表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

776/1515

報告をうけてから

「殺さずに倒せたのは運がよかったわね。あれだけの攻撃、相手がよけ損ねたらそれだけで殺しちゃうかもしれないじゃない」


「師匠だったらためらわないかもしれないな・・・よけられないのが悪いとか堂々と言いそうだ」


小百合の斬撃をよけることができる人間はかなり限られる。康太もすぐ近くにいれば防ぐなり避けるなりできるかもしれないが、拡大動作によって攻撃の範囲も広くなるうえに単純に軌道が目に見えないために避けにくい。


小百合の攻撃をよけることができる人間はいったい何人くらいいるのだろうかと考えながらも気絶したままの魔術師のほうに目を向ける。


「さて・・・で、どうするの?協会に連れていく?それともこのまま放置しておく?」


「・・・放置の選択肢はないな。聞かなきゃいけないことがいくつかある。こいつがなんで師匠の姿をハクテイに焼き付けたのかも気になるし」


「あぁ・・・そういえばそれが事の発端だったわね・・・恨みつらみとかそういう単純な理由かしら?」


「その可能性が高いよな・・・うちの師匠あんなんだし、そもそもこいつら所属してたっぽいチームを潰してるわけだし」


「でもそれなら私の師匠も当てはまらないかしら?当時一緒に行動してたみたいだし」


「エアリスさんがそこまでボコボコにするとは思えないんだよな・・・どっちかっていうとうちの師匠が無茶してエアリスさんがそれを止めようとするような気がするんだよ・・・修業時代の話だけどどっちも根本は変わってなさそうだし」


話を聞いた限り、小百合と春奈がこの件の大本と思われるチームを潰したのは二人がまだ修業時代の話だ。


時間にして十年以上前の話になるがその当時からおそらく二人は今の二人と大差なかっただろう。


小百合は無茶苦茶をやる性格で、エアリスはそれについていきながらもそれを止めようとする。一緒に行動しているならその行動は特に顕著に表れたことだろう。


どちらにせよこの魔術師をこのまま放置しておくわけにはいかない。協会に連れて行って話を聞かなければならないだろう。


堤にこの男を差し出すかどうかは、康太のその時の気分次第だ。そもそも今回のこれは堤のために起こした行動ではない。


協会の中に捨てておいて、そこから先は堤に任せるのもありだ。余計な面倒をかけるよりは堤にその責任を負ってもらうのもいいかもしれないなと思いながら康太はこの魔術師の体をウィルで覆っていく。


肥満体形とはいえウィルの力ならば余裕をもって運ぶことができる。山道を康太と文の二人で運ぶよりはずっと早い。


「そういえばビー、あのコケはどうする?」


「ん・・・あぁあれか・・・正直どうしようかなと・・・ベルとしてはどうだ?あれは放置しておいても大丈夫なのか?」


今回の事件を鑑みると、魔術師同士で奪い合いが発生するほどに貴重なものであるのならその場所そのものをなかったことにするか、あるいは協会の管理下に置くかの二択になるように思われる。


なかったことにする場合、あの場に生えているコケそのものを燃やしたり、あるいは周囲の地形を変えるなり条件を変えるなりしてマナをため込まなくさせる必要がある。


少々手間ではあるが少なくとも少しの間はあの場所にはマナをため込む植物は見られなくなるだろう。


「正直微妙ね・・・今回は見つけた人がそれぞれそれを貴重だと思えるだけの人種だったからここまで激しく争ったみたいだけど・・・どうしたものかしら・・・」


あのコケの価値をほぼ正確に理解できている文としてもあのコケの処遇に関してはかなり迷っているようだった。


魔術師そのものの争いをなくすという意味でなら消去してしまったほうがいい。だがあのコケの価値を考えるとそれはあまりにもったいないようにも思えるのだ。


今後の魔術の発展のためにも使える可能性は高い。そのため協会に報告しておいたほうがいいように思えた。


「支部長に報告しておきましょう。あとの対応は支部長がするでしょうし・・・あれを消しちゃうのは惜しいわ。かといってこのまま放置しておくとまた似たようなことが起きかねないしね」


「ん・・・じゃあそうしようか。良くも悪くも価値のあるものは人を惑わせるな」


「価値があるからこその争いね。正直いい迷惑だけど、あのコケにはそれだけの価値があるわ。見る人が見たら飛びつくんじゃないかしら?もしかしたらこの辺りの山を買うかもしれないわよ?」


「そこまでか。山一つ買うだけの価値があのコケにあるのか?」


「人によってはね。そのものの価値なんて人によって変わるわよ。絶対的な価値なんて存在しないのよ。金銀財宝だって状況によってはただの鉱物に早変わりよ?」


金銀財宝が全く役に立たない状況となると、周りに全く人がいないような無人島などが当てはまるだろうか。


逃げる手段なし、助けはこない。周りには誰もいない。そんな状況で最も優先されるのは水や食料などだ。


確かにそんな状況であれば金銀財宝が山ほどあったとしても『価値』がない。


時代、場所、状況、人、それらによって価値とは変化していくものだ。文の言うように絶対的な価値なんてものは存在していないのだろう。


康太にとってあのコケがちょっと珍しい程度のコケにしか見えないように。













「というわけです。一応報告だけはしておこうと思いまして」


「・・・うわぁ・・・まさかクラリスの噂の件がそんなことになるとは・・・いやでも・・・んんんん・・・!?」


康太と文が魔術師を引きずって協会までやってきて部屋を借りる申請をすると同時に報告を済ませると支部長はかなり唸ってしまっていた。


何かまずいことをしただろうかと康太と文は一瞬視線を合わせて首をかしげるが、支部長はそんな二人の様子を見て苦笑してしまう。


「いや、その報告自体はすごくありがたいんだ。よく私欲にかられずに報告しに来てくれたよ」


「いやまぁ、あれは俺らにとってそこまで価値があるものじゃないですから・・・珍しいものであるのは間違いないっぽいんですけど」


「それならちゃんと活用できる人に提供できるほうがいいと思いまして・・・ですが何か問題でも?」


康太も文も薬学関係はほとんど無知だ。さらに言えばあのコケを有効活用できるだけの知恵も技術も持ち合わせていない。


だからこそ支部に報告するのが良いと思ったのだが、支部長の反応を鑑みるにあまり良い反応ではないように思える。


「いや・・・実物を見ていないからはっきりとしたことは言えないんだけどね?それはその筋の魔術師に見せればかなりの大発見だよ。調査隊を派遣して調査を進めたいくらいさ。でもそこから先が問題でね・・・それだけのものとなると欲しがる人も多いから・・・どうやって布告したものかなと」


「あぁ・・・なるほど。支部がそれを管理してるって言ったらその場所を報告するようなものですから密漁する人も出てくる・・・と」


「そうなると管理っていうか監視する人も必要になりそうですね・・・しかも毎日のようにやっておかないとあのコケすぐなくなりますよ?」


「そうなんだよねぇ・・・信頼のおける人だけに話すっていう手もあるけど、それだとその人に肩入れしてるといわれかねないし・・・これは難しい話だよ」


支部長という立場を考えると、このような報告をされ協会の管理下に置く以上はそれなりに平等な対応を取らなければならない。


協会の管理下に置くのであれば方法はいくつかある。協会の魔術師たちに全くそのことを告げず、秘匿事項として管理すること。


これが一番安全ではあるが、この場合協会の専属魔術師以外にこのことを告げることはできないためにあのコケの有効活用が難しい。


かといって有効活用しようとしてこれを一般の魔術師に告げようものなら不公平であると糾弾されかねない。


そうするとあのコケを監視、管理しなければならなくなる。そうでなければあのコケはすぐに根絶やしにされてしまうだろう。


平等になればコケはなくなり争いが増え、争いをゼロにしようとするとコケを有効活用できない。


なんとも強烈な板挟みに支部長は今揺れているのだ。康太たちが持ってきたのはそういう案件なのだ。


「と、とりあえずその現地に案内する準備をしてくれるかな?ことは急を要するから・・・こっちから人員は用意しておくよ」


「わかりました。ビー、私が山の案内に行くからあんたはさっさとそっちを片づけちゃいなさい」


「わかった・・・それじゃ支部長、部屋を一つかりますね」


「わかったよ。あぁそれと、ブライトビー、ライリーベル、今回の報告はどういう結果になるかはわからないけど君たちの評価に追加させてもらうよ」


評価に追加する。貴重な魔術的材料の発見などといった事柄も評価対象となる。


今回のこれがどの程度の評価につながるのかはわからないが、康太と文としては自分たちが見つけたわけではないために複雑な気分だった。


「俺たちが最初に見つけたわけではないんですけどね・・・」


「それでもさ。君たちは見つけた後で支部に報告に来た。支部に報告に来た初めての人間であれば評価を上げるのが支部の仕事だ」


確かに支部長の先ほどの驚き様からしてこの魔術師も、堤の妻もこのことを支部には報告していなかったのだろう。


そういう意味では康太たちが最初の発見者として支部には登録されるのだ。だがなんだか手柄を横取りしているような気がして康太と文は気が引けた。


「支部長、争いが起きるかどうかはさておいて、あれがそんなに貴重なものならやっぱり有効活用するべきだと思いますよ?」


「そうなんだけどね・・・どうしたものかな・・・」


「いっそのことうちの店で売りますか?期間限定数量限定予約必須とかにして」


康太は冗談で言ったつもりだったが、支部長は仮面の上からでもわかるほど大きく目を見開いていた。

なるほどそれもありかと何度かつぶやいた後に首を大きく横に振る。


「いやいや、そういう考えは後に・・・いや、クラリスのところで管理してるとなれば確かにほかの魔術師は手を出しにくくなるのは間違いないね・・・協会で管理してそれをクラリスのところで売るって大々的に布告すれば・・・」


後にしようといいながらも次々と新しい考えが生まれてくるのを止められないのか、支部長は康太と文がいるにもかかわらず何やら考えだしてしまっていた。


貴重なものを扱うのはそれなりにリスクがあることだ。そのリスクを鑑みても小百合の店で扱うことでのリターンのほうが大きいように思えてくるのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