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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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師匠と弟子

徐々に生徒がやってきて授業が始まる中、康太はノートを眺めながら放心していた。


なにせ今行われている授業はほとんど自習形式なのだ。受験を控えている生徒がほとんどであるために、自らの苦手な分野を学べるようにという配慮である。だがこの自習形式は康太にとってありがたいものだった。


康太は現状の確認を含めて魔術と魔術師という存在について考え始めていた。

あの時女性が言っていた言葉をまとめて、さらにはそれを考察するために記憶を探りながら思考を重ねていた。


状況把握もそうだが、康太はこういった可能性を考えることは比較的好きだった。それで事態が好転するかどうかはさておき、現状を確認しておくことは重要だと感じていた。


そして昨日の会話、というか一方的に相手が話していた言葉の中に幾つか気になる言葉が存在する。


特に印象的だったのはこの言葉だった。


『本来魔術は隠匿されなければならない。その魔術師の戦いをお前は見た。故にお前の記憶を抹消しておかなければならないんだが・・・私はそう言うのは不得手でな。お前には死んでもらうことにしたんだ』


魔術は隠匿されなければならない。恐らくは魔術というものを管理するような団体、あるいは組織があると考えるのが自然だ。


魔術師の戦いというものがある以上魔術師は複数存在していると考えていいだろう。組織間での争いなのかそれ以外なのかは知らないが。


そして魔術を隠匿するために記憶に関する魔術を使うという事だが、これに関してわかることがある。魔術師が魔術を隠匿する方法として目撃者を殺すかあるいは記憶を消すあるいは操作するという方法を用いているという事だ。


人を殺すか記憶を操作するか。どちらかを選ぶのであればもちろん後者の方が社会との摩擦は少ない。魔術師たちがどのレベルまで大きな組織を持っているかはわからないが、警察などとは関係がないと思いたい。


人が死ぬなどという状況を考えると多くのものが関わってくる。警察や医療機関などもそれに含まれる。それらの数多くの機関を相手取るくらいなら記憶を操作して忘れさせた方がいい。


となれば魔術師は記憶操作の魔術を取得するのが基本という事だ。あの魔術師はそう言うものが不得手だと言っていた。学ぼうとした、それを修得しようとしたという事なのだ。


この事から人によって会得できる魔術というのは変わってくるということになる。


そしてあの時女性が言った言葉の中にもう一つ気になることがあった

『記憶消去や操作の魔術は非常にデリケートだ。一定時間以内に見た光景や記憶したものでなければ操作や消去はできん。』


この言葉からつまり魔術の中にある記憶操作、及び記憶操作の魔術には限定された条件があるという事だ。


恐らく記憶操作だけではない、他の魔術などにもある程度の限定された条件やできることとできないことというものが存在していると考えていいだろう。


この事から、魔術とは康太が考えているような『どんなことでもできる不思議な力』ではなく『科学的に証明できない、あるいはまだ証明されていない一種の技術』であるということがわかる。


なんだか思っていたよりも万能ではないのだなとがっかりはしたものの、それでも超常の力であることには変わりはない。


できることとできないことが存在し、人によって習得できるものとできないものがある。


可能不可能に関しては魔術によって異なるかもしれないが、魔術の会得云々は個人の才能に左右される可能性が高い。


あの女性が記憶操作が不得手だと言っていたことからも明らかだ。


そしてこれは憶測だが、魔術師になれるかどうかも素質が関係してきているのではないかと思えるのだ。


だからこそあの時女性はお前の運がどこまで持つかと言っていたのだ。


恐らくは魔術師になれるか否か、さらに言えば魔術を覚えることができるかどうかという意味で言ったのではないかと思える。もしかしたら魔術を行使するにあたって、あるいは覚えるにあたって何かしらのリスクを背負うのかもしれない。


正直なところ、自分の命がかかっていることを差し引いても康太は少しだけ魔術というものに興味があった。


健全な男の子であるなら魔法やらにあこがれるのは至極自然だろう。そして何の因果か魔術師が自分を弟子にしてくれるというのだ。


無論手放しに魔術という存在を信じる程康太はバカではない。


件の住所に向かい、実際に魔術を見せてもらうのが一番手っ取り早いだろう。


今自分の舌に刻まれている紋様も魔術の一種なのだろうが、これはこれで不気味だ。だが物理的に記されているものなら魔術がなくても問題はない。


たかが一介の中学生に確かな魔術の証明などできるとは思えない。だが目で判断してそれが魔術であるかどうかくらいは自分で決められる。


だがもし本当に魔術があったとして、自分が本当に魔術師になれたら。


そう考えると今この状況も悪くないように思えてしまう。


魔術というものがどのようなものかは未だ不明な点が多い。だからこそ気になる。


昨夜に起こった死ぬのではないかと思える事件の記憶は未だ脳裏にこびりついているが、それ以上にこれからどのようなことが起きるのだろうかという事で康太は頭がいっぱいだった。


特に魔術の事柄に対しては興味が尽きない。


もしかしたら空も飛べるようになるかもしれないなと、そんなことを考えながら康太は思考を続けていた。


結局自習の間、ずっと魔術と魔術師のことに関して考えを続けていた康太、本当に受験が終わっていたのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。






学校が終わった後、康太は紙に書かれていた住所の近くへとやってきていた。


場所は駅前から少し入り組んだ道を通った先にある場所だった。


行ったことのない場所のために少々たどり着くまで時間がかかったが康太は何とかたどり着くことができた。次はもう少し早く来たいものだと思いながら康太はその建物に目を向ける。


