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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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母のアドバイス

「でも実際にやってみないとわからない・・・ちなみに文はよく康太君のこと話すけど、仲はいいんでしょ?嫌われてるとかそういうことは思ったことある?」


「・・・ない・・・たぶん同世代の女子の中では一番仲がいいと思う」


なら何を迷うことがあるのかと文の母は思ってしまうが。それができないのが思春期というものなのだ。

文に玉砕するだけの覚悟があればいいのだが、あいにく文はそういうことは不慣れであるらしい。


今まで長い間さんざん悩んでいながらほとんどといっていいほどに何も行動できていないのがいい証拠である。


早い話、文はヘタレなのだ。


康太が好きであると自覚してから、康太と常に一緒にいるということを心掛け、どのような状況でも康太の味方でいることに努めてきた文ではあるがそれはあくまで魔術師としての行動に過ぎない。


ただの個人としての文は本当に何もしていないのだ。


いつも通り一緒に昼食を食べたり、いつも通り部活の休憩時間に話をしたり、いつも通り一緒に小百合の店に行ったりと、一般人としての生活の中でも割と一緒にいる時間が長い二人だが、文は一向にアタックを仕掛けない。


どこかに遊びに行こうとか、何かをしようとかそういうことを文は全く行ってこなかったのである。


この間遊園地に泊りで遊びに行ったのだって康太の提案だ。文は基本流されるまま、何か自発的な行動を起こすのが絶望的に苦手なのである。


だが実際、行動を起こすということはその実失敗するかもしれないというリスクを背負うということでもある。


康太に対しての場合、たいていの行動はリスクと言えないようなものばかりになる。遊びの誘いだってしてしまえば康太はスケジュールを合わせるくらい簡単にしてくれるだろうし仮に合わせられなかったとしても別の機会を作ってくれる。


ただ、今回の場合は話が違う。


この形を決めるただそれだけのことで、文が抱いている康太への感情を察知されてしまう可能性が高いのだ。


文の母としては、康太が優秀な魔術師であり、素直でいい子であるという印象を持っているためにこの二人が恋人関係になってくれれば願ってもないことなのだが、当の本人たちが、特に康太がどのように文のことを想っているのか測りかねているところがある。


文の母も魔術師だ。時折協会に足を運んで文や康太の評価を確認することがある。


康太と文は基本的に行動を共にしていることもあって、評価が上がるときはたいてい一緒だ。


そして康太の評判も文の評判もあらかた聞いている。その中で康太が文に対して抱いている感情がいったいどのようなものであるのか、文の母はおおよそ予想ができていた。


良くも悪くも、康太は文を相棒として見ている。


常に自分のそばにいる、常に自分を助けてくれる。感謝は絶えず、これからも一緒にいたいと心底思える信頼のおける仲間。


それを恋愛関係に発展させるのは地味に難しい。特に康太は文のことを恋愛感情とは全く別のベクトルで好意を向けている節がある。


だがここで文の母に妙案が浮かぶ。


「ねぇ文、あなた確か康太君と一緒に泊りで遊びに行ったりしてたわよね?」


「え?うん・・・でも泊りは数えられる程度よ?」


「・・・その時あなたの裸を見せたりしなかったの?」


自分の母が思わぬ発言をしたことで文は一瞬硬直した後で母の頭を思い切り叩こうと手を挙げた状態で力を籠めるが、さすがに明らかに突拍子もないことを言いすぎたかと文の母は謝りながら頭をかばっていた。


