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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」

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人生の先輩

二人は旅館をチェックアウトしてから午前中最後に一滑りしてから帰路についていた。


帰りにお土産としていろいろと購入し、家路につくのだが、康太は家に直接帰らずに小百合の店にやってきていた。


目的は土産を渡すだけではない。頼りになる人生の先輩に相談を持ち掛けようと思ったのである。


「ただいま戻りました!アリス!アリスはいずこや!?」


「かえっていきなりそれか・・・あいつなら下にいるぞ」


店にいたのは当然というべきかこの店の店主であり康太の師匠である小百合だった。


いつも通りちゃぶ台とパソコンと煎餅をお供にだらだらしている。


そんな小百合に康太はとりあえず買ってきた土産の漬物を渡しながら下のほうに意識を向け索敵を発動する。


下には真理と神加、そしてアリスがいるようだった。


「今日は神加の修業はつけてないんですね」


「近接戦の訓練はしばらく真理に一任することにした。私がやろうとしたら真理には止められるわウィルには羽交い絞めにされるわさんざんだ」


どうやら真理とウィルはしっかりと神加を守ることに全力をつくしてくれているようだった。


神加を守ってくれているというのは本当にうれしい限りだ。少なくともきちんと防御などの基礎技術が確立するまで、そして彼女の体がしっかりと成長するまではまともな近接戦の訓練はできない。


そうなると小百合ができるのはとことん魔術を教えることだけだ。弟子の修業を弟子に取られるというのはなんとも複雑な気分であるらしく、パソコンに向かっている小百合は妙な表情をしていた。


「神加に関しては仕方がないですよ・・・師匠ももうちょっと加減を覚えてください。その代わりに俺と姉さんにはしっかりと指導お願いしますよ?師匠の訓練はためになるんですから」


「心にもないことを・・・だが言われるまでもない・・・アリスに用があるんだろう?さっさと行ってこい」


「了解です。それじゃ失礼します」


康太の世辞を軽く流しながら小百合はあっち行けと手でジェスチャーをして見せる。康太はとりあえず早くアリスと会うべく地下へと降りて行った。


真理と神加は近接戦の訓練と称して以前やっていたシールはがしの遊びをやっていた。


真理がとにかく機敏に動き回り、神加は徐々にではあるが子供らしい仕草ながら防御と攻撃をしっかりできるようになってきている。


ただ止めるだけではなく、腕を受け流そうとしたり叩き落とそうとしたりとなかなか防御方法にも幅が出てきたように思える。


無論彼女の技量や身体能力ではそれらがうまくいくことも少ない。そんな様子をほほえましく見守ってから康太は先ほど反応にあったアリスのところに駆け寄る。


そして駆け寄ると同時に勢いよく前転し、しっかりと姿勢を正して額を地面につけながらアリスの前に滑り込む。所謂スライディング土下座である。


「アリスさん!少々私の人生相談に乗ってはいただけないでしょうか!?」


「・・・ただいまも言わずにいきなり土下座とは・・・いったい何があったのだ?コータらしくもない」


康太がここまで切迫しているのは珍しかったのか、アリスは若干目を丸くしながらも読んでいた漫画をいったんおいて康太のほうに向きなおった。


これはただ事ではないと思う反面、アリスには康太が悩むことに一つ、というかそれ以外に心当たりはなかった。


きっと文が何かしたのだろうと。


「実はさ・・・言っていいのかわからないけど・・・その・・・文から好きだと告白されまして・・・」


「・・・ほう!ほうほうほう!それで!?」


ついにやったか!とアリスは内心でガッツポーズをしてしまっていた。今まで文の相談に乗ってきたアリスだったが、あの文がようやく康太に告白したのだなと感慨深くなりながらも話を先に進めようとしていた。


「いや・・・告白されたのはいいんだけどさ・・・その・・・どう答えを出すべきか迷っていまして」


「ん?別にそんなものオーケーかノーの二択でいいのではないか?フミならば別にロマンチックな返答でなくともよいと思うがの・・・」


「いやそういうことじゃなくてさ・・・えっと・・・俺が文の告白を受けていいものかどうか・・・そこを迷ってるんだよ・・・」


「・・・ん?なんだ?お前たちは別に身分違いの恋をしているというわけでもないだろうに。何を迷うことがある?」


文ほどに康太の状況を理解していないアリスは康太が抱えている葛藤がどのような意味を持つのかを理解できていなかった。


康太が何に迷い、何に悩んでいるのかをアリスは理解できないのである。


文ほど長く一緒にいた人物ならばそれを理解できるが、アリスは康太と一緒にいる時間は割と少ない。


それに康太が悩んでいるそぶりをアリスに見せなかったというのもある。


とりあえず相談するには自分の状況を正確に伝えなければいけないだろうなと康太は何に悩んでいるか、なぜ悩んでいるか、そして自分とデビット、そしてそれにかかわってしまった人々の死に関係することを話し始めた。


