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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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相手が体勢を崩したのを見逃すほど康太は甘くはない。手持ちの槍に加え、ストックしてあった再現の魔術によって槍の斬撃と打突を一斉に魔術師に向けて放つが、魔術師は持っていた斧を盾代わりにしてそれを完全に防いで見せた。


すべての攻撃が斧に当たったが、斧は全くびくともしていない。攻撃単体ではあの斧を切り崩すことはできない。それは最初からわかっていたことだ。


康太はさらに崩れた相手のバランスをさらに崩すべく、遠隔動作の魔術を使って相手の足を掴み強引に転ばせようとする。


だがさすがに攻撃されている中でいつまでもバランスを崩した状態のままでいるほど相手も甘くはない。


斧の重りを利用して振り回すことで半ば無理やりに態勢を整え、康太に再度攻撃を仕掛けようと思い切り斧を振りかぶる。


そして踏み込むと同時に魔術を発動、康太たちがいる場所を中心にして円状に巨大で広範囲な土の壁を作り出して見せた。


康太一人であれば倒しきれると思っているのだろう。攻撃を繰り出しても斧に傷一つつけることもできなかったということが原因の一つだろうか。


相手は土の魔術を多用し始めている。先ほどから地味ではあるが康太の足場の地面を隆起させたり陥没させたりしてその動きを制限し始めていた。


近接戦において踏ん張りがきかないというのはかなり厄介だ。康太はそこまで踏み込んで攻撃を繰り出す威力重視の戦い方はしないとはいえ、足場が不安定というのは相当以上のデメリットとなり得る。


特に相手が重い一撃を繰り出すようなタイプの場合、受け止めるためにはしっかりとした足場でないと難しい。


康太は相手の魔術によって強制的に回避以外の手段をとれなくなってしまっていた。


だが相手が真理と同等程度の土属性の使い手ではなくて助かったとも思っていた。


もしこれで真理が相手だったら、もうすでに康太の足はからめとられ強制的に足を止めた戦いを強いられていたことだろう。


康太が素早く動くせいでとらえることができないのか、そういう類の魔術の発動が苦手なのか、どちらなのかはわからないが早い段階で相手に足を封じられなかったのは僥倖と思うしかない。


とはいえ文との間に巨大な土の壁を作られたということもあり、文の直接的な射撃による攻撃と補助は望めそうもない。


だが文はもとより直接的な射撃攻撃を得意としているわけではない。康太は次に文がどのような行動をとるかを考えながら目の前の魔術師による斧の攻撃を回避し続けていた。


攻撃に関しては先ほどからほとんど斧による攻撃しかしてこない。先ほどのような石をつなげての鞭のような攻撃も時折してきているが、文との訓練のおかげでそこまで面食らうことはなかった。


直線的な攻撃に加え曲線的な攻撃、だが近接戦を挑んでいるにしてはその動きはずいぶんとお粗末だ。


斧の重さに体がついていっていない。いや、正確に言えば斧を振り回しているというより斧に振り回されているというべきだろうか。


これだけの大きさの斧を持っているにもかかわらず、その本人の重心がおかしいことにも気づけた。


この時点で康太はなるほどと眉をひそめて相手の動きをさらによく観察してみることにした。


斧を振り回しているのにもかかわらず妙に軽やかに動いている、まるで斧の重さがないような動きだ。


だが実際には斧には重さがある。一撃一撃は風を起こし、たたきつければわずかに地面が揺れる。


高い威力を持っていても本人の膂力による運用はされていない。つまりこの斧は魔術によって操作されているということだ。


よくよく見てみれば腹の出た肥満体形なのだ、これだけ重そうな斧を簡単に振り回せていること自体を疑うべきだったと康太は眉をひそめていた。


近接戦を挑んでいながら、魔術による攻撃を同時に行っているということである。相手がこれ以外の攻撃や補助をあまり行ってこないのは、単純に同時に使える魔術に限りがあるからなのだろう。


近距離における康太の近接戦闘と遠距離における文の射撃攻撃を同時に扱われると、防御以外に取れる手段がなくなってしまうために文との連携を強引な形でもいいからやめさせたのだろう。


とはいえ康太も文もいつまでもこのままというわけにはいかない。これだけの分厚さの土の壁を破れるほど強力な一撃を文が放つことは不可能だろう。


文の攻撃は主に現象系だ。この土の壁を破るには同じように物理系の攻撃でぶち破るほかない。


文の物理系の攻撃は射撃攻撃に分類されるもので威力自体はかなり低い。それにこういった周囲に高い遮蔽物がある状況では文の攻撃も届きにくいのも確かだ。


康太はどうしたものかと少し考えてから襲い掛かる斧をよけると、周囲を囲んでいる土の壁を索敵で確認してから薄く笑う。


この程度の壁で自分を閉じ込めようとは笑止千万。そういうかのように康太は槍を軽く振りまわしてから全力で魔術師めがけて投擲する。


投擲された槍はまっすぐに魔術師めがけて飛んでいくが、斧によって簡単にはじかれ高々と上空へと弾き飛ばされていく。


その瞬間、康太は自分を覆っていたウィルに頼んで背中に隠していた第二の武器に手を伸ばす。


「お願いだから、うまく避けてくれよ?」


その声を聴いたわけではなかった。だが魔術師の中にあった直感だろうか、魔術師は康太が先ほどまでと違う動きをした瞬間、とっさに身をかがめた。いや倒れ込んだといったほうが正確だろう。


