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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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思惑と牽制

円軌道で徹底して動き続けていたとはいえ相手の魔術師も康太の動きをほぼ正確にとらえていた。


近づいてこないならそれもよかったが、康太はタイミングを見計らって木々から身を乗り出して陣の中心にいる魔術師めがけて接近を試みる。


その度に魔術師は先程も放った氷の礫を康太めがけて放ってきた。


速度は大体時速に直して八十キロくらいだろうか。野球選手の投球速度には程遠いがそれでもこの距離で放たれるとそれなり以上の脅威だ。


幸いなのは康太がそのくらいの速度であれば対応できるだけの動体視力を有していた点だろうか。


康太は大雑把ながらも槍を用いて飛んでくる氷の礫を次々弾いていく。だが相手の攻撃は一向にやむ気配がない。ほぼ延々と打ち続けているのではないかと思えるほどに氷の礫は止むことなく康太めがけて放たれていた。


魔術にはいくつか法則がある。それは必ずと言っていいほどに。


それは威力と消費魔力、そして発動時間の関係性である。


当然ではあるが威力の高い魔術ならその分多くの魔力を必要とするし、発動までにかかる時間も比較的長くなる。


逆に威力が低い魔術なら魔力消費は少なく済むし発動までにかかる時間も短くて済む。


現在康太に向けて放たれているこの魔術は後者だ。威力が低く、別に魔術でなくとも対処可能だがその分消費が少なく延々と使うことができる。


どういう理屈かはわからないが、この足元にある方陣術は周囲のマナを集めているのだという。その魔力消費がどれくらいなのかはわからないが真っ当な魔術師なら今使っている氷の礫の魔術の消費程度なら問題にならないだろう。


氷の礫を槍で弾きながら康太は円の軌道を描きながら何とか的を絞らせないようにするが、人間の速度で移動し続けたところで問題なく狙い続けることができるようだった。


さすがにこのままでは一方的に攻撃されるだけだなと思い、康太は礫を槍で弾きながら、外套を盾代わりにしながらも強引に魔術師との距離をつめようとする。


礫が外套に当たる度に康太に鈍い痛みが走るが、そんな悠長なことは言っていられない。これが打撃だっただけありがたいと思うべきだ。


康太と魔術師の距離が限りなくゼロに近づこうとした瞬間、康太はその足元にわずかにつららのようなものができていることに気付く。通常のつららとは違い、上めがけて鋭い先端部を向けているそれを見た瞬間、康太は魔術を発動した。


発動した魔術は再現、以前文との戦闘でも使った空中に疑似的な足場を作る形で発動した魔術によって康太は後方へと大きく跳躍して見せた。


康太がわずかに距離をとったとたん、先程まで小さな氷塊だったつららが巨大になり、まるで壁のように康太と魔術師の間を遮った。


もしあのまま康太が突っ込んでいれば恐らくあの氷の刃に貫かれていたことだろう。難なく着地した後康太は再び円軌道で動きながら相手の反応を窺っていた。


再び礫の攻撃が始まると、魔術師の近くにあったつららの刃は徐々にその姿を消していっていた。どうやらあの魔術は瞬間的にしか発動できないようだった。


先程のように被弾を恐れずに突っ込めばもちろん問題なく接近はできるかもしれない。だが今の反応を見る限り相手にはまだまだ余裕がある。弱い魔術で牽制しつつ接近して来たら威力の高い魔術で迎撃。相手は最初から籠城に近い形を取ろうとしているのだ。接近することで最高のパフォーマンスを発揮する康太とは相性が悪い。


遠距離からの攻撃がないわけではないが、今は完成度が低すぎる。何より数に限りがある中あまり乱打は避けたい。可能ならば温存した状態でいる事が最高だ。もちろんそれが難しいという事は康太も十分に理解している。


康太の魔力はまだ満タンに近い。マナが少ないと言えどもとより康太の供給口は脆弱なものだ、消費に対して供給が追い付かなければ当然徐々に魔力総量は減っていく。


それなら最初から短期決戦で挑んだ方がいい。相手が見せた魔術はまだ二つ程度。これ以上相手が魔術を使う前に事を終わらせるべきだ。


そう考えながら康太は自分の懐から二つの道具を取り出した。


一つは数珠、もう一つはお手玉のような物体だ。


出発前に準備しておいた新装備だ。数に限りがあるためにそうそう乱発することはできない。ここぞという時に使わなければ康太が自滅することになってしまうだろう。


まず康太が行うべきは相手の攪乱。自分一人しかいない上に暗闇で視界も悪い。足元に光を放っている方陣術があるからこそその姿を確認されているのだ。同時に康太からも相手を確認できている。


光源は唯一方陣術の光のみ、それなら康太にも考えがある。


康太は氷の礫を弾きながら距離を置いて再び木々の陰に隠れ少しずつ方陣術から離れていく。


暗闇を利用して相手からではこちらを認識できないほどの距離へと離れると康太は小さく息を吐く。


自分にできることを思い出しながらこの状況で最も的確な攻撃を思い浮かべる。それができるかどうかは自分にかかっている。問題は礫よりもあの巨大なつららの攻撃だ。あれが直撃したら間違いなく致命傷になるだろう。


タイミングが重要な中で康太は槍を軽く振り回しながらタイミングを計っていた。


今この場でこうしている時間は相手にとっても猶予を与えてしまうだろう。使える魔術の全てを最大限活かさなければならない。


まずは相手の魔術を正確に把握することだ。先程から乱発している礫に加えてつららの刃、まだ見ている魔術はそれだけだ。


対して康太が使える魔術はまだ三つ。相手がどれほどの魔術を有しているかは知らないが方陣術を発動しながらなら五分の条件に持っていけると考えていた。


これだけのハンデがあってようやく五分かと康太は自嘲気味に笑う。それだけの戦力差が自分と相手の間にはあるのだ。


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