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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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思わぬ事態

康太と文は新幹線、在来線、そしてバスを乗り継いで今回泊まる宿にやってきていた。


この辺りでは有名な旅館で、その一室を康太たちは予約している。スキーシーズンであるとはいえ三連休でも何でもないただの土日ということもあってぎりぎりであっても予約は可能だった。


康太と文が旅館にやってくると、受付の人間がゆっくりと頭を下げる。


今まで泊まったことのあるホテルと違い、スーツではなくほとんどの人間が旅館用の半被や着物を着ていた。


これぞ日本の風情だなと思いながら康太と文は受付を済ませようとしていた。


「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」


「予約していた八篠です。篝火の部屋を予約していたんですけども」


康太が名前を告げ、予約してあった部屋を確認すると受付の人間は申し訳なさそうな顔を作ってゆっくりと頭を下げる。


「申し訳ありません、実は八篠様が予約していたお部屋がただいま使用中でして」


「・・・え?あの・・・予約はできていましたよね?」


「はい、ですので料金はそのままに今空いている別のお部屋をご案内させていただこうと考えていますが、よろしいでしょうか?」


予約したのに部屋が空いていないというのはどうなのだろうかと思ってしまうが、二人一緒に泊まれるのであれば別にいいだろうと康太と文は了承することにした。


飛行機などではこういう話は割とよく聞くが、ホテルや旅館にもこういうことがあるのだなと不思議そうにしていると、案内のための仲居が二人の前にやってくる。


「いらっしゃいませ、それではお部屋にご案内いたします」


「よろしくお願いします」


康太と文が仲居の案内によって旅館の中を進んでいくと、エレベーターなどを経由して割と上の階まで移動していった。


「ねぇ康太、もともと予約してた篝火の部屋?だっけ?はどれくらいのランクだったの?」


「割と下のほうだったと思うぞ?普通に寝泊まりできればいいくらいのつもりだったんだ。部屋に露天風呂とかある部屋もあったんだけど、この旅館大浴場もあるしそんなのいいかなと思って」


「あぁ・・・確かに大浴場があるなら部屋にはいらないわね・・・」


そんなことを話していると仲居さんが苦笑しながら二人に話しかけてくる。


「そういったお部屋はカップルさんや新婚の方、ご家族連れの方などに人気なんですよ。秋ごろ、紅葉などがよく見えるころにはよくいらっしゃいますね」


「へぇ・・・この辺りって秋がシーズンなんですか?」


「スキーにいらっしゃる方も多いですが、一番は秋ですね。近くに景色のいい場所が多くあるのでそれらを見るのと温泉に入りに来る方も多いです」


道理で予約が割と簡単に取れるわけだと康太と文は納得していた。この旅館のもっとも混む時期は秋、そしてすでに紅葉を終えたこの時期はスキー客しか来ないある意味オフシーズンといえる時期の始まりなのだろう。


「八篠様にご案内するお部屋は『彩芽の部屋』と申しまして、先ほどお話しされていた部屋の中に露天風呂のあるお部屋となっております」


「・・・あれ?それだと料金とかかわってくるんじゃ・・・?俺普通の料金しか払ってないんだけど・・・?」


「こちらの不手際ですのでそのあたりはお気になさらず。あぁ、こちらが彩芽の部屋になります。部屋の鍵はこちらです。どうぞごゆっくりとおくつろぎください」


康太と文が案内されたのは明らかに上部屋と取れるだけの大きな部屋だった。少なくとも二人が寝泊まりするためのものではないのがわかる。


「・・・なんかこの感じ・・・誰かの意志を感じるのは私だけかしら・・・?」


「そうか?普通料金でこういう上のランクのところに泊まれるのってラッキーじゃんか。エコノミーにしようと思ったらファーストクラスに乗れるようなもんだろ?」


確かに、話の展開からするとそういうことなのだろう。実際そういう話があるのも何度か聞いたことがある。


だがここまでピンポイントにそういうことがあるだろうかと文は困惑してしまっていた。


そんな文のことはさておき、康太は部屋の中を徹底的に探索している。部屋についている風呂に加え、ベランダのほうから出られる露天風呂、部屋が広いだけではなくかなりいい部屋だというのは学生である康太と文にも容易に理解できる。


一世一代の告白をしようという時にこんなラッキーがあり得るだろうかと文は一種の策略のようなものを感じていた。


「すごいぞ文、これまじで露天風呂だ。しかもすごい景色!」


「へぇ・・・個室風呂でもしっかりしてるのね・・・ってあれ?完全に外ってわけじゃないのね」


「あぁ、ある程度ガラス張りになってるみたいだな。出ることもできるみたいだけど」


露天とは言うが外の景色が見られる風呂というだけらしい。もっともこの時期の場合はそのほうがありがたい。


冬の露天風呂は覚悟してはいらないとかなりつらいことになる。寒さも相まって凍えてしまうかもわからない。


「でも大浴場もあるのよね?」


「あぁ、えっと・・・十一階にあるらしいぞ。遊技場とかもあるっぽい」


有名な旅館なだけにそれなりに訪れたものを楽しませるための施設も用意してあるようだった。


ただのスキー旅行が何でこんな豪華なことになったのだろうかと考える中、文は一つの可能性を思いついていた。


こんなことをできそうな人物に心当たりがあったのだ。


もしやそんなと思いながらも、文は荷物を置いた後で電話をかけ始める。かけた相手はアリスだった。


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