ガールズトーク
「ふむふむ・・・その様子を見る限り、なかなかうまくいったようだのお二人さん」
康太と文が学校を終えていつも通り小百合の店にやってくると、そこには面白いものを見るような目でにやにやと笑うアリスがいた。
康太はいつも通りそんなアリスに接しているが文は違う。早歩きでアリスとの距離を詰めるとその胸ぐらをつかんで思い切り顔を近づけた。
「アーリースー・・・!あんたってやつはぁぁぁ!」
「役得だったであろう?勇気を出したフミへの私なりのご褒美という奴だ。コータはわかりやすいから誘導自体は簡単だったしの。おかげでいろいろといい思いができたのではないか?」
「そっ・・・!そんなことはどうでもいいのよ!あんた康太の相談にも乗ったわけ?」
自分の言葉を否定しない文にアリスはにやにやしながら文のほうを見る。ここでそんなことないといえないのが文の良いところでもあり悪いところでもある。
良くも悪くも正直なのは康太だけではないのだ。
「もちろん相談されれば私とて同盟相手のことなのだ、無碍にはできまい?誠心誠意相談に乗ってやったぞ?もっとも私の言葉は後付けのようなものでお前の説得の続きに近いがな。私が言うべきことはすべてお前が言っているのだ、自信を持つがいい」
うれしいはずなのにアリスに言われると全くうれしくないのはなぜだろうかと文は歯噛みしてしまう。
ここまでアリスの掌の上でいいように転がされているのを実感すると複雑でしょうがない。もう少しアリスを見返せればいいのだろうが、アリスが驚いたところを見たのは康太だけである。
アリスも実際のところかなり驚いていたのだ。バレンタインを切っ掛けに康太と進展すると息巻いていたのはまだいいが、まさかこのタイミングで告白まで済ませてくるとは思わなかったのである。
アリスはまだ詳細を知らないために判断できないようだったが、告白までした文の勇気を素直にたたえるつもりだった。
「おいアリス、姉さんや神加は?あとついでに師匠」
「三人なら下に行っているぞ。私はここで留守番だ。あとフミと話があるからお前は下に行っているといい」
「なんだよ、仲間外れか?なんか寂しいぞ」
「ふむ。女同士のガールズトークという奴だ。すまんが男の子は参加不可なのでそこのところあしからず」
アリスはそういって康太の体を念動力で強制的に地下へと運んでしまう。康太は運ばれながらもブーイングしていたが逆らうつもりはないようでそのまま地下へと向かっていってしまった。
「さて、話を聞きたかったのだ。まさかお前が告白までするとは思っていなかったぞ?てっきり似たようなことはするかと思っていたが」
「なんか話を強引に変えられた気がするんだけど・・・」
「気にするな。だがなぜ告白する気になったのだ?いやまぁフミからすればそのほうがいいのは理解しているがどうにも信じられなくてな」
アリスが信じられないといったのも理解できる。文だってあの勢いがなければきっと告白なんてできなかっただろう。
あの時の妙なテンションのおかげもあって告白できたが、あんな告白で本当によかったのだろうかと時折後悔してしまうのもまた事実である。
「いやなんか・・・こう・・・その場の勢いって感じで・・・その・・・ガーっ!と言っちゃって」
「ふむ・・・感情のままに言いたいことを言ったということか・・・いやそれにしても見事よ。文の勇気は称えられるだけのものだ。胸を張るとよいぞ。これで話は大きく先に進んだというわけだ」
「・・・それであんたのあの後押しなわけ?」
文の責めるような目にアリスは堂々と胸を張ってふっふっふと楽しそうに笑っている。
そもそも反省という考えそのものがないのだ、良かれと思ってやったことであって反省する理由が見当たらないといった様子である。
ここまで堂々としていると文としても怒る気すら失せる。もとよりアリスの行動に対してどうこういえるだけの立場ではないのは文も理解しているのだ。
「匂いはまだいいとして、なめさせようとするってどういうことよ・・・味覚で人の感性が変わるとでも?」
「あぁ、そのあたりはたきつけた。お前の味を知っておけばきっとコータもお前を独占したいと思うだろうと思ってな・・・」
「独占って・・・なんか変な話になってない?」
「そうでもないぞ?コータはお前を自分のものにしたいと思っておる。少し話した感じだがお前がほかの男と仲良くしているところを想像させたら何やら嫉妬したようだ」
「・・・へぇ・・・」
文は何でもないように努めようとしていたが、アリスの言葉を聞いて自然に頬が緩んでしまっていた。
顔が赤くなり、自然と表情は笑みを作ってしまう。
康太が嫉妬した。自分を取られたくなくて嫉妬した。文を自分だけのものにしたいと思っている。
アリスの妄言かもしれないが、アリスがこのような嘘をつくとも考えにくく、文は自分の表情をコントロールできなくなってしまっていた。
それほど康太のその反応はうれしかったのである。