲してほしい」


奏の言葉に康太はなるほどとつぶやき文は噴出してしまう。


まさかいきなりそんな話になるとは全く思っていなかったために奏の提案にかなり混乱してしまっていた。


「一緒に暮らすことで見えるものもあるだろう。これを機に康太は文との関係性をよく見つめてみることだ。文も文で康太の良いところ悪いところを再確認できると思う。一緒に暮らしてみてわかることもあるだろうから二人ともよく話し合って生活するように」


「ま、待ってください奏さん!私たちまだ未成年の上に・・・学校どうするんですか!」


「安心しろ、実はこの物件お前たちの学校から割と近い。電車で四十分といったところか。そこまでの交通費は私が持つ。定期券などの買い替えも面倒だろうから私が用意しておこう。生活に必要なものもそろえておく。生活費なども私持ちだ」


「いやあのそういうことじゃなくて・・・ていうかそんなこと私たちに任せなくても!専門家の人とか・・・」


「霊媒師など信用できるか。あぁいうのは詐欺師か適当なことを言うほら吹きと相場が決まっている。それならばもうすでに悪霊もどきを連れている康太たちに頼んだほうがましだろう?」


「悪霊もどきって・・・いやまぁ否定できないんですけど」


「地縛霊などの存在が確認できればそれはそれで面白い。場合によってはアリスなどを招いて調査するのもありだ。だが基本はお前たちで解決してほしい」


「現在進行形でその悪霊もどきに憑りつかれてるっぽい俺にそれを言うんですか・・・いやまぁ否定できませんけども」


奏は幽霊の存在はあまり信じていないらしい。そのため霊媒師や霊能力者もあまり信じていないようだった。


そこで信頼できる人間でなおかつデビットという悪霊もどきを連れている康太に依頼したかったのである。


そして康太の意識改革、ついでに文に今後の康太との付き合い方を見つめなおさせるために一カ月間一緒に生活させるという案を思いついたのだ。


これぞ自分にできる最大の支援だろうと奏は胸を張っていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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