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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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ノーマル?アブノーマル?

「で、でもだからってなめさせるのはちょっと変よ。明らかにやりすぎっていうか方向性が違いすぎ」


「そうか?女の味を知っておくことも必要だと思ったんだがな。かつ丼を食べたことがない人間にどうやってかつ丼を好きになれというのか」


味の意味が違うわよと文は鋭い突っ込みを入れながらも、文はアリスの言おうとしている意味を理解して若干顔を赤くしてしまっていた。


康太に女の味を教えようとする。つまりそれがどういうことなのか、その結果文がどのようなことになるのか。


そんなことを淡々とさせようとしていたアリスに文は若干恐ろしさも感じながら今この段階で止められてよかったと安堵もしていた。


「だいたい、さすがに康太だってあんたに言われてすぐにそんな行動するわけないでしょ。いくら私が告白したからって限度ってものが・・・」


「わからんぞ?現にお前は今日どんな目にあった?もしかしたら折に触れてそれこそ獣のごとく・・・」


「・・・ま、まさかぁ・・・あ、アハハ」


文は笑っているがその笑みは完全にひきつってしまっていた。アリスの言うような状況を想像してしまったのだ。


今日の強引に迫ってくる康太を思い出して、アリスの助言だからと言ってそういう行為に走ろうとする康太のことを想像してしまったのである。


さすがの康太も最後の一線を越えるのはためらうだろうと考えながらも完全に否定しきれないのが怖いところである。


何をするかわからない。それは康太の特性でもあり、師匠である小百合から引き継いだものでもある。

変なところばかり小百合に似てしまうあたり師弟の絆は厄介なものだ。


「結局のところコータになめさせたのか?気持ちよかったか?」


「馬鹿、なめさせるわけないでしょ。白昼堂々学校の中でそんなことできるはずがないでしょうに」


「ほう・・・では康太のことをなめたか?」


「それは・・・うん・・・なめたけど・・・」


なめられるのは嫌なのになめるのはいいというのはなんとも複雑な乙女心だなとアリスはにやにやと笑みを浮かべる。


「どうだった?コータの味は。うまかったか?」


「肌をなめただけだからわからないわよ・・・それに・・・ちょっとしかなめてないし・・・」


「ほうほう!では全身をくまなく嘗め回したいと。さすが汚物まで片づけた女は格が違うな、キスもまだなのに全身を嘗め回したいか」


「そんなこと言ってないでしょ!人を変態みたいに言わないで!」


アリスに言われたからではないが、文だって康太のことをもう少しなめていたかったという欲求がなかったわけではない。


他の場所がどんな味がするのか、どんな触感なのか気になっているのも事実である。


そしてここからは本などの知識でしかないが、そういった行為の中には局部を嘗め回すようなものもあるのだという。


もし自分がそのようなことをしたらと想像して若干興奮してしまったのも事実である。


「人を変態のように・・・というがな・・・私から見ればフミはなかなかの変態だと思うのだが?」


「な、なんてこと真顔で言うのよ失礼ね。私はちゃんとしたノーマルよ!変態なんかじゃないわ!・・・たぶん・・・」


文自身自信が持てないのか、アリスの言葉に若干動揺しながらも視線を右往左往させてしまう。


思い当たるところがいくつかあるせいで完全に自分が変態ではないと否定しきれないのである。


乙女心からすれば自分は変態ではないと断言したいのだが、先ほどの欲求なども含め自分が変態の枠組みに入っているのか正直判断しかねるのである。


「そうは言うがな・・・コータのにおいをかぎながら悦に浸り、コータの肌をなめて興奮し、その裸を覗き見るなどとしている時点でなかなかこじらせていると思うぞ?」


「ちょっと待ちなさい、私康太の裸を覗いたことなんてないわよ?不可抗力で見ちゃったことはあるけど」


「何を言う、お前のことだ、風呂に入っているときに索敵などで調べたのだろう?何となく想像がつくぞ」


アリスの言葉になぜわかったのかと文は渋い顔をする。


確かに一度ホテルに泊まった時に入浴中の康太の裸を索敵したことがある。何とくだらない魔術の使い方だろうかと思われるかもしれないが、文にとっては重要なことだったのである。


「ほれ見ろ、しかも付き合う前からこの始末だ。お前たちが付き合うことになったら一体どのようなことになるのか想像もできん」


「ふ、普通の男女としての健全なお付き合いをするわよ。そんなアブノーマルなことはしないわ」


「ないな。コータはあれで好奇心の塊だ。実際にやってみて体験してみたいと思うタイプの人間だぞ?もしお前がそのような興味を少しでも見せれば『よし、じゃあやってみるか』と言ってくるに決まっている」


そうやってズルズルと・・・いつの間にか・・・とアリスがまるで怪談話でもするかのようにゆっくりと、沈んだ声で告げたその言葉の先にどのような未来が待ち受けているのか文も想像してしまった。


