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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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アリスの情報

「どうしたものかしらね・・・とにかくあいつの意識を変えないといつまで経ってもスタートラインにすら立てないもの・・・」


『意識を変えるといわれてもな・・・あれであいつの感性は徐々にではあるが成熟しつつある・・・それを変えるとなると・・・』


アリスの言うように康太の感性は魔術師としてはさておきひとりの人格としては完成されつつある。


魔術師として数多くの事件にかかわってきた影響からか、同世代の人間と比べて成熟の度合いは高い。

それが良いことである場合もあれば、同時に悪い影響を及ぼす場合もある。


特に今回は康太がすでに『頼りになる相棒』として認識してしまっている文の存在を『恋愛対象となる異性』に変化させなければいけないのだ。


はっきり言ってこれは容易なことではない。


だがアリスはここで思いつく。今回のこの状況を突破する可能性のある強烈な一撃を秘めた行動を。


『フミよ・・・ここは私が人生の先輩としてお前に秘策を授けよう』


「秘策・・・?いったい何よ・・・」


『簡単だ、お前の裸を奴に見せてやるのだ。ちらりと見せる程度ではだめだ、見せつけ、なおかつ触れさせろ・・・!奴とて男だ、お前ほどのポテンシャルがあれば間違いなく』


アリスがそれ以上何かを言う前に、文はアリスとの通話を切る。そんな真似ができるのであればとうにやっているといわんばかりの大きなため息、アリスが言うほど文は自分の体に自信がない。


正確に言えば康太に見せられるだけの自信がない。


常に運動をしているためか、文の体は引き締まっている。出るところは出て引き締まるべきところは引き締まっている。


見る人が見たら飛びつくほどのポテンシャルを秘めている文だが、それはあくまで他人からの評価であって文自身が自分につけられるようなものではない。


見せられないところで小さなコンプレックスは山ほどあるのである。そんなコンプレックスを堂々と見せつけられるほど文は勇気を持てなかった。


そんなことを考えていると文の携帯に着信が届く。着信相手がアリスだということに気付くと、文はため息をつきながら電話に出ることにした。


「もしもし?」


『いきなり切るとはひどいではないか。フミよ、コータをものにしたくないというのか?誰かに取られてもよいのか?』


「いいわけないでしょ。でも裸を見せるのもいいわけないでしょ。一応言っておくけど私たちまだ未成年なのよ?」


『何を言うか、成人のくびきなどは国や時代によって変わるのだ。そんなものをいちいち気にするでない。それよりも、コータとて男なのだ。お前ほどの女の体を見れば当然反応する!』


力強く断言するアリスだが、文はどうにも康太が照れていたり欲情したりする場面が想像できなかった。


今までそういう康太の姿を見てこなかったのが原因なのだろうが、水着を見ても康太はほとんど何の反応もしていなかった。


似合っている程度のことは言われたがそれだけだ。本当にあれが男なのかも不明になってくるほどなのである。


「でもさ・・・あいつだって男だっていうけど・・・あいつの好みって実際どんな感じなわけ?私ってあいつの好みに合ってるの?」


『む・・・ふむ・・・そういえばコータの好みについてはあまり聞いていなかったの・・・あいわかった。それでは私が聞き込みに行ってこようではないか』


「え?もしかして今直接聞くつもり?」


『さすがに直接聞くことはせん、少し遠回しにどんな女が好みか聞くだけだ。文もそのほうが安心であろう?』


アリスが探りを入れるという時点で少し不安になってしまう。適当なことを言ってごまかしたりする性格ではないとはいえ、アリスに対して康太が本心を語ることができるかかもわからないのだ。


いや、アリスが本気で質問をしたらいろんな意味で逆らうことはできないだろう。暗示やら精神操作系の魔術を駆使して自白させかねない。


一方的にアリスから通話を切られ、文は悶々としながら目の前にあるチョコとにらめっこをしていた。


型に流し込んで冷やすだけ。それでもいいのだがせっかくだからいろいろ試してみようといくつか試作しているのである。


生クリームなどと混ぜてみたり、チョコケーキにしてみたりとキッチンが強烈な甘い香りを放つまで作り出されたチョコ系の菓子類に、文の母は微笑ましそうにその光景を眺めていた。


