雪が見える場所
新幹線を使って移動を始め、すでに完全に日も暮れている中でもわかるほどに移動すれば移動するほど周囲の風景は変わっていた。
月明りを反射してわずかに輝く雪、白いはずなのにわずかに青ささえあるのではないかと思えてしまう。
「おぉ雪だ雪。久しぶりに見たなぁ」
「地元じゃ雪降らないものね・・・康太って雪見るとテンション上がるタイプ?」
「上がるね、めっちゃ上がるね。降ると上がるけど積もるともっと上がるね」
窓から見える積もっている雪を見て康太は目を輝かせていた。その姿を見て文は雪を見てはしゃぐ犬を彷彿させる。
積もった雪の中を元気に飛び回りはしゃぐ犬。今の康太はまさにそんな感じだった。そのうちしっぽが生えるのではないかと思えてしまう。
「でもあれよね。雪が降って積もってるのはいいんだけど、地元で雪降ると大変じゃない?滑るし電車は止まるし」
「それな。都市部はそれが困る。けどそれを越えてテンションが上がるものがあるんだよ。男の子とはそういうものだ」
「そういうものなのね。まぁ楽しんでる分にはいいんじゃない?はいどうぞ」
窓の外を食い入るように見ている康太に、新幹線の中で食べるために買ってきた駅弁を差し出すと、康太は礼を言いながらそれを受け取り、割り箸を口で咥えながら包みを開けていた。
「それにしてもあれだな、こうしてちゃんと交通機関使う旅行って久しぶりじゃね?たいてい門とか使ってるからさ」
「あー・・・そういえばそうね・・・今回は魔術関係全くないし、幸彦さんたちもいないから自力での移動になるし」
「さすがに雪道走る前提な時点でバイクは死ねるからな・・・新幹線とか久しぶりに乗ったわ」
康太たちは普段長距離の移動を行う時は協会の門を使って移動することが多い。大きな荷物を大量に運ばなければいけない時などは車などを利用するが、個人装備だけの時はたいてい協会の門を使用する。
ただそれも、魔術関係で何か目的があるときに限定している。今回は康太と文の個人的な旅行であるために協会の門は使わないことにしたのだ。
旅行というのはそこにつく過程も楽しむものであるとは誰が言った言葉だっただろうか、文はそんなことを考えながら窓の外を康太越しに眺めていた。
「今回はウィルは連れてこなかったの?ぱっと見いないけど」
「あぁ、ウィルは神加に預けてきた。最近は戦闘の時以外はずっと神加と一緒にいる感じだな」
「ふぅん、本当に神加ちゃんにウィルを引き継がせるつもりなのね」
「あぁ。そのほうがあいつらにとってもいいだろ。いろんなことを経験させるっていう意味では。俺と一緒にいると戦闘ばっかりになっちゃうからな、あいつらには日常も大事にしてほしいわけよ」
ウィルの中にいる意志たちはもとはただの一般人だ。康太とともにいることで戦闘もある程度こなせるようになっているとはいえ戦いを好む者たちで構成されているというわけではない。
戦闘もできるが、彼らの本質は日常にて発揮されるべきものであると康太は考えているようだった。
師匠である小百合は早い段階からウィルのような便利な存在を身近に置いてしまうといろいろとためにならないと考えている。そのため神加がある程度育つまではメインは康太が担い、神加がある程度育ち、実力をつけてきたらウィルを正式に神加の専属にするつもりでいた。
神加はいずれ自分よりも優れた魔術師になる。康太にはそういう確信があった。自分のように不器用ではなく、兄弟子の真理のように器用に立ち回れる。
敵も作らず、自然に優秀な魔術師への道を歩むことができると信じている。だからこそウィルを預けようと思ったのだ。
幸い神加もウィルによくなついている。その逆も同様で日常においてはほぼ常に一緒にいるといってもいいほどだ。
「でもいいの?ウィルがいなくなるとあんたの戦闘能力だいぶ落ちるんじゃない?」
「神加が成長する間に俺も成長すればいいってだけの話だ。何より防御ばっかりに目を向けてると勘が鈍るからな」
「勘って・・・何の?」
「いろいろと。守れるって確信した状態でいるとそれが破られたときどうしようもなくなるから、やっぱ常に回避してるくらいがちょうどいいのかもしれない」
康太は今までそこまで防御に頼るということはなかった。それはそもそも康太が防御魔術を覚えていないというのが理由であったが、今まで回避に集中し続けていたというのも大きな原因でもある。
攻撃を回避する。康太は小百合の教えによってその行動が非常にうまい。回避行動に関していえば真理にも匹敵するのではないかと思えるほどだ。
射撃系の攻撃ではまともに康太に当てることは難しい。よく訓練している文は康太がよけるその特性を理解しているから逆手にとって当てることも可能だが、初見の人間では康太に射撃系攻撃を当てることはほぼ不可能だろう。
狭い空間で、避けることのできないような密度の攻撃をすれば話は別だが、そうなれば康太の攻撃も相手に通る。
だが康太も守りをお粗末にしているわけではない。守りをしていながら回避もする。守り切れるかどうかはわからなくても回避してしまえばいい。回避しきれなくても掠る程度であれば防ぎきれる。二重の構えとはこのことを言うのだろう。