「・・・なるほどの・・・一言で言えばコータはバカだの」


康太の説明を聞いてアリスは率直な意見を述べていた。一言で言った時の言葉が単調すぎるようにも思えたが実際康太も少し自覚しているだけに反論できなかった。


「文にも何度か言われたけど・・・やっぱそう思うか?」


「思う。コータが神や仏ならばそのような考えを持つのもまぁ納得できようものだが、コータはただの人間だ。しかも特別な力を持っているわけでも、すべてを救えるだけの能力を持っているわけでもない」


「・・・うん・・・まぁそうだけど・・・」


康太はただの人間だ。どこに出しても恥ずかしくないほどにただの人間だ。特別な力などなく、ただ魔術師としての素質があり、どういうわけか面倒に巻き込まれる体質なだけでありアリスの言うように特別な能力があるというわけではない。


そんな康太がそのような悩みを持つこと自体、筋違いだというのがアリスの考えのようだった。


「でもそんなにおかしいことか?そういう悩みを持つことっていけないことか?」


「いけないとは言わん。ただ無意味だといっている。そうだの・・・わかりやすく言うのであればまだ二足歩行もできん赤子が世界が平和にならないことに対して悩みを持っているようなものだ。はっきり言って無駄もいいところだ」


自分のこともままならないようなものが自分の周りどころかそれすらも飛び越えた悩みを持ったところで完全に意味がない。


アリスのたとえは言いえて妙で康太でもすんなりと自分の状況を理解することができていた。


「そういったことを知ってしまった手前、無視できんというのは理解できる。だがな、お前が見ている光景は過去のものだ。たとえ神だったとしてもすでに起きたことは変えられん。お前が神になって事象を覆そうというのならそれはそれで止めん。だがお前のすべきことがまず目の前にあるだろう?」


実際に神様という存在がいるのか、そしてそんな存在になれるのかはさておいて、康太の悩みはあくまで現実にあるものなのだ。


非現実的な存在を目指してないがしろにしていいはずがない。しかも今回の悩みの種は誰よりも信頼している文なのだ。


だからこそ、この悩みを何とかしようとアリスに相談したのだが一笑に付されてしまった。深刻だっただけに康太としては複雑な気分である。


「とはいうものの・・・口で言ったところでコータはそう簡単に考えを変えられんだろう?良くも悪くも愚直な男よ」


「なんでそんなことわかるんだ?」


「私が言うようなことはフミがすでに言っているはずだ。フミが言っても改善しなかったことを私が言って改善するとも思えん」


アリスとて康太の中の信頼度の高さの順位くらいは理解している。文や真理などがかなり上位に位置し、アリスは良くても三番手程度だろう。


上位の人間が口出ししてもどうしようもなかったことが、アリスが口にして変えられるとも思っていないのである。


何度言っても聞かないのであれば、あとは本人の好きにさせるしかない。


「・・・気にするなっていうのは何回も言われたよ・・・たぶんデビット本人からも・・・気にしないで自分の幸せに目を向けるように・・・そんな感じのことを」


「・・・ほう・・・?彼奴にしては殊勝なことだ・・・それで?」


「・・・いいのかなって思っちゃってさ・・・ほら、霊とかって幸せな人を見ると妬むとかいうだろ?そういうのもちょっと心配なんだよな」


「ふむ・・・幸せそうにしている康太や文を見て、デビットが悪霊化するのではないか・・・そういうことか?」


ありていに言えばそういうことだと康太はうなずいた。


デビットはあくまで魔術の中に残ったデビットの残滓でしかない。本人に近い思考を持っていたとしてもそれは決して本人ではない。


そして魔術の中にあって康太と独特なリンクでつながっている。康太がデビットの感情に引き寄せられることもあればその逆もあり得ると康太は考えていた。


その影響を全く受けないという保証はない。これでまた封印指定百七十二号が復活するようなことがあれば目も当てられない。


「はぁ・・・よし分かった。そこまで悩む材料を増やすのであればコータよ、お前の不安を私がなくしてやろう。他ならぬフミのためだ」


「どうするんだ?」


「もし、デビットの状態が悪化し、封印指定に逆戻りすることがあれば、私が直々に始末をつけよう。お前が心配するようなことは何もない」


康太は単純に、アリスが自身の不安を取り除くためにそういったことを言ってくれているのだと感じたが実際はそうではない。


デビットという不肖の弟子を生み出した師として、いずれデビットは何とかしなければならないとアリスは考えていたのだ。


いつまでも第三者である康太に背負わせるわけにはいかない。そしてもし康太の危惧通りデビットが再び猛威を振るうことがあれば、その時はアリスが責任をもってデビットをこの世から消滅させる。


文の後押しをしたかったというのも本心だが、むしろこちらのほうがアリスの目的に近い。


いつまでも情けない弟子の姿を見るのはアリスとしてもはばかられていたところなのだ。


だがそんなことを口にするわけにもいかず、アリスはあくまで文のためと言った。


その本心に気付いているのはこの場ではデビットだけだった。康太の中で恐怖にざわついているのが康太には感じ取れる。


「さて・・・それで不安を取り除いたとして・・・お前はどうするのだ?フミに告白されたのだろう?どのように返事をするのだ?」


「そこなんだよ・・・実はさ、今まで文と一緒に行動してきたはいいんだけどそれって魔術師としてばっかりでさ・・・一個人として文を見たことって少なくて判断材料が少なくて・・・ちょっと困ってる」