もちろんすべてハート形だ。これは文が吹っ切れたとかそういう意味ではなく、文の母がハート形以外の型をすべて隠してしまったのである。


これでは形をハートにすることはすでに決定してしまっている。あとはもう文が度胸を出して康太に渡すだけとなっている。


問題なのは渡したそのあとだ。どのように渡すかも問題なのだが、渡した後に文が何を言うのかも重要になってくる。


告白するのか、義理であるというのか。これによって文の今後が大きく変わるといっていいだろう。

そんなことを考えていると再び文の携帯が着信を告げ始める。


相手はアリスだ。康太の好みを聞き終えたのだろうかと文は少し急ぎながら携帯に耳を傾けた。


「もしもし?」


『朗報だフミ。コータの好みはだいぶお前に近いものであるらしいぞ』


「そ・・・そう・・・ぐ・・・具体的には?」


康太の好みが文に近いということを聞いて文は冷静さを保とうとしているが当然冷静でいられない。


そわそわと体を動かしてアリスの言葉を待っていた。もし自分の外見が康太の好みに近ければ当然その分チャンスは増える。


康太が外見的特徴だけで人を好きになるとは思えなかったが、それでも文にとってはかなりのアドバンテージになることは間違いない。


『うむ、具体的には黒髪ロングのストレート、胸はあったほうがいいが細身であることが重要。身長は百六十前後だそうだ』


身体的な特徴だけを言えばまさに文の体そのものだ。テニスをやっている関係で多少筋肉がついているとはいえ文は十分以上に細身、しかも胸はそれなり以上にある。


少なくとも体の特徴という意味では文は康太のストライクゾーンど真ん中ということになる。

これは文にとってはかなりうれしい情報だった。


「それで?肉体的な好みは分かったわ・・・内面は?お淑やかなほうがいいの?それとも活発なほうがいいの?」


『それなんだがな・・・一緒にいて楽なのが一番いいそうだ。少なくとも今はフミ以外にコータにふさわしい女はいないだろうと断言できる』


「・・・その断言はうれしいけど・・・ちょっと複雑ね」


康太の交友関係を考えると確かに文以外にその条件に該当する女性は文しかいない。


自分で直接聞いたものではなく、他人から間接的に聞いたものであるためにその信憑性も地味に高い。


何よりそれを聞いたのがアリスというのがさらにその信憑性を高めていた。これはほぼ確定だといえなくもないレベルの情報源だ。


とはいえ、文と長く行動していたために康太の好みが文に近づいていったという考えも否定しきれない。


先天的か後天的か、その判断は難しいが文に大いなるチャンスが与えられているというのは間違いないだろう


『さて、ここまでお膳立てが済んでいるのだ。ここでやらなければ女が廃るというものだぞ?』


「なんかすごいこと言ってるわね・・・それを言うなら男のほうから告白させるとかそういう考えはないわけ?ほら、康太だって一応男なんだしさ、度胸見せろとかそういう・・・」


『馬鹿者、コータがそういうタイプに見えるか?明らかに今はお前のことを恋愛対象としてみることができていないのだぞ?そもそも、コータのあの様子では好きになった女がいても自分から口に出すことはしないだろうよ』


「あぁ・・・あんたから見てもそう見えるんだ」


文が以前から感じていた康太の感情の機微。自分が幸せになっていいのだろうかというなんとも場違いな悩み。


一緒にいることでどうやらアリスもそのような感覚を康太から覚えたのだろう。本来ならば叱咤するところであるが、アリスはその役目をすべて文がやるべきだと放置してきているのである。


実際文がやっているし、これからもそうするつもりだった。


『あれはどうにも考えすぎるきらいがあるな・・・だからこそコータが見せるのはお前が告白した時の度量よ。それを受け入れることができるかという甲斐性よ。男ならば女の一人や二人抱えて見せるべきだと私は思う』


「いや・・・二人抱えられると困るんだけど・・・二股とか私はいやよ?」


『言葉の綾だ、気にするでない。少なくとも・・・あいつは一人以上の人間を許容できるほどの度量は持ち合わせていないだろうよ』


「・・・それってほめてるの?」


『・・・昔ならば貶し言葉になったやもしれんが・・・今のご時世ならむしろ誉め言葉だろう。良くも悪くもな』


アリスが生きた時代の中には何人もの妾を受け入れ、妻が何人もいるのが当たり前という今からすれば特殊な時代もあった。


もちろん現代においても一夫多妻制を認めている国は確かにある。だが日本においてはそれは認められていない。


生粋の日本人である康太は、少なくとも一人の人間しか真摯に愛することはできないだろうとアリスは感じていた。


それは良いことでもある。一人しか愛せないということは浮気などには走らないということだ。

文にとっては朗報でもある。


「ちなみにだけど・・・あんたも結構いい歳してると思うけどさ、結婚とかしたの?」


『何を藪から棒に・・・あいにく私のようなお子様を相手にするようなやつは・・・あー・・・まぁいたにはいた・・・といっても権力目的のつまらん男だったがな。もちろんそんな奴は一蹴したが』


「あぁ、やっぱり昔だとそういうこともあるのね」


『昔だけではない。今もそうだ・・・魔術師としてコータは比較的優秀な部類に入る。素質ではなく実績的な意味でな。そういう姿にあこがれを持つ魔術師はほかにもいるだろう。特に女は』


アリスの言葉に文はわずかに冷や汗をかく。康太は確かに実績を上げてきた。それだけの実力を有しつつある。そんな康太に惹かれない女がいないとも限らないのだ。


そしてそれが魔術師だった場合、文のライバルということになる。


『せいぜい精進することだ思春期の乙女よ。コータはあれで倍率が高いと私はにらんでいる。この旅行中にあの愚かな心を射止めてしまえ』


アリスはそう言い残して通話を切る。


愚か、その言葉に文は全くその通りだなと思いながらも、その愚かさを変えてみせると意気込んでチョコを完成に近づけていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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