そしてその建物の第一印象は『怪しい』だった。


恐らくはアンティークショップか何かなのだろうが、その外見からは胡散臭さと怪しさが満ち溢れていた。


ここまで人間の不信感と警戒心を呼び起こす建物も珍しい。というか康太は初めて目にする。


一見するとただの建物の様にも見える。だがその看板は誰が書いたのかもわからないような雑なものだ。達筆すぎるのかそれともただ単に字が汚すぎるのか、なんと書いてあるのか康太には読めない。


もしかしたら康太の知らない言語だろうかと思えるほどだ。


そして店の入り口の近くにはどこから拾ってきたのか、それともどこかで入手したのかマネキンが置いてある。黒い髪を生やし『まさる』と書かれたTシャツと短パンを着ているのが印象的なマネキンだ。


一体このマネキンは何の意味があるのだろうかと康太は不審なものを見る目でそのマネキンを眺めていた。


実際に何かしらの意味があるのかもしれない。もしかしたら何らかの魔術的な要素を含んだマネキンなのかもしれないが、なぜ『まさる』なのか。


考えていても仕方がないなと、康太はとりあえずその店の中にはいる事にした。

扉を開けて中に入るとその中はさらに異様な光景が広がっていた。


なんというか、胡散臭さのオンパレードと言えば少しは伝わるだろうか。所謂魔術っぽい道具が大量におかれているのである。


明らかに適当に作られたっぽい髑髏に指揮棒のような棒切れ。魔法陣のような幾何学的な紋様の描かれた布に出版会社などが作ったものとは明らかに違う革ごしらえのハードカバーの本。さらには趣味の悪そうな石像まで置いてある始末だ。


先程の『まさる』もかなり印象的だったが、この内部においてある商品らしき物品の数々もかなり印象的である。写真に収めておきたいくらいだ。


とりあえず住所は間違っていないだろうかと携帯で確認するが、現在位置で間違いない。この建物、そしてこの店であっているのだ。


こんな胡散臭い場所が集合場所というのは何とも『らしい』というべきなのだろうか。


康太はとりあえず店の中を物色しながらあの魔術師の女性が現れるのを待つことにした。


この辺りにおいてあるものは確かに怪しい。だがこれが魔術に関わるものだとするなら自分もこれから関わることになるかもしれないのだ。


もしかしたら髑髏を持った状態で魔術を使うようなこともあるかもしれない。

想像するだけで嫌気がさすが、康太の中での魔術のイメージは胡散臭いのと同時に超常的なものでもあるのだ。


こうしてこの場においてあるものが何の関係もないとは思えなかった。


胡散臭すぎる店の中をいろいろと見ていると、店の奥から何やら足音が聞こえてくる。店員でもいるのだろうか。


一応店であるのだからいて当然かもしれない。


店員も誰もいないことからもしかしたらここは店でも何でもなくただの民家なのではないかと疑い始めていたところだ。


「・・・ん・・・?客か?」


店の奥から声がした。そしてその声を康太は聞いたことがあった。

奥からエプロンをつけてやってきたのは一人の女性だった。康太の方を見ると一瞬目を見開いて薄く笑う。


見た目は二十代半ばくらいだろうか、黒い髪をひとくくりにし、セーターにジーンズを履きエプロンをつけるといういかにも普通な格好をしている。だがその表情はほんのわずかに狂気に浸っているものであると康太は理解できた。


「随分と早くやってきたものだ・・・中三なら学校くらいあっただろう?早退でもしたか?それともサボったか?」


「今は受験シーズンなんで、学校も早めに終わるんですよ」


あぁそう言うことかと女性は笑っている。


間違いない、この女性が昨夜康太の部屋に押し入った魔術師だ。その声を康太はしっかりと覚えている。何より初対面のはずの康太のことを知っているような口ぶりだった。


自分の師匠になる人物。そして自分の命を狙った魔術師。いや正確には口封じのために殺そうとした魔術師といったほうがいいだろう。


「一応名前を聞いておこうか?これから長い付き合いになるかもしれん」


長い付き合い。康太が魔術を修得できるまでの間になるかもしれないし、もしかしたらそれよりももっと長く関係は続くかもしれない。


思えばこの人の名前も知らないし自分の名前も伝えていなかったなと康太は女性の近くに歩み寄る。


「初めまして、八篠康太です・・・。」


「初めまして・・・藤堂小百合(とうどうさゆり)だ・・・よろしく頼むぞ弟子」


藤堂小百合と名乗った女性は右手を差し出してくる。握手のつもりなのだろうか、差し出した手はそのまま康太に向けられている。


「・・・よろしくお願いします・・・師匠」


「・・・んん・・・そう呼ばれるとは思っていなかったな・・・まぁいいか・・・ついて来い」


これから魔術師になるための修業が始まるのか。そう思いながら康太は僅かに緊張していた。


自分が今まで関わってこなかった、関わることすらできなかった世界に自分から足を踏み入れようとしているのだ。


小百合の後に続き康太は店の奥へと入っていく。その先になにがあるのか、康太はまだ知らずにいた。


評価者人数五人増えたので二回分投稿


新ルールに関しては活動報告をご覧ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
レビューの高評価を見て読み始めて、レビューの高評価と総合ポイントの低さのズレを理解した。おそらく(読者から見た)どうでもいい小さなことに対する考察が多いのだと思う。 細やかな描写はとても評価できるが…
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