あり得る、十分にあり得てしまう。否定しきれない重度の変態へと続く未来が文には確約されているかのような錯覚を生み出してしまっていた。


「まぁそう脅しはしたが、学生時代に子供さえ作らなければよいのではないか?しっかりと大人になったらいくらでも励むがよい。お前たちの子供は素直に見てみたい」


「・・・なんかもう付き合うをすっ飛ばして子供を作るところまで話が進んでるんだけど・・・まだわからないわよ?康太がどんな答えを出すのか・・・」


「いや、もう決まっているようなものだろう。あとはお前がどれほどコータの愛に応えてやれるか、どれだけコータがお前を愛せるかという話だ」


アリスからすればすでにこの状況は詰んでいるらしい。もはや他に選択肢がないと思えるほどに。


だが当事者の文としてはいまだ確定していないだけに不安は少なくない。そのアリスの言う未来がどの程度確定的なのかはさておいて早い段階で答えが欲しいところでもあった。


「アリス的にはそんなに確定的なわけ?私はすっごく不安なんだけど」


「うむ・・・では理論的に説明しよう。まずコータはなかなかの優良物件ではあるが、とにもかくにも対抗馬がいない。これはフミにとって大きなアドバンテージだ」


「・・・対抗馬だったら真理さんとかがいるじゃないの。あの人も結構歳近いし、何よりきれいだし・・・」


自分が不利になるような条件を提示するようなことはしたくなかったが、客観的に見ても文と同じかそれ以上に近い場所にいるのが康太の兄弟子である真理だ。


大学生ということもあって自分たちよりも大人に見えてしまう。やさしさに加え気配りも欠かさない、所謂できる女という印象の強い女性である。


彼女は立派な対抗馬たり得るのではないかと文としては考えていた。


「あれはダメだ。マリが悪いとかそういうことではなくコータ自身がマリを女として見れていない。良くも悪くも優秀すぎるせいで尊敬の念が強すぎる。あとは呼び方も問題だの。あれでは恋も生まれまいて」


「呼び方って・・・いつも康太は姉さんって呼んでるわよね」


「うむ、同じ師匠を持つ兄弟弟子という関係上仕方がないかもしれんが、コータはあれを『姉』として見てしまっている。一種の家族に近い。あれでは尊敬はできてもその好意は家族間でのものになる。恋にはなり得んな」


アリスの言葉を受けて一番の対抗馬だと考えていた真理がそもそも対抗馬にすらなっていないという事実に文は少しだけ安堵してしまっていた。


こんなことを考えては真理に失礼かもしれないが、真理が康太のことを好きではなくてよかったと思えてしまう。もちろん異性としての意味で。


真理は康太のことをかわいがっている節はあるが、好いている節はない。そのあたりは女心の難しいところなのだろう。


「他の対抗馬、特に同じような魔術師で同年代というとお前たちの周りにはフミしかおらんだろう?協会の中に行けばもう少しまともに探せるかもしれんが、康太は頻繁に協会に入り浸るようなタイプの魔術師ではないからな」


「確かにそうだけど・・・だからって確定ってわけじゃないでしょ?対抗馬がいないってだけなんだから」


対抗馬がいないから確定的に勝てるというのとはまた話が違う。そこでアリスは一つ指を立てて見せた。


「先ほど話しただろう?康太はお前を独占したがっている。今それはまだ恋などには変化していないのかもしれないが、いずれその独占欲は恋や愛に変化する」


「・・・なんでそんなことが言えるのよ」


「それが男というものだからだ。良いものを欲しがる、自分のものにしたくなる。それが物品などであれば収集などの形で現れるが、人の場合、特に異性の場合はそういった形に変化しやすい」


良くも悪くもコータは模範的な一般人に近い感性を持っているしのとアリスはあっけらかんと笑って見せる。


そのあたりは長年人を見てきたからこそ言えるのだろう。言葉の節々に重みを感じることができる。


アリスにこういってもらえると少しだけ気が楽になるが、それでも不安はぬぐえない。あとは康太の気持ち次第だとわかっていながら、文は何もできない自分がもどかしかった。


「まぁ果報は寝て待てという言葉もあるくらいだ。寝ろとは言わんが別のことをして時間を潰すといい。そのうちコータも答えを出すだろう」


「・・・大丈夫かしらね?あいついろいろ抱え込んでるし」


「確かに抱え込んでいるな。抱えられないようなものを抱え込んで馬鹿らしいというばかりだが・・・だがそれはそれだ。自分のことを好いてくれている女をないがしろにするようなやつではないのは間違いない」


「・・・もしないがしろにするようなやつだったら?」


「ない。それはお前もよく知っているだろう?コータは良くも悪くも人を見捨てることができん・・・敵になれば容赦はしないというのに一度味方に引き入れるとどうしてあぁなってしまうのか不思議なくらいだ」


康太は自分自身ではあまり気づいていないが、実際かなりお人よしなのだ。


関わらなくてもいい案件にかかわったり、本来ならば無視してしかるべきなすでに亡くなった人たちに気を配ったりと普通の魔術師ならば考えにくいような行動や思考回路をしている。


文やアリスからはそれが欠点に見える時もあり、また利点に見える時もあるのだ。


そしてそれこそが康太のことを信頼するに足る理由になる。


「まぁそうね・・・寝るのはもったいないから修業することにするわ。アリスも手伝ってくれる?」


「ふむ、まぁいいだろう。恋する乙女に付き合ってやるとするか」


見た目は少女でも中身は数百年生きた魔女。そんなアリスに苦笑しながらも文は自分の掌に魔術を発動する。


淡い光を放つそれが徐々に形を変えていく中、文の心は少し穏やかになっていった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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