「・・・ふむ・・・単なる異性としてみたことが少なすぎる・・・か・・・」


康太は今まで魔術師としては文と行動を共にしてきたがただの学友として文と接してきたことは割と少ない。


一緒に昼食を食べる時も、部活の休憩時間に話すときも、小百合の店や春奈の修業場に行って訓練するときも、依頼をこなすときもたいてい魔術師としての目線で見ることが多くなってしまう。


そのためただの女の子として文を見たことがないのである。


康太としては返事を出したくとも、出すだけの材料をまだ有していない段階なのだ。


「ふむふむ・・・ではそうだの・・・コータはフミの裸を見たいと思うか?」


「・・・あー・・・まぁその・・・ぶっちゃけ今回の旅行でほぼ裸を見た」


「ほう!それは面白いことを聞いた!後でフミに問い詰めるとして・・・では・・・フミとキスしたいと思うか?」


「キス・・・キスか・・・」


康太は文の唇を思い出しながら悩み始める。


康太だって健全な男子高校生だ。異性との性交渉をしたいと思うのも当然である。


そして文がその対象となるかといえば、康太の中での答えはイエスだった。


「うん、してみたいって思う」


「ほうほう、良い答えだ・・・ではフミに自分の子を産んでほしいと思うかの?」


以前アリスが似たような質問を文に投げかけたときはあまりにも直球な内容に文はかなり狼狽していたが、康太は気にすることもなく考え始めていた。


普通の男子高校生ならばこういった直球な質問はかなり答えにくく、また考えにくいのだろうがそのあたりは康太は少し普通とは違っているのだろう。


魔術師として過ごしたことでネジが何本か外れたのか、それはわからないが康太は文とそういった行為をし、いずれ文と一緒に暮らし、子供をなして幸せに暮らす光景を思い浮かべた。


「んー・・・幸せな家庭を築けそうな気がする・・・悪くないな」


康太の反応にまだ一押し足りないなと感じたアリスは少し口元に手を当てて考え始める。ならば別の切り口で試してみるかと康太の前に指を一つ立てて見せる。


「ではコータよ、想像してみよ。将来フミがお前以外の男とくっついて幸せそうにしている光景を。子をなし、仲睦まじく過ごしている光景を」


康太は何の抵抗もなくその光景を想像し始める。といっても存在しない第三者を想像するのは難しかったのでここは困ったときの倉敷に登場してもらうことにした。


倉敷と文がいちゃいちゃしていたり、子供を連れて幸せそうにしている光景を想像して強い違和感を覚えたが、それ以上に康太の中には別の感情があった。


「なんか・・・すごくむかついたな・・・こう・・・なんて言ったらいいんだろ・・・うまく表現できないな・・・」


康太自身初めて抱く感情だったからか、うまく説明できないようだった。だがアリスはその感情を理解していた。


そのうまく言えない、苛立ちにも似た何かという表現を聞いて確信に至る。


「それは嫉妬だの。コータよ、お前はフミを誰かに取られることがいやなのだ。フミを自分だけのものにしていたいのだよ」


「・・・独占欲的な?」


「うむ。フミを自分だけのものにしたいからこそそういう風に思うのだろうな。良かったではないか、答えが出たぞ。お前はフミのことを女として見ている。そして自分のものにしたいと思っているのだ」


康太はそういわれて一瞬呆けてしまっていた。今まで全く考えたことすらなかったようなことをアリスに言われてそうだったのかと自分自身で未だ確信を得られていないといった表情である。


だが文が誰かに取られる、あるいは誰かと幸せになるという光景を想像した時いやな気分になったのは間違いない。


逆に自分と文が一緒になる光景を想像した時は、何やら安心するというか、満ち足りたような感覚になったのだ。


これが好きという感情なのだろうかと康太は悩みながら唸っていると、アリスはにやりと笑ってうんうんとうなずく。


「そんなに疑問に思うならば試してみればいい。実際にフミにいろいろとやってみたときにお前自身がどう思うか、それによって自分でも意識していない、意識できない自分の気持ちというものが理解できるかもしれんぞ?」


「ほほう。例えば?」


「そうだの・・・まずは触れ合う・・・と言いたいところだがお前たちは頻繁に接触自体はしているから・・・まずはにおいをかいでみるといい。人間とて動物、においがいやでなければきっと相性はいいのだろう」


実際は文からの事前情報で相性が悪くないというのは確認済みなのだが、せっかく康太が文に対して行動をしようとしているのだからこの状況で遊ばない手はないなとアリスは内心悪い笑みを浮かべていた。


慌てふためく文の様子が目に浮かぶとアリスは心底楽しそうにしながらこれから康太が文に対してするべき事項を箇条書きにしていた。


このリストを消化した時、果たして康太と文はそれぞれ純潔を保っていられるのか疑問なところではある。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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