アリスの悪魔の提案
「はいどうぞ。言っとくけど深呼吸しないでよ?」
「大丈夫大丈夫、そんなに深く吸わないから」
そういって康太は文の制服を掴んで思い切り引っ張り上げる。
瞬間文の腹が周囲の空気にさらされ、ほんのわずかではあるが文が身に着けているブラジャーが露出してしまう。
一瞬何をされたのかわからなかった文だが、康太に服を捲し上げられたという事実を認識すると同時に近づいてきた康太の頭を思いきり殴る。
康太もいきなりの殴打には反応できなかったのか、文の足に頭を乗せる形で痛みに悶絶していた。
「いってー・・・!何するんだよ!」
「こっちのセリフよ!何いきなり服脱がそうとしてるのよ!恥ずかしくて死ぬかとおもったわよ!」
「腹のにおい嗅ぐっていっただろ?服上げないと腹見えないじゃんか」
「服の上から嗅ぐという選択肢はないの!?ていうか今本気でびっくりしたわよ!」
服の上から腹のにおいをかぐというのもどうかと思うが、まさか素肌の状態でにおいをかがれるとは文も思ってもみなかった。
康太の行動は心臓に悪い、そう思いながら服をしまおうとするがそれを康太が止めた。
「ダメだ、ちゃんと肌で嗅ぐぞ」
「ちょっと待って・・・本気?本気なの?なんで肌にこだわるのよ」
「服とかだと洗剤とかのにおいが染みついたりしてるだろ?肌から直に嗅いだほうがいろいろわかる」
「わからんでよろしい・・・っていうかちょっと待って・・・もしかしてあんた嗅覚強化使ってる?」
まさか自分のにおいをかぐのに嗅覚強化を使うとは思っていない文が一応確認のために聞くと康太はきょとんとしていた。
その反応に使っていないのならそれでいいと文は少し安心したような表情をするが、康太は何言ってるんだとつぶやきながらあきれてしまう。
「そんなの使ってるに決まってるだろ。ちゃんと匂い嗅がないといけないんだから、使うに決まってる」
「・・・あんたってやつは・・・あんたってやつは・・・!」
まさかこんなくだらないことで嗅覚強化を発動しているとは思わなかっただけに文は顔に手を当てて悶絶してしまっていた。
だが思い返せば文も最初、アリスに康太のにおいをかがされたときは嗅覚強化を強制的に発動させられていた。
状況的には同じと言えなくもないだけにそれ以上強く言うことはできなかった。
「わかったか?んじゃ改めて」
「ちょっ!お願いだから待って!心の準備させて!」
「昼休み終わっちゃうからさっさと済ませるぞ。それとも部活の休憩時間の時のほうがいいか?」
「それはもっとダメ!」
ただでさえ汗をかく部活だ。その休憩時間に康太ににおいをかがせるなどもってのほかである。
それなら今のうちに嗅がせたほうがはダメージが少なくて済むのかもしれないと葛藤しながら文は大きくため息をつく。
「わかったわよ・・・早めに済ませてよ・・・?」
文は観念したのか、自分から服をたくし上げて康太に自分の腹をさらす。
二月の冷えた空気が文の腹を冷やす中、康太はその腹に自分の顔を近づけてその匂いを嗅いでいた。
いったいなぜアリスは腹など嗅がせようとしたのか本気で意味が分からない。そして文は自分の腹のにおいをかがせているこの状況に強い疑問しか感じることができなかった。
いったいなぜこうなった。本気でそう思えるこの状況に、文は困惑しながらも康太の吐息が腹にかかるのを我慢するしかなかった。
へその上、へそ、下腹部など康太は順々ににおいをかいでいく。
体がどんど熱くなっていくのを文は感じていた。特に下腹部が強い熱を持っているのがわかる。
康太が近くにいて、康太にまるで襲われているような感覚に耐えられなくなっていたころ、康太が不意に唸り始める。
「何よ・・・臭いとか言ったら承知しないわよ?」
「いや、臭くはないんだけどさ・・・文、なめてみていいか?」
「・・・殴られたいの?それとも殺されたいの?」
「いや真剣な話でさ、においと一緒に味も確かめて来いって言われたんだよ。ついでだからなめようかと・・・首よりはいいだろ?」
匂いと一緒に味も確かめるとはいったいどういうつもりなのかと文は考えた結果、これはアリスが遊んでいるのだということに気付く。
きっと文がここまで進展して戻ってくるとは思わず、テンションが上がって康太をたきつけてしまったのだろう。
ここまで進むとさすがに文としては容認しかねる。ほぼ裸を見せ合った仲だというのにいったい何を恥じらうのかと言われかねないが、それとこれとは全く別問題である。
傍から見ればこの状況は立派な不純異性交遊の現場だ。こんなところを第三者に見られたら文は恥ずかしさで死ねる自信がある。