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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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弟子としての尻拭い

「とりあえず俺ができそうなことはここまでですが、何かまだお手伝いできることはありますか?」


「いいや、十分すぎるよ。ここまでやってくれたおかげでだいぶこの後が楽になる。君にはいつも感謝してるよ」


「今回の場合は師匠のしりぬぐいって感じですけどね。まぁあの人の弟子らしい仕事ってところですか」


真理然り康太然り、今まで小百合の無茶な行動についていき、その後始末を何度かしたことがある。今回も同じようなものだ。


もっとも、今回に関していえば康太が自発的に動いた結果、小百合の後始末をしたという形になっただけの話である。


康太が小百合の弟子だからやった、というよりも小百合の教えにしたがった結果こうなったというべきだ。


自分の感情の赴くままに、やりたいことをやっただけなのだから。


「ところで・・・このことは彼に伝えなくてもいいのかい?一応彼が当事者であり最大の被害者であるわけだけど・・・」


支部長の言う彼という単語がハクテイこと堤博のことを言っていることは康太もすぐに理解できた。


少なくとも康太は自分から言い出すつもりはなかった。これから協会がこの男をどのようにするかはわからない。七人もの人間を殺しているのだからさすがに協会としても何らかの処罰をするべきだろう。


それがたとえ協会に所属していないとしても、処罰と言わずとも何らかの措置を施さないとまたどこで誰が死ぬか分かったものではない。


その結果この男が死ぬことになるのか、それとも生き延びるのか、それは定かではないがこの男は堤に会わせるべきか否か、支部長としても未だ判断できずにいるらしい。


個人に肩入れするという結果になるのか、それとも一応声をかけた程度の事柄に当てはまるのか。


この魔術師、向井達夫を倒し捕縛してきたのは康太であるために協会としてはほとんど何もしていないに等しい。


そういう意味では肩入れとはならないかもしれないが積極的に会わせようとするのも少し違うように思えるのだ。


だからこそ今回の当事者である康太に意見を求めたのである。


だが康太の考えは変わらない。


「どちらでも構わないと思いますよ。ですが俺からハクテイに声をかけるつもりはありません。支部長が伝えたいと思うのであればご自由にどうぞ」


「・・・んー・・・一応君が捕まえたんだし、君が報告したほうがいいんじゃないのかい?一応君の手柄ってことで恩を売れるよ?」


「一般人に毛が生えた程度の実力しかない奴に恩を売ってどうするんですか・・・っていうか現時点で俺はあいつにむしろ協力しすぎたと思ってますよ・・・」


確かに支部長が感じている以上に、康太は堤に手を貸しすぎてしまっている。


遭遇して相手が本当に小百合を探しているわけでもなかった時、ただ記憶操作と暗示によって行動させられていたのだとわかったとき、康太は堤を放ってその場から離脱することだってできたのだ。


誤解を解いたことで小百合への噂も消える。ただ向井達夫という小百合に恨みを持った魔術師が残るというだけの話だ。


小百合に恨みを持つ魔術師など数えきれないほど存在する。そのうちの一人くらい放置していても何の問題もなかった。


何もかも放置することもできた康太だが、堤にいろいろと教え、協会への道を案内し、協会に所属させ、あまつさえ死体になった家族に会うのを迷っていた堤を強引ながら引き合わせるようなことまでした。


明らかに口と手を出しすぎた。これ以上首を突っ込む必要はない。本当に康太はやるべきことを、やりたいことをすべて終えたのだ。


これ以上堤とかかわる必要も、義理も、その理由も消滅したのだ。


後はいつも通りの魔術師生活に戻るだけである。


「・・・君がそういうならわかった。ハクテイとこの男に関することは僕が責任もって預かるよ・・・悪いようにはしないさ」


「そうしてくれるとありがたいです。俺はもうこの件にかかわるつもりはありませんので・・・あ、でも何か手伝えることがあれば言ってください。あのコケに関することとか、戦力が足りないとか。そういうことであればお手伝いくらいはしますので」


「そういってくれると助かるよ。君は戦力としては非常に優秀だからね。クラリスも君くらい素直でいてくれたら本当に助かるんだけど」


「あはは・・・師匠にそういうのを求めるのは間違ってますよ。師匠が素直で協力的だったら師匠じゃないです」


素直で協力的な小百合。先ほど康太が言ったように『何かあれば私に言え。可能な限り力になる』なんてことを言うような小百合の姿を想像して康太はつい笑ってしまう。


いつもの鋭い眼光の中にどこか輝きさえも見えているようなそんな表情を想像してしまったせいか、小百合に似た全くの別人が出来上がってしまった。


こんな人格者の小百合は小百合ではない。もしそんな小百合に出会ったら康太は間違いなく偽物であると感じて攻撃を仕掛けるだろう。


「確かに・・・そんなクラリスがいたら間違いなく偽者だね。あるいは記憶とか人格を操作されてるかってところか」


「そんな人にあったらまず俺と姉さんが攻撃しますよ。我が師を名乗るとは不逞の輩め!って感じで」


「アハハ、君らそんなにクラリスのこと尊敬してないでしょ?」


ばれましたかと支部長の言葉に康太は肩をすくませながら支部長室を出ていく。


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