「・・・なんでそんなこと言うのよ・・・大体ちゃんとお風呂とかは別にしてたし!寝たのは同じ部屋だったけど・・・」


康太と泊りで行動した回数は片手で数えられる程度だが、そのほとんどで同じ部屋での寝泊まりだったように思える。


唯一静岡に行ったときは一応別々の部屋が用意されていたが。


「そういう時に康太君は文の入浴を覗こうとしなかったの?」


「・・・そういうことをする奴じゃないわよあいつは・・・」


「じゃあ覗かれたくないの?」


「そ・・・!それ・・・は・・・それとこれとは別問題・・・で・・・」


もし康太が自分に欲情し、自分の入浴する姿を覗きに来たら。そう考えて文の顔はどんどん赤くなっていく。


康太が自分に欲情することなどあるのだろうかと思い、同時にそういえば今までそんなそぶりを見せることがなかったなと眉をひそめてしまう。


男子高校生ならばその程度のことに興味を持ってもいいはずだ。以前部屋にそういった本があるのかと聞いたときに康太は言いよどんでいた。


たぶんあるということはつまりそういうことだ。康太は世間一般的な高校生と同レベルの性欲は持ち合わせているということになる。


「じゃああなたは康太君の裸を覗いたことはあるの?」


「・・・ていうか裸は見たことある。それに・・・まぁいろいろとやったことはある」


「・・・それたぶん康太君が寝てるときでしょ?」


「寝てるっていうか・・・あいつが意識を失ってるとき。三日くらい意識が戻らない時があったから、その時の世話を私がしてた」


文の証言に彼女の母はあらあらと笑みを浮かべてしまっていた。三日間も一緒だったということはもうすでに康太の体の隅々まで知っているということだ。


汚いところも含めて文は康太のことを好きになっているのだなとわかった文の母はこれは協力せざるを得ないと意気込んでいた。


「なら話は早いわ。文、今度バレンタインの時に康太君を誘って旅行にでも行ってきなさいな」


「はぁ?旅行っていったって・・・もう今週の話よ?そんなこともう」


すでにバレンタインデーは今週末に迫っている。どこかに遊びに行くというのであればまだわかるのだが旅行に行くとなるとさすがに急すぎる。


康太の予定も確認しなければいけないし、何より旅行先も決めていないのだ。そんな簡単に話を進められるとは思えなかった。


「そうね・・・この際日帰りでも構わないわ。康太君と二人きりで行ってきなさい。きっとバレンタインならいろんなところでカップルがいると思うから、そういった意味でも触発されてきなさい」


「いや・・・それって普通に遊びに行くんじゃだめなの?ちょっと遠出して遊ぶのじゃダメなの?」


「ダメ、そこは旅行しないと。いろんなところに行っていろんなものを見て影響されてきなさい」


文の母は娘の恋が先に進むためには康太の意識の改革が必要だと感じたのである。


良くも悪くも康太は文のことを相棒だと思ってしまっている。まずは文を女性だと認識させること、いや正確に言えば恋愛対象となり得る異性であると認識させることが大事なのだ。


そのためにはいつも通り遊んでいるだけでは足りない。なぜならそもそも遊ぶ程度のことで意識が改革されないから今のような状況になっているのだ。


ちょっとやそっと遊んだ程度では康太の意識は変わらない。ならば手段としてははっきりと異性として好きだと口に出すか、あるいは康太自身が文に何かしらの魅力を感じるかしかないのだ。


文の性格からして前者が難しいということを即座に察知した彼女の母は、康太がどのような状況ならば文に女性としての魅力を感じるか考えた。


その結果、周りが恋人だらけで、ほかの女性と文を見比べさせることで康太の意識を変えようと考えたのである。


周りが恋人だらけならば否が応にも恋人とはどのようなものかを考えさせられるはずである。


そこまですれば康太もきっと考えを改めるだろうと文の母は考えていたのである。


「きっといろんなものを見て、そのたびに文を見ればきっと康太君もあなたの魅力に気付くわ。周りにカップルがいればなおのことよ」


「・・・そういうものかしら・・・?」


「そういうものよ。恋人としてあなたを見た時、きっと魅力的だと思うわ」


恋人として見た時、文はその言葉を聞いて少しだけ期待すると同時にそれでも無理ではないだろうかと考えてしまう。


何せ文と康太は一度恋人ごっこをしたことがあるのだ。正確には恋人のふりをしたのだが、その時康太は割と平然としていたように思う。


「でも康太は恋人の振りしてても全然普通にしてたわよ?私のこと恋人としてみることが難しいんじゃないの?」


「そんなことしたの?でもどうしてそんなことを?」


「魔術師として行動してた時、相手の拠点をちょっと調べなきゃいけなかったんだけど、その時の偽装として・・・」


文と康太が恋人ごっこをしたのは割と最近の話だ。その中でも康太は平然と文と付き合っている演技をして見せた。


具体的に康太が何をしたのか、文は集中して拠点の調査を行っていたために知らないが、少なくともあの場はアリスによってありとあらゆる恥辱を与えられたといっても過言ではないだろう。


「それじゃダメね・・・たぶんだけど、康太君っていろんなことに一生懸命になれる子でしょ?」


「うん・・・まぁそうだけど」


「それじゃたぶん魔術師としての活動に一生懸命になりすぎてあなたのことに気が回ってない・・・っていうかあなたのことをちゃんと見れてないわよ。二人きりでちゃんとあなたのことを見せないと」


二人きりで。


その言葉に文はそういえば康太と二人きりで行動した回数というのが案外少ないということを思い出した。


特に魔術師としての行動はほぼ常にといっていいほど一緒にいる二人だが、魔術師としてではなくただの友人として、ただの同級生として一緒に行動した回数というのは実は数える程度しかない。


特に二人きりで行動したといえばこの間の年末、一緒に遊園地を回ったときくらいのものだ。


それ以外康太と文が魔術師としての活動以外で二人きりでどこかに行ったということはない。


「二人きりで康太君を旅行に誘う。それもちょっとやそっとの旅行じゃダメね・・・可能なら恋人とかがたくさんいるような場所が好ましいわ」


「好ましいって言われても・・・そんな場所知らないわよ・・・?また遊園地にでも行けっていうの?」


「この間行ったばっかりならやめたほうがいいわね・・・ん・・・ちょっと考えてみるからあなたも康太君を誘っておきなさい。あとチョコの形はハート形ね」


文が悩んでいたことをあっさり決定してしまう母の決定力に文は逆らうことができなかった。


いきなり誘えと言われてもそんな急に康太がオーケーを出してくれるとは思えないだけに少しだけ複雑な気分だった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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