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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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不意打ちの違い

康太たちがあらかじめ残していた道しるべをたどりながら山の中腹にあるコケの場所めがけて歩いていると、文がわずかに視線を鋭くする。


そしてその文の変調に気付いたのか、康太もわずかに警戒の色を強くしていた。


傍から見れば二人の動きは全く変わらない。変わっているのは意識の向け方と警戒の度合いだけだ。

この二人の変調に気付くことができるのはそれこそ二人の師匠か兄弟弟子くらいのものだろう。


「ビー、そろそろね」


「あぁ、目的地まであと少しだ・・・引き締めていこうぜ」


康太と文がそれぞれ山を歩いている中、文は徐々にその意識を自分たちの背後に向けていた。


文の索敵に引っかかっている魔術師は、二人の背後からこちらに徐々に近づいてきているのだ。


おそらく背後から一気に襲い掛かるつもりなのだろう。


奇襲するという意味では背後からの急襲は非常に有効的だ。最適解といってもいいかもしれない。


だがすでに索敵によってばれてしまっている以上奇襲は成功しない。相手を油断させるために何も気づいていないふりをしているが、相手からすれば採取に向かうのに夢中になっていて気づいていないとでも思っているのだろうか。


どちらにせよ、このまま放置してどれほどついてくるのかはわからない。


いつ攻撃を仕掛けてくるのかがわからないというのはなかなかに緊張感があるなと思いながら山道を登っていると、前を歩いていた康太が急に手を差し伸べてくる。


「大丈夫か?」


おそらく文の緊張を感じ取ったのだろうか、緊張を和らげようと意図的に穏やかな声を出してくる康太に文は苦笑してしまう。


近くにいる康太に気付かれるレベルならば自分はずいぶんと気を張っていたのだなと自らを戒めながら文はその手を取る。


ちょうど段差がある部分だったため、康太の手を借りながらその段差を軽く上ると文は大丈夫よと声を返す。


努めて明るい声ではないが、しっかりとした穏やかな声だ。緊張していても仕方がないと割り切った声である。


照準を向けられているからと言って緊張しているようでは相手をつり出せない。相手をしっかりとおびき寄せるためにはきっちりと攻撃されなければいけないのだ。


そしてその攻撃を完璧に防がなければならない。可能なら相手に見えないような形で、相手が追撃してくるような形で。


相手が攻撃をしてきても体のほうは微動だにさせてはいけない。物理攻撃か否かを瞬時に判断してウィルで防御しきれない分だけ自分で防壁を展開する。


簡単に自分がやるべきことを考えてはみたものの、実際にそれをやるとなるとなかなかに苦労する。


文は防御魔術はそこそこしか使えない。おそらく使えても平均程度の練度しか持ち合わせていないだろう。


それでも康太のそれよりもずっと高いレベルで扱えるが、そこまで防御魔術を練習したことがないために完璧に防げるとはいいがたかった。


後は野となれ山となれ。そう考えて掴んでいた康太の手を放すと、その瞬間背後から二人めがけて一斉に攻撃が襲い掛かってくる。


文は瞬時に索敵の魔術によってその攻撃がなんであるかを判断していた。


飛んできているのは棘のようなものだ。鋭いながらも滑らかな形状からして何かしらの鉱物であることがうかがえる。


現象系の攻撃ではなく物質的な攻撃であるのは間違いない。これならばウィルの防御でやり過ごすことができる。


文はそう判断して防御をウィルに任せることにした。康太もまた飛んでくる攻撃が物理的なものであると理解したため、あえて防御魔術は発動せずウィルに防御を任せることにしていた。


攻撃が二人に着弾した瞬間、二人はその衝撃を受けて前のめりに倒れかかる。威力そのものはほとんどなくなったが、物体が一斉に襲い掛かってきたその物理エネルギーは相殺しきれない。


体へのダメージがほとんどない代わりに体勢は崩されてしまった。


そして康太と文が前のめりに倒れると同時に、勢い良く襲い掛かってくる人影が一つ。


その手には斧を持ち、急速に接近すると後ろ側にいた文の頭部めがけてその斧を振り下ろそうと思い切り振りかぶっている。


だがその瞬間、文の前にいた康太が槍を振るい襲い掛かる斧を受け止めて見せた。


攻撃を受けたはずの康太が何の問題もなく動いていること、そして攻撃を受け止められたということに、斧を持った魔術師はわずかに困惑しているようだった。


だが康太は相手が困惑しているということを完全に無視してその仮面を覗き込む。その仮面のデザインは、明らかに奇抜な彩色をした、一度見たら忘れられなさそうな特殊なものだった。


「なかなかに熱烈な歓迎ありがとうミスターカラーパレット。不意打ちなんて卑怯な真似をするじゃあないか・・・許せないな」


普段あんたもよく不意打ちをしているじゃないのと文はつい突っ込みたくなったが、康太の不意打ちとこの男の不意打ち、文にとっては同じではなかった。


少なくとも文はこの男よりも断然康太の不意打ちのほうが好みだった。切磋琢磨した康太の不意打ちのほうがまだましだと、惚れた弱みも含まれた先入観にとらわれながら、自分をかばう康太の向こう側の魔術師をにらんでいた。


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