康太が背中に手を伸ばした瞬間、身体能力強化を限界まで引き上げると同時に拡大動作の魔術を発動、二本の剣を思い切り抜くとクロスを描くような形で振り切った。


いったいどのような攻撃だったのか、康太の姿を見ていた相手の魔術師は理解することもできなかっただろう。


とっさによけた。何が何だかわからないが危険だと感じ、伏せた瞬間それは魔術師の髪をわずかに斬った。


それが斬撃であると気付くのに時間は必要なかった、なぜなら先ほど自分が作り出した土の壁が康太の剣が描いた軌道そのままに切り裂かれているのだから。


拡大動作における最大の利点、それは広範囲になればなるほどその威力が増すという点にある。


さらに言えばその攻撃が振る動きであれば、距離があればあるほど威力が増すのだ。


拡大動作という魔術は起点の動きが変わらないのにもかかわらず、魔術によって作り出された動きは起点の動きに追従する。


つまり拡大する動作を広げ、なおかつ振りぬく動きをすると通常のそれよりも何倍も威力を増すのである。


未だつたない康太の剣捌きでも、この程度の分厚さの土の壁程度は容易に切り裂くことができる。


だがその分威力が高すぎるために使いどころが難しい。その証拠に土の壁の向こう側にあった木を二本ほど切り倒してしまっていた。


やりすぎたなと内心舌を出して反省している康太だが、このまま終わらせるつもりはなかった。


両手に持った剣を構えると周囲にある土の壁めがけて回転しながら斬撃を繰り出す。


先ほどの攻撃で康太の斬撃が飛ぶ、ないし拡大されているということに気付いた魔術師は即座に自分の真下の地面を隆起させ直上へ向けて退避行動に移る。


だが康太の斬撃によって土を切り裂かれ十メートル程度しか飛び上がることはできなかったが、それでも康太の攻撃を回避することは成功していた。


周囲の土の壁が一斉に切り崩され、土ぼこりが舞う中魔術師は斧をわずかに操り空中でも態勢を整えていた。


このまま頭上から落下し、康太に一撃をお見舞いしようと考えている中、金属音が魔術師の耳に届く。


いったいなんだと疑問符を浮かべていると、先ほどから自分が持っていた斧がバラバラに砕けているのである。


粉砕に近いほどに細かく打ち砕かれてしまっている斧、いったいいつの間に攻撃されたのかと先ほどまで全くなんともなかった斧の異常に魔術師は驚愕の表情を仮面の下で浮かべていたが驚きはまだ終わらない。


先ほど康太が投擲し魔術師がはじいたことで上空に投げ出された槍が魔術師よりも先に落下していくのが確認できた時、砕けた斧の破片がその槍に追従するかのように空中を移動し始めていた。


この段階で、槍がわずかにではあるが光を帯びていることに気付くことができた。


いったい何が起きているのか、そう考えたときにはもう遅かった。山の木々から飛び出した鞭がその槍めがけて波立つようにに伸びていくと強力な電撃が鞭を伝って放たれる。鞭からさらに槍へと伝わり、追従するように動いていた斧の破片を伝わり、電撃が魔術師めがけて襲い掛かる。


その体が電撃に包まれるのと同時に、康太は遠隔動作の魔術を発動し魔術師を上から思い切り殴ると地面にたたきつけた。


砕けて柔らかくなった地面に落下したおかげで、魔術師はまだ生きてはいるが、それなりの高さから落ちたということもあって肩の骨が完全に折れているようだった。


さらに言えば頭を強く打ったのか完全に脳震盪を起こし気絶してしまっている。何とか倒せたことに康太はため息をつく。


実戦で初めて拡大動作の斬撃を使ってみたが、これほどまで威力が出るものだとは思っていなかったためにその威力の高さに素直に驚いてしまっていた。


双剣笹船をウィルの中にしまうと、康太は落ちてきた槍をキャッチし臨戦態勢を一時的に解除する。


「ナイスフォロー、お前ならやってくれると思ってたよ」


「あんな形で道を作るのは初めてだったからちょっと戸惑ったけどね・・・でもうまくいってよかったわ・・・にしてもすごい威力だったわね・・・」


康太が使った拡大動作の斬撃における威力の高さを実感しているのか、文は周囲に転がる土の塊を見てため息をつく。


康太の攻撃魔術の中で拡大動作はかなり高い威力を有する魔術だ。瞬間的に攻撃範囲を拡大することができ、その威力も高めることができるがその分魔力を消費する。


簡単に使って見せてはいたが、これだけの威力を出したのだ、康太はかなりの量の魔力を消費しているはずである。


「ちなみにどれくらい消費したの?こんだけ使ったなら半分くらい?」


「いや、今ので大体二割だな。俺の供給口がもっと強ければこれくらいの攻撃を連発できるんだけど・・・やっぱりいざって時の奥の手になっちゃうな」


康太のようなタイプの魔術師ではここぞという時にしか使えないが、もっと高い素質を有している魔術師であればこのレベルの攻撃を簡単に連発することができる。


小百合クラスの実力を持った魔術師がこれを連発したらどうなるか。そう考えて文はわずかに恐ろしくなる。


さすが攻撃に重きを置いた魔術師だと文は感心しながらこの場に倒れている魔術師に目を